【新連載】アトピー性皮膚炎の診断基準と12の鑑別疾患 (大塚篤司氏)
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HOKUTO編集部

16日前

【新連載】アトピー性皮膚炎の診断基準と12の鑑別疾患 (大塚篤司氏)

【新連載】アトピー性皮膚炎の診断基準と12の鑑別疾患 (大塚篤司氏)
「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン」 が3年ぶりに改訂されました。 本連載では、 近畿大学皮膚科学教室 主任教授の大塚篤司氏に、 ガイドラインの要点を解説していただきます。 第1回は 「診断と鑑別診断」 についてです。

1. アトピー性皮膚炎の特徴は?

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アトピー性皮膚炎 (AD) は、 慢性の炎症性皮膚疾患であり、 瘙痒を伴う湿疹を主病変とする。 日本では乳幼児から成人まで幅広い年齢層で発症が見られる疾患であり、 日常診療において頻繁に遭遇する。

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ADの特徴は、 慢性かつ反復性の経過をたどり、 患者の生活の質 (QOL) に深刻な影響を与える点にある。 遺伝的要因、 環境因子、 皮膚バリアの異常、 免疫学的異常などの複数の要因が複雑に関与して発症し、 特に皮膚バリア機能の低下が病態形成において重要である。

ADの診断および鑑別診断を適切に行うことは、 患者に適切な治療を提供するために不可欠である。

2. アトピー性皮膚炎の診断は?

日本皮膚科学会が示すADの診断基準は以下の通りである。 この基準に基づき、 患者の症状を評価し、 診断を行う。

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なお、今回のガイドライン改訂において、 診断基準の変更はない。


3. 除外すべき鑑別疾患は?

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ADの診断に際して、 ガイドラインにも記載のとおり、 以下の疾患を除外する必要がある。 これらはADと類似の皮疹を呈するが、 病態や治療方針が異なるため、 正確な鑑別が重要である。

また、 ADとこれらの疾患が同時に存在する場合もあるため、 併存の可能性にも注意する。

1. 接触皮膚炎

特定の抗原に感作された部位に、 境界明瞭な湿疹を生じる疾患。 いわゆる"かぶれ"である。

化粧品、 金属、 外用薬などが原因となり得る。 特定部位に限局した皮疹や左右非対称性の分布が診断の手がかりとなる。

2. 脂漏性皮膚炎

頭皮、 鼻唇溝、 耳介後部などの脂漏部位に発症する紅斑と鱗屑を特徴とする疾患。 瘙痒は軽度で、 乳児では自然軽快することが多い。

なお、 体幹や四肢に湿疹病変がみられる場合はADの可能性を考慮する。

3. 単純性痒疹

均一な大きさの丘疹や小結節が多発し、 強い瘙痒を伴う疾患。 痒疹以外の湿疹病変がない場合はADとの鑑別が必要である。

4. 疥癬

ヒゼンダニの寄生による感染症であり、 強い瘙痒と特有の疥癬トンネル (線状の鱗屑) が特徴。 高齢者施設や病院での感染リスクを考慮し、 顕微鏡検査で虫卵や虫体の確認を行う。

5. 汗疹

エクリン汗腺の閉塞により、 紅色丘疹が多発する疾患。 いわゆる"あせも"である。

乳幼児や発汗の多い人に好発し、 体幹や四肢屈側、 頸部に発症する。 発汗状況や分布の観察が重要である。

6. 魚鱗癬

全身の皮膚が乾燥し、 粗造化して魚の鱗状の落屑を生じる遺伝性疾患。 湿疹病変がみられない場合、 ADとの鑑別が可能である。

7. 皮脂欠乏性湿疹

皮膚の乾燥によって発症する湿疹。 高齢者に多く、 冬季に悪化する。 下腿伸側に好発するが、 湿疹が他部位に広がる場合はADを考慮する。

8. 手湿疹

アトピー性皮膚炎以外の手湿疹を除外する必要がある。 物理的・化学的刺激やアレルギー反応による湿疹で、 特に水仕事の多い職業に発症しやすい。

9. 皮膚リンパ腫

慢性に経過する紅斑が特徴であり、 菌状息肉症やSézary症候群が代表的疾患。 病理組織検査により診断を確定する。

菌状息肉症の症例を以下に示す。

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10. 乾癬

銀白色の鱗屑を伴う境界明瞭な紅斑局面を特徴とする疾患。

11. 免疫不全による疾患

Wiskott-Aldrich症候群

難治性湿疹、 血小板減少、 免疫不全を三徴とする遺伝性疾患。

高IgE症候群

湿疹、 膿瘍、 血清IgEの異常上昇を特徴とする。 皮疹の詳細な観察と血液検査が必要である。

12. 膠原病

全身性エリテマトーデス (SLE)

蝶形紅斑や円盤状紅斑など、 特有の皮疹と全身症状が特徴。 血液検査所見も参考にする。

皮膚筋炎

ヘリオトロープ疹やゴットロン徴候などが代表的皮疹である。

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13. ネザートン症候群

常染色体劣性遺伝疾患であり、 アトピー性皮膚炎様の皮疹を呈する。 毛髪の結節性裂毛 (Bamboo hair) が診断の手がかりとなる。


4. 鑑別診断の実際は?

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臨床において、 患者の皮疹の性状、 分布、 経過を詳細に観察することが必要である。 特に湿疹病変の有無や分布の左右対称性は、 ADと他疾患を区別する重要な手がかりとなる。

また、 既往・家族歴、 生活環境、 アレルゲンへの暴露状況なども、 鑑別診断に役立つ情報である。


5. 診断の留意点は?

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ADは臨床型として、 屈側型、 乾燥型、 全身型などさまざまな表現型を示す。 これらの多様性を理解し、 適切な治療戦略を選択することが重要である。

また、 診断時には眼症状 (網膜剥離や白内障) などの合併症のリスク評価を行い、 必要に応じて専門家との連携を図るべきである。


アトピー性皮膚炎の診断および鑑別診断は、 疾患の多様性を考慮し、 慎重に行う必要がある。 正確な診断は、 適切な治療と患者のQOL向上につながる。 臨床医として、 患者一人ひとりの症状と背景を丁寧に評価し、 最適な治療方針を立てることが求められる。 
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出典 : 日本皮膚科学会ガイドライン. アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2024, 日皮会誌 : 134 (11), 2741-843.

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編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。

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