HOKUTO編集部
21日前
2024年9月13~17 日にスペイン・バルセロナで開催された欧州臨床腫瘍学会 (ESMO 2024) の乳癌領域における注目演題の主な結果や議論点について、名古屋市立大学共同研究教育センター臨床研究戦略部先端医療・臨床研究開発学分野特任講師の能澤一樹先生にご解説いただきました。
ヨーロッパ最大規模の腫瘍に関する学会であるESMO 2024へ参加しました。
ESMOの報告によると、 今回は5,030演題が提出、 その中で2,186演題が採択され、 全体の採択率は43%程度でした。 特に、 オーラルセッションに採択された演題はわずか151演題 (3%のみ!) であったことから、 演題採択がいかに困難なことであるかが想像できるかと思います。
もう1つの興味深い点は、 学会発表と同時に論文掲載された演題が計25演題と非常に多かったことです。 これは、 ESMOの戦略の1つだろうと思われます。
採択演題のうち、 乳腺領域では、 いくつも興味深い演題がありました。
KEYNOTE-522試験は、 すでに特集記事も配信されていますが、 早期トリプルネガティブ乳癌 (TNBC) に対する術前・術後の抗PD-1抗体ペムブロリズマブを、 術前化学療法単独を対照に検証した第Ⅲ相試験です。
これまで、 無イベント生存期間 (EFS) で有意差を認めたことは報告されていましたが、 全生存期間 (OS) に差は認められませんでした。 今回、 フォローアップ期間を5年に伸ばすことで、 OSにも有意差が示されたことは非常にインパクトがありました。 周術期TNBCにおけるペムブロリズマブはすでに保険診療で使用できますので、 我々の診療にもっとも影響があった演題と言えます。
NATALEE試験は、 再発高リスクのホルモン受容体(HR)陽性HER2陰性早期乳癌に対する術後療法として、 CDK4/6阻害薬ribociclib+内分泌療法併用の有効性を検証した第Ⅲ相試験です。
ribociclibは日本では未承認の薬剤ですが、 世界では転移再発乳癌に対してもっとも使用されている薬剤です。 今回、 NATALEE試験では3年間の投与終了後にもribociclibの効果が維持されていることが報告され、 この結果をもって、 2024年9月に米食品医薬品局 (FDA) は術後リボシクリブを承認しました。
SPY2.2試験は、 非常に先進的なプラットフォーム試験です。 臨床試験はあくまでその治療の有効性を検討するために実施するものであり、 試験の結果をもって有効な治療であるか否かが分かります。 一方でI-SPY2.2試験は、 試験治療の中でも個別化医療が行われていることが特徴です。
試験に参加した患者はまず、 遺伝子検査によってどのような治療が推奨されるかの反応予測サブタイプ (response predictive subtype;RPS) が決められます。 そのRPS分類の中で、 新薬を含む試験治療が行われます。 研究者たちは、 このような試験デザインを 「連続多段階ランダム割付試験 (sequential multiple assignment randomized trial ;SMART) 」 と名付けています。
治療が複雑であるため結果の解釈が難しいことが難点ですが、 I-SPY 2.2試験の中で、 抗TROP2抗体薬物複合体datopotamab deruxtecan (Dato-DXd) の単剤療法や、 抗PD-L1抗体デュルバルマブとの併用の有効性に関する報告がありました。 今後も本試験には注目していきたいと思います。
脳転移例はこれまで予後不良かつ薬物療法の効果があまり期待できない状態と認識されてきました。 しかしながら、 近年は薬物療法の発展により、 脳転移があっても有効性が期待できるような薬剤が登場しており、 特に、 抗体薬物複合体 (ADC) の効果が注目されています。
DESTINY-Breast12試験は、 前治療歴のあるHER2陽性転移性乳癌を対象に、 脳転移の有無を問わず抗HER2抗体薬物複合体トラスツズマブ デルクステカン (T-DXd) の有効性と安全性を評価した第IIIb/IV相試験で、 Nat Med誌に同時掲載されました。
結果としては、 脳転移を有する患者においてT-DXdが全身および中枢神経系で高い抗腫瘍活性を示し、 無増悪生存期間 (PFS) 中央値は17.3ヵ月、 奏効率 (ORR) は51.7%、 中枢神経系ORRは71.7%でした。 現在、 脳転移に対する治療は放射線治療や手術などの局所治療が優先されているものの、 もしかすると薬物療法で制御する時代が来るかもしれません。
ICARUS-Breast01試験は、 HR陽性HER2陰性乳癌に対するHER3標的ADCのpatritumab deruxtecan (HER3-DXd)の有効性と安全性を検証した第Ⅱ相試験です。 これまで、 HR陽性HER2陰性乳癌では、 HER2およびTROP2を標的としたADCの有効性が報告されていましたが、 ICARUS-Breast01試験ではORRが53.5%、 PFS中央値が 9.4 ヵ月と、 大変有望な結果が報告されました。
今後は、 「何を標的にしたADCがもっとも効果が高いのか」、 あるいは 「ADC治療後に別のADC治療を行うことの有効性」 などが課題になってくると考えられます。
ADCの発展が目覚ましい一方で、 抗体も、 モノクロナール抗体から二重特異性抗体までさらなる開発が進められています。 乳癌領域では、 化学療法または標的療法歴のない切除不能な局所進行または転移性TNBCに対し、 抗VEGF/PD-1二重特異性抗体ivonescimabの有効性と安全性を検証した第Ⅱ相多施設共同オープンラベル試験 (NCT05227664) の結果が報告され、 非常に有望な結果でした。 これからの二重特異性抗体の開発が楽しみです。
最後に、 第Ⅱ相WJOG14320B (ERICA) 試験です。 こちらも別記事で取り上げられていますが、 日本からの支持療法に関する素晴らしい試験結果です。
ADCや二重特異性抗体などの新規薬剤の開発が進むにつれて、 支持療法の重要性はさらに高まっています。 今後も日本からの発信が期待されます。
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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