【専門医寄稿】ESMO 2023 泌尿器の領域別トレンド解説
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HOKUTO編集部

6ヶ月前

【専門医寄稿】ESMO 2023 泌尿器の領域別トレンド解説

【専門医寄稿】ESMO 2023 泌尿器の領域別トレンド解説
今年の欧州臨床腫瘍学会 (ESMO 2023) は、 スペイン・マドリードで開催された。 マドリードはESMO開始に合わせたように急に肌寒くなり、 街路樹も秋の装いを見せていた。 それに対して、 ESMO会場は朝も暗いうちから夕方遅くまで、 世界中から多くのオンコロジスト達が集まり、 非常に熱気に帯びた発表と議論が繰り広げられた。

尿路上皮癌

EV-302/KEYNOTE-A39試験

【EV-302/KEYNOTE-A39】未治療進行尿路上皮癌へのEV+Pemでプラチナベースの化学療法のOSを上回る

 (Abstract#LBA6)

転移性尿路上皮がんに対する1次治療にとって、 最も重要な薬剤は長年シスプラチンであった。 本研究では、 抗Nectin-4標的抗体薬物複合体エンホルツマブ ベドチン + ペムブロリズマブ (EV+Pem) というシスプラチンを含まない併用療法が、 ゲムシタビン+シスプラチン/カルボプラチン併用療法に対し、 統計学的有意に全生存期間 (OS) を延長した(HR 0.47、 p<0.00001)。

コントロール群に現在の標準治療である抗PD-L1抗体アベルマブの維持療法を含む症例が30%しか入っていなかったなどの問題点はあるが、 OS中央値31.5ヵ月は驚くべき結果であり、 まさしくpractice changeと言って良いだろう。 このため、 日本でも近い将来、 標準治療の一つとして広く使われると考えられる。

しかしながら、 毒性については注意が必要である。 EV関連有害事象として、 末梢神経障害がAny gradeで63.2%、 Grade 3以上で6.8%、 皮膚障害がAny gradeで66.8%、 Grade 3以上で15.5%に認められ、 長期間の使用ではQOLに影響を及ぼすことが予想される。 今回の発表では、 薬剤の投与量や休薬についての詳細な情報は得られなかったが、 今後これらの情報を元に、 実臨床では、 副作用を最小にするような工夫が必要と考えられる。

CheckMate 901試験

【CheckMate 901】未治療尿路上皮癌へのニボルマブ+GC療法でOS・PFS改善

 (Abstract#LBA7)

転移性尿路上皮がんの1次治療として、 化学療法+免疫チェックポイント阻害薬の同時併用療法を検証する第Ⅲ相ランダム化比較試験がこれまでに2件行われた。 1つはKEYNOTE-361試験でペムブロリズマブ、 もう1つはIMvigor130試験でアテゾリズマブが、 シスプラチン/カルボプラチン+ゲムシタビンと併用されたが、 どちらの試験でも統計学的に有意なOSの延長は認められなかった。

本試験では、 対象をシスプラチン適格症例に限り、 ニボルマブ+ゲムシタビン+シスプラチン併用療法 (GC療法) が、 GC療法に対し、 統計学的に有意なOSの延長を示した (HR 0.78、 p=0.0171)。

本試験から、 免疫チェックポイント阻害薬の併用療法の効果は、 対象症例の設定や併用薬剤の種類によって影響を受けることが示されたのは、 今後の併用療法の開発にとって重要な知見である。

一方で、 本研究で得られたOS中央値21.7ヵ月という結果は、 異なる臨床試験の結果を比べることは避けるべきではあるが、 前述のEV-301試験のOSやJAVELIN Bladder 100試験のサブグループ解析(GC療法後のアベルマブ維持療法におけるGC療法開始時点からのOS)が31ヵ月を超えることを踏まえると、 やや見劣りする結果であった。 総合的に考えると、 残念ながら実臨床で、 ニボルマブ+ GC療法が使用される状況はほとんどないかもしれない。

腎細胞癌

LITESPARK-005試験

【LITESPARK-005】HIF-2α阻害薬belzutifanが既治療の進行腎細胞癌のPFS改善

 (Abstract#LBA88)

淡明細胞型腎細胞癌は、 VHL遺伝子異常により低酸素誘導因子(HIF)の増加が促されることが発癌のメカニズムであることが古くから知られていた。 これまで治療標的として開発が進められてきたVEGFやmTORはHIFの下流にあるシグナルであり、 より上流であるHIFを阻害する薬剤の開発が待ち望まれてきた。

本研究では、 HIF-2α阻害薬であるbelzutifanの効果を検証した初めてのランダム化比較試験であり、 1剤以上のVEGFR阻害薬と1剤以上の免疫チェックポイント阻害薬による前治療歴がある症例を対象に、 mTOR阻害薬であるエベロリムスに対して、 主要評価項目である無増悪生存期間(PFS)の有意な延長を示した(HR 0.75、 p<0.001)。 OSの結果はimmatureであり、 今後の発表が待たれるが、 近い将来日本でもbelzutifanの承認が予想される。

一方で、 どのラインでこの薬剤が使われるかについては、 議論が必要であろう。 現在の標準治療レジメンには、 イピリムマブ+ニボルマブとVEGFR阻害薬+抗PD-1/L1抗体の併用療法がある。 イピリムマブ+ニボルマブが使用された場合、 本試験の対象となるには、 その後1剤以上のVEGFR阻害薬の使用が必要であるため、 belzutifanは3次治療として使用されると考えられる。 一方で、 1次治療がVEGFR阻害薬+抗PD-1/L1抗体が使用された場合、 belzutifanを2次治療として使用するのか、 それとも1次治療で使用されていない他のVEGFR阻害薬を使用するのかは、 悩ましいところである。

しかしながら、 CONTACT-03試験 (1次もしくは2次治療として免疫チェックポイント阻害薬の投与後におけるカボザンチニブ vs カボザンチニブ+アテゾリズマブの第III相ランダム化比較試験) におけるカボザンチニブのPFS中央値が10.8ヵ月だったことを考えると、 本研究でのbelzutifanのPFS中央値が5.6ヵ月であり、 少なくとも2次治療でカボザンチニブが使用できるセッティングであった場合には、 belzutifanは2次治療の選択肢とはなり難いと考えられる。

前立腺がん

PSMAfore試験

タキサン系薬未使用のmCRPCへの177Lu-PSMA-617で増悪リスクを57%低減

 (Abstract#LBA13)

本研究は、 タキサン系薬剤未使用かつ、 第二世代アンドロゲン受容体経路阻害薬(ARPI)治療後に進行した転移性去勢抵抗性前立腺癌(mCRPC)を対象に、 177Lu-PSMA-617の効果を検証した初の第III相ランダム化比較試験である。

実臨床では、 転移性ホルモン感受性前立腺がん(mHSPC)の状態で、 既にARPIが使用されている事が多いが、 本試験では、 そのような症例は約19%しか含まれておらず、 残りはmCRPCの1次治療としてARPIが使用されていた。 また、 本セッティングにおける標準治療は確立しておらず、 一般的にはドセタキセルが使用される。 一方で、 殺細胞性抗癌薬の使用を嫌う患者はある一定数存在し、 これまでに使用されていないARPIが使用される場合も多い。 その観点するからすると、 ARPIのスイッチは本試験のコントロールアームとしてはやや弱い印象がある。

そのような背景もあるものの、 主要評価項目であるPFSはHR 0.43と非常に良好に延長しており、 177Lu-PSMA-617の有効性を十分に示した。 しかしながら、 OSに関しては、 まだ中間解析の状況ではあるが、 クロスオーバーを補正した解析においても、 HR 0.80 (信頼0.48-1.33)と有意差を示せなかった。

現時点では、 国内で177Lu-PSMA-617は承認されていないため、 本試験結果を持って、 日本の実臨床に変化はない。 しかしながら、 今後、 国内で承認された場合、 この治療をどのセッティングで使用するかは難しいところである。 OSが変わらないのであれば、 これまで通りドセタキセル後の使用でも良いという考え方もある。 一方で、 本研究で示された、 本治療法の副作用の軽さは注目すべき点の一つであり、 患者にとってはより好まれる可能性もある。 今後QOL研究の結果も重要になってくるかもしれない。

まとめ

ESMO2023において最も注目された演題は、 間違いなくEV-302試験であった。 この試験が成し遂げた結果は、 単に一がん種の標準治療が変わったという意味を持つだけでなく、 プラチナ感受性のがん種において、 1次治療からシスプラチンを必要としない標準治療が誕生した、 即ち人類がシスプラチンからとうとう卒業できる可能性を示しており、 それを免疫チェックポイント阻害薬と抗体薬剤複合体 (ADC) の併用療法で達成したという事が、 近年の腫瘍学の発展を象徴していたように思う。 

まさに腫瘍学における歴史的瞬間であり、発表後のStanding ovationによる鳴り止まない拍手がそのことを物語っていたように思う。

【専門医寄稿】ESMO 2023 泌尿器の領域別トレンド解説
(EV-302の結果に拍手に包まれるESMO2023会場より、三浦氏提供)
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編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。

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