Beyond the Evidence
1年前
「Beyond the Evidence」 では、 消化器専門医として判断に迷うことの多い臨床課題を深掘りし、 さまざまなエビデンスや経験を基に、 より最適な解決策を探求することを目指す企画です。 気鋭の専門家による充実した解説、 是非参考としてください。
転移再発膵癌に対するゲムシタビン+ナブパクリタキセル後の2次薬物療法の選択肢は?
がん種別で最も予後の厳しい転移再発膵癌でも、 適切な逐次薬物療法を行っていくことが課題である。 本邦ではゲムシタビン+ナブパクリタキセルが1次薬物療法として最頻であり、 その後の選択肢として、 nal-IRI+FF療法、 mFOLFIRINOX療法、 S-1療法に迷うケースが想定される。
ガイドライン上の位置付けを確認すると、 そもそも2次薬物療法自体が弱い推奨にとどまり、 ゲムシタビン関連レジメン後の2次薬物療法としては、 nal-IRI+FF療法、 mFOLFIRINOX療法、 S-1療法のいずれも弱い推奨として提案される。
2次化学療法のOS延長効果は2000年代前半のCONKO-003試験に遡り、 BSCに対しOFF療法 (オキサリプラチン+フォリン酸+5-FU) のOSにおける優越性が示された (HR 0.45)¹⁾。 しかし、 5-FUに対するオキサリプラチンの上乗せはその後のCONKO-003試験 (OFF療法) とPANCREOX試験 (mFOLFOX6療法) で相反する結果となっており、 このことから単純なFOLFOX療法には推奨が与えられていない。
その中で比較的明確なエビデンスをもつのがnal-IRI (ナノリポソーマルイリノテカン) +FF療法で、 NAPOLI-1試験のFF療法 (フォリン酸+5-FU) とnal-IRI+FF療法の比較においてOSにおける優越性が示されており〔6.1カ月 vs. 4.2カ月、 HR 0.67 (95%CI 0.49–0.92)〕²⁾、 オキサリプラチンと異なりnal-IRIの5-FUに対する上乗せは明らかとなっている。
mFOLFIRINOX療法は2次治療でのエビデンスに乏しいこと、 S-1療法は単群の第Ⅱ相試験に留まること、 を総合すればエビデンス上はnal-IRI+FF療法が頭ひとつ抜けているといえる。 また、 NAPOLI-1試験でも特定のサブグループで悪いといった点もみられていないので、 とりあえずゲムシタビン関連レジメン後にはnal-IRI+FF療法を使っておけば間違いない、 というオールラウンダー的な安心感もあり、 第一選択といえる。
mFOLFIRINOX療法とS-1療法の2次治療における第Ⅲ相試験としては、 実は韓国から早期中止となった小規模な試験 (MPACA-3試験) は報告されていて、 OSはmFOLFIRINOX療法がS-1療法に対し有意に長かった (HR 0.4)³⁾。 ただしこれは対照群がS-1療法なため、 nal-IRI+FF療法がある現在においてmFOLFIRINOX療法を積極的に用いる根拠にはならない。 nal-IRI+FF療法とmFOLFIRINOX療法の前向きな比較はないが、 韓国から比較的大規模な後方視的研究があり、 全体集団でのOSは有意差がなかったとされている。 サブグループでは70歳未満でややmFOLFIRINOX療法に良好な傾向があり、 若年者の一部でmFOLFIRINOX療法が有効な可能性は残されている⁴⁾。
結局のところ、 特定の集団にmFOLFIRINOX療法やS-1療法を推す根拠はないため、 ひとまずnal-IRI+FF療法を選択しておけばよい、 ということになる。 例外的には、 gBRCA遺伝子変異陽性に対してはプラチナ系薬剤の有効性が高いためmFOLFIRINOX療法を選択したい、 CVポート留置が患者意向や施設事情で困難な場合はS-1が唯一の選択肢となる、 といったことは挙げられるだろう。
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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