HOKUTO編集部
9ヶ月前

再生医療の分野で世界的な功績を挙げてきた大阪大学大学院医学系研究科特任教授/大阪けいさつ病院院長の澤芳樹氏。 その視線は今、 一人の臨床医、 研究者の枠を超え、 日本の医療システム全体の未来へと注がれている。 澤氏は、 2027年に開催される第32回日本医学会総会の会頭を務めるが、 同総会で掲げる 「医学のレジリエンス」 とは何を意味するのか。 そして、 制度疲労が指摘される国民皆保険、 多様化する若い医師たちのキャリア観に、 何を思うのか。 HOKUTO編集部による会頭インタビューを皆様にお届けする。
ー 2027年の日本医学会総会の会頭として、 「医学のレジリエンス~未来への挑戦と貢献~」 をメインテーマに掲げられています。 テーマに込めた想いをお聞かせください
澤先生 : 「レジリエンス」 とは、 変化への適応力や困難からの回復力を指します。 今の日本医療は、 少子高齢化、 新興感染症、 増大する医療費など、 まさに数々の難題に直面しています。 これらを乗り越えるためには、 医療システムそのものがしなやかさと強さを備えなければなりません。
その鍵のひとつが、 AIやIoT (Internet of Things)、 ICT (情報通信技術)、 ロボティクスといったデジタル技術の活用です。 これらのテクノロジーは、 診断や治療の精度を上げ、 医師の負担を軽減し、 地域医療格差を埋めるポテンシャルを秘めています。 こうした変革を恐れず、 積極的に取り入れていく姿勢こそが、 未来の医療における 「レジリエンス」 の核となります。

しかし、 技術だけでは不十分です。 それを動かす 「組織」 の変革が不可欠です。 長年、 日本の医学界には、 本来手を携えるべき医学会と医か師会の間に見えない壁がありました。 今回の総会では、 医師会長と医学会長が共に未来に向けて初めて鼎談を行うという、 歴史的な一歩を踏み出します。 開業医の先生方が中心の医師会と、 大学や大病院の臨床を動かす我々医学会が、 派閥や立場を超えて連携し、 次世代の育成や制度改革に本気で取り組む。 その覚悟が問われています。
ー 制度という点では、 国民皆保険の持続可能性も大きな課題です
澤先生 : その通りです。 私は、 医科は 「歯科から学ぶべきだ」 と常々思っています。 なぜか。 歯科は診療報酬を低く抑えられてきた歴史から、 保険診療の枠に安住せず、 インプラントのように新しい技術を自由診療でビジネス化し、 自ら道を切り拓いてきました。

医科も、 国民皆保険という素晴らしい制度を守り続けるためにこそ、 自由診療の導入といった議論から逃げてはいけません。 イノベーションを正当に評価し、 患者さんに選択肢を提供し、 その収益をさらなる研究開発や医療の質向上に還元する。 そうした健全なサイクルを創り出す必要があります。
もう一つ、 大きなジレンマが 「医師の働き方改革」 です。 もちろん過重労働は是正されるべきですが、 一方で 「もっと働いて技術を磨きたい」 「もっと稼ぎたい」 という意欲ある若手医師の成長機会を奪ってしまってはいないか、 という強い懸念があります。 米国や韓国、 中国で 「早く帰れ」 なんて言う人はいません。 世界のライバルたちが猛烈に努力している中で、 このままでは日本の国際競争力は確実に低下します。 制度として一律に制限するのではなく、 個人の意欲と成長を最大限に引き出す仕組みを考えなければ、 未来はありません。
ー 先生は、 若い世代の価値観の変化をどうご覧になっていますか
澤先生 : 今の若い先生方は、 ライフワークバランスを重視し、 自分のために医師になるという価値観を持つ人が増えています。 それ自体は決して悪いことではありません。 しかし、 かつての 「世のため人のため」 という献身的な情熱が少し薄れてしまうと、 目的意識が曖昧になり、 どこか甘さが出てしまう危険性があります。
グローバルな視点で見れば、 残念ながら 「今のままでは日本の医師はぬるい」 と言わざるを得ません。 私が交流する中国や韓国の若手医師たちは、 熾烈な競争を勝ち抜くために必死で勉強し、 驚くほどのハングリー精神を持っています。 彼らと同じ土俵で戦った時、 果たして今の日本の若手が勝てるでしょうか。 これは文科省の教育方針の問題でもあるかもしれませんが、 我々自身が危機感を持つべきです。

これからの時代に求められるのは、 単一の専門知識だけではありません。 多様な価値観を理解し、 テクノロジーを使いこなし、 そして何より 「世界を舞台に挑戦するマインド」です。 私が次世代イノベーターの学生団体である 「inochi WAKAZO Project」 などを通じて若い世代の活動を支援するのは、 彼らに命の重みと、 自らの手で未来を創る当事者意識を持ってほしいからです。
日本の医療の未来は、 間違いなく若い先生方の双肩にかかっています。 どうか内向きにならず、 高い志と広い視野を持って、 未来への挑戦と貢献を続けてほしい。 心からそう願っています。
会頭 : 澤 芳樹 (大阪大学大学院医学系研究科、 大阪けいさつ病院)
公式サイト: https://isoukai2027.jp/
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。