HOKUTO編集部
9時間前

免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) 投与後にCrが上昇した際、 安易に脱水や併用薬の影響と判断していないだろうか。 ICI関連腎障害は急性間質性腎炎が最多だが、 多彩な病型を取り得る。 腎臓内科医はどの所見に注目するのか、 「腎腫大」 というヒントも含めて思考ロジックを解説する。
68歳男性。 切除不能な進行・再発の非小細胞肺癌に対して抗PD-1抗体ニボルマブ (1回240mgを2週間間隔) による治療を開始した。
3サイクル目投与の約2週間後、 倦怠感を主訴に外来受診した。 主な所見は以下の通り。
身体所見
血圧128/76mmHg、 脈拍82bpm、 体温36.8℃
浮腫なし、 発疹なし。
血液検査
Cr 1.8mg/dL (2ヵ月前は0.9mg/dL)、 eGFR 35mL/min/1.73m²、 好酸球5%、 CRP 0.8mg/dL
尿検査
蛋白 (1+)、 潜血 (±)
尿沈渣で白血球円柱を散見、 尿中好酸球は陰性。
画像所見
腹部単純CTで両側腎の腫大あり (長径 : 右12.4cm/左12.8cm、 ベースライン撮影と比較して約25%の容積増加)。

本症例では 「ICI関連腎障害を第一に疑う。 他科とすり合わせながら早めに腎生検の検討に入る」 と返答する。
ICI投与後にCrが上昇したとき、 鑑別は大きく3つに分かれる。

本症例のように 「Cr倍化 (0.9→1.8) 」、 「尿沈渣で白血球円柱」、 「両側腎腫大」 が揃うとき、 腎前性や造影剤・併用薬による腎障害では説明しにくい。 ICIを被疑薬として動くのが妥当である。
頻度 : 併用療法でリスクが高まる
ICI投与患者の急性腎障害 (AKI) 発症率は、 臨床試験で2~4%、 実臨床データでは累積発症率が1年で約5~10%と報告される¹⁾²⁾。 薬剤別には、 ニボルマブ単独で1.9%、 抗PD-1抗体ペムブロリズマブ単独で1.4%、 抗CTLA-4抗体イピリムマブ単独で2.0%、 イピリムマブ+ニボルマブ併用では4.9%と、 併用療法でリスクが高まる³⁾⁴⁾。
重症例 (KDIGO stage 2以上) は全体の1~3%程度だが、 ICIの使用拡大に伴って絶対数は増えている。
病型 : AINが最多だが、 それだけではない
腎生検で最も多いのは急性間質性腎炎 (acute tubulointerstitial nephritis; AIN) で、 組織学的には50~90%を占める³⁾。 好酸球浸潤を伴うこともある。
ただし、 ICI関連腎障害は 「AINだけではない」 ことを押さえておきたい。 ポドサイト障害型として微小変化型ネフローゼや巣状分節性糸球体硬化症 (FSGS)、 また血栓性微小血管症 (TMA) や尿細管炎を伴うAIN様病変も報告がある。 同一症例で複数病型の所見を認めることもある。
「間質性腎炎では両側腎が腫大する」 というのは古典的所見として教科書にも載っているが、 実臨床で意識されていないことが多い。
ICI関連腎炎ではこの所見が特に目立ち、 研究では発症時の総腎容積がベースラインから平均25%程度増加し、 44%の患者で30%以上の容積増加を認めた⁵⁾。 この容積増加は、 腎毒性Grade・Cr上昇幅・治療強度と相関しており、 回復期には腎サイズが縮小すると報告されている⁵⁾⁶⁾。
日常診療では、 ICI投与後にCrが上がったら、 採血・尿所見だけでなく、 治療前のCTと比較して腎サイズが大きくなっていないか見直したい。 原疾患評価のためのCTは定期的に撮影されていることが多く、 ベースライン画像が手元にあるという点は、 他の薬剤性腎障害との大きな違いである。 さらに、 超音波でもベッドサイドで腎サイズ増大を評価できる点も強みである。
本症例は 「Cr倍化、 白血球円柱、 両側腎腫大、 投与2週間後の発症」 が揃っている。 そのため、 ICI関連AINを強く疑い、 以下のように対応する。
ICIの中止が可能か、 腫瘍内科と相談する。
NSAIDsやPPIなど、 AINを誘発する薬剤を中止する。
治療方針 (ステロイド導入・ICI再開可否) に直結するため、 可能な施設であれば積極的に行う。
なお、 NCCNガイドラインでは重症度別に基準を記載している⁷⁾。
Stage 2 AKI : 5~7日以内に改善がない場合、 または新規蛋白尿がある場合は腎生検を検討
Stage 3 AKI : 5~7日以内に改善がない場合、 または新規蛋白尿がある場合は腎生検を実施
ASCOガイドラインでは 「Grade 2以上のICI関連腎炎に対してプレドニゾロン0.5~1mg/kg/日*、 症状改善後4~6週かけて漸減する」 ことを推奨している⁸⁾。
日本腎臓学会による 「がん薬物療法時の腎障害診療ガイドライン2022」 においても、 上記に準じた治療が提案されている⁹⁾。
NCCNガイドラインでは、 重症度別に具体的な用量を明示している⁷⁾。 対応は以下の通り。
Stage 2 AKI : プレドニゾロン 0.5~1mg/kg/日で開始
Stage 3 AKI : プレドニゾロン、 またはメチルプレドニゾロン静注 1~2mg/kg/日で開始
Stage 2 AKIが1週間以上持続 : プレドニゾロン、 またはメチルプレドニゾロン静注 1~2mg/kg/日へ増量・変更
多くの症例でCrは改善し、 原疾患治療と両立できる。 重要なのは 「早期に疑い、 早期に介入する」 ことである。

<出典>
1) J Am Soc Nephrol. 2020; 31: 435-446.
2) Clin J Am Soc Nephrol. 2019; 14: 1692-1700.
3) J Immunother Cancer. 2021; 9: e003467.
4) Front Immunol. 2020: 11: 574271.
5) Eur Radiol. 2023; 33: 2227-2238.
6) Abdom Radiol (NY). 2022; 47: 3301-3307.
7) National Comprehensive Cancer Network : Management of Immune Checkpoint Inhibitor-Related Toxicities. Version 1.2026.
8) J Clin Oncol. 2021; 39: 4073-4126.
9) 日本腎臓学会編 : がん薬物療法時の腎障害診療ガイドライン2022.


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note : Dr.長澤の腎臓内科ラジオ

編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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