里帰り分娩死亡事案を受け…どうなる能登の周産期医療
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2ヶ月前

里帰り分娩死亡事案を受け…どうなる能登の周産期医療

里帰り分娩死亡事案を受け…どうなる能登の周産期医療
こんにちは、 Dr.Genjohです。 連載 「データが示す 石川の未来図」 の最終回となる5回目は、 石川県の周産期医療の今後について考察します。

里帰り分娩死亡事案を振り返る

2021年6月、 痛ましい事案が発生しました。

東京都在住で妊娠35週の妊婦が、 里帰り出産のために輪島市内の病院に入院しました。 産婦人科の主治医はお産が進んでいないと判断し、 有給休暇を取得。 正午前に病院を離れたものの、 妊婦の容体が悪化したため午後4時前に病院に戻り、 そのまま娩出に至っています。

新生児は他院へ搬送されましたが翌日に死亡。 その後の調査で妊婦が常位胎盤早期剝離を発症していたことが明らかになりました。 最終的に輪島市長と病院長が陳謝し、 市が遺族に5825万円を賠償金として支払っています。

統計からみる石川の分娩

県全体の産婦人科医師は全国平均より多い

里帰り分娩死亡事案を受け…どうなる能登の周産期医療
石川県 「第1回赤ちゃん協議会」 の資料より

上記の問題を考えるにあたり、 まずは石川県の分娩に関わる需要と供給について確認しましょう。 石川県が2022年に開催した 「第1回赤ちゃん協議会」 によると、 需要 (分娩数) は年々徐々に減少傾向にありますが、 石川全体で2021年時点でも7814件の分娩がありました。

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石川県 「第1回赤ちゃん協議会」 の資料より

次に供給=石川県の産婦人科が充足しているかどうか (供給) の現状を確認しましょう。 分娩の可能性がある15~49歳女性の人口10万人対産婦人科医師数を全国平均と比較した場合、 石川県の医師数は全国平均よりも実は多いのです【上図参照】。

能登北部は極端に不足

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石川県 「第1回赤ちゃん協議会」 の資料より

ただ、 石川県の産婦人科医師の大部分は石川中央二次医療圏に集中しており、 最も数が少ない能登北部では2020年時点で産婦人科医師は2人しか在籍していません【上図参照】。

里帰り分娩死亡事案を受け…どうなる能登の周産期医療
石川県 「第1回赤ちゃん協議会」 の資料より

産婦人科の中でも分娩に対応できる医師は限られており、 2022時点で能登北部はわずか1人しか在籍していません。

事案はなぜ発生したか?

石川の産婦人科数は十分であるにも関わらず、 能登北部に配属された分娩に対応出来る医師がわずか1人であったため、 その1人が有給休暇で病院を離れた際に起こった急変に対応する人員が居なかった――。 これが問題の本質であると考えられます。

約6万人が在住する能登北部医療圏のお産を24時間365日たった1人の医師に担わせる態勢は、 地域に安全な分娩を提供する意味でも、 2024年4月から始まる医師の働き方改革に照らして考えても、 問題があると考えられます

能登の分娩体制を守るために

この問題を適正化するために石川県では 「赤ちゃん協議会(周産期医療提供体制を検討する協議会)」 が発足しました。 人員配置の適正化によるチーム医療の確立、 分娩取扱医療機関のバックアップ体制の確保、 産婦人科の医師の確保や育成などについて協議されています。

報道などによると、 事案が発生した病院では、 ただ1人在籍していた常勤の産婦人科医が2023年10月に退職。 同病院に石川県立中央病院から2人の産婦人科医が月替わりで派遣されることで、 能登北部の分娩体制は何とか維持されているようです。

改善を経て、 石川県のどこに住んでいても安全な分娩処置を受けられる日が来る事を望んでやみません。

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