寄稿ライター
3日前

こんにちは、 Dr.Genjohです。 2026年度の診療報酬改定は、 慢性的な赤字に喘ぐ医療機関にとって 「恵みの雨」 のようだとの報道がなされています。 新シリーズ 「検証 +3.09%の真実」 第1回は、 このプラス改定の内側に潜む落とし穴を掘り下げます。
今回の改定は403㌻と膨大です *¹⁾。 詳細は後述しますが、 「厚労省の求める内容通りに対応しなかった場合、 次回から懲罰的な減算を課す」 という趣旨が複数含まれています。
「変化についていけない医師はそのまま置いていくよ」 と宣告する厳しい時代といえます。
2026年診療報酬改定では全体で+3.09%の上昇とされています。 その内訳を見ると、 過半数にあたる+1.70%は賃上げのための財源です。 【図1】

今年の春闘では大手企業のベースアップに満額回答が相次ぎ、 第一生命研究所によると、 一般労働者の所定内給与は前年比+2~3%の伸びを示しています。
我々医師の給与も同様に引き上げられる!厳しい労働環境に耐えて頑張ってきた甲斐がありましたね。 万歳!
……と喜ぶ前に、 ベースアップ加算の対象職員の定義をよく確認しましょう。

【図2】の右側をご覧ください。 賃上げ目標は令和8年度に+3.2%、 令和9年度にさらに+3.2%。 看護補助者・事務職員に至っては+5.7%の大盤振る舞いです。
ところが対象から除外されているのが 「40歳以上の医師、 歯科医師、 薬局薬剤師、 業務委託により勤務する者」 です。

つまり、 病院側は、 40歳以上の医師の給与を上げなくても、 ベースアップ加算を堂々と算定できます。 「雲行きが怪しくなってきた」 どころではありませんね。
現在40歳未満の先生も他人事ではありません。 自分が40歳に達した後の昇給が鈍化・停止する可能性が、 国によって正式に示唆された状況です。 これまで通り安穏としていられますでしょうか?

+3.09%のうち、 昨今の物価上昇への対応として充てられている財源は+0.76%です。 しかし消費者物価指数は2020年を100とした場合、 2026年2月時点で112.2まで上昇しており *²⁾、 この程度では到底穴埋めになりません【図3】。
食費・光熱水費に充てられた財源に至っては+0.09%。 経済産業省の公表資料によると、 電気代だけを見ても、 2021年7月から2024年11月にかけて低圧電力で1.3倍、 高圧電力で1.6倍に跳ね上がっています。 +0.09%で1.6倍の電気代をまかなえるとは、 残念ながら誰も思わないでしょう。
診療報酬が国の言い値で固定される保険診療は、 デフレ時代には相対的に守られた存在でした。 しかしインフレが加速した現在、 価格転嫁の手段を持たない医療機関は、 陸に打ち上げられた魚のように静かに窒息しかかっています。

医療法人経営情報データベースによれば、 病院組織支出の56.3~64.7%と最大の支出項目は人件費です【図4】*³⁾。 経営が逼迫した医療機関が人件費の削減に動くのは、 避けられない流れでしょう。
人件費の削減手段は大きく2つしかありません。 「数を減らす (リストラ) 」 か 「単価を削る (給与ダウン) 」 かです。
ただし、 先述のベースアップ加算の条件を思い出してください。 ほとんどの職員については、 減らすどころか年3.2%ずつ引き上げていかなければならないのです。 困りましたね。
さて、 給与を削ってもベースアップ加算の条件に影響しない職員は……誰でしたっけ?

報酬改定の話に戻ります。 今回はベースアップ加算の算定履歴によって、 受け取れる金額に差がつく仕組みになっています。
2024~2025年度から早期に算定していた医療機関は、 その積み上げ分に加えて2026年度の増分も受け取れます。 一方、 算定していなかった医療機関は今更申請しても2026年度分のみ。 この差が恒久化するかどうかはまだわかりませんが、 国からのメッセージは明快です。
「さっさと俺の指示を聞いておけよ。 ついてこなかったやつはどうなっても知らないぞ」

過激に聞こえるかもしれませんが、 私個人としてはそれほど誇張した表現ではないと考えています。
かつての診療報酬改定では、 基礎点数を下げたうえで条件を満たさない加算を削るという、 間接的な方法で実質的な減算を行ってきました。
ところが今回の改定では、 ベースアップ加算を算定していなかった病院の入院基本料に 「減算」 という言葉が明示的に使われています。中身は従来と大きく変わらないようにみえても、 国からのメッセージ性はより強烈になっています。
¹⁾厚生労働省 : 令和8年度診療報酬改定について 【医科全体版】
²⁾総務省 : 2020年基準消費者物価指数, 全国2026年2月分
³⁾厚生労働省 : 医療機関等を取り巻く状況について

Xアカウント : @DrGenjoh

編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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