HOKUTO編集部
2日前

2026年5月29日~6月2日に米国・シカゴで米国臨床腫瘍学会年次総会 (ASCO 2026) が開催されました。 本稿では、 国立がん研究センター中央病院 頭頸部・食道内科 医員の山本駿氏に、 同会における消化器癌領域の注目演題と、 発表内容から感じられた印象についてご解説いただきました。

切除可能な局所進行食道扁平上皮癌に対する本邦の標準的な周術期治療は、 JCOG1109試験の結果から術前DCF療法とされています。 近年は術前FLOT療法の開発も本邦を中心に進められ、 2026年のASCO-GIでは本邦の第II相試験で良好な長期成績が報告されました。
今回のASCO 2026では、 この術前FLOT療法の第II相試験における循環腫瘍DNA (ctDNA) 解析の結果が報告されました。
術前FLOT療法の第II相試験は未治療の切除可能な局所進行食道扁平上皮癌を対象とした多施設共同研究であり、 今回の解析では34例が対象でした。
術前化学療法後のctDNA statusと無増悪生存期間 (PFS) の関連において、 ctDNA陰性例ではPFS中央値は未到達であり、 陽性例ではPFS中央値は11.6ヵ月でした (HR 3.17、 95%CI 1.22–8.21)。
またctDNAの推移 (治療前/術前化学療法後/手術後) とPFSの関連についても検討され、 結果は以下のとおりでした。

術後早期 (術後2~12週) のctDNA statusとPFS/全生存期間 (OS) の関連は以下のとおりでした。

消化器癌におけるctDNA研究は大腸癌が先行しており、 複数の大規模な臨床データの蓄積が進んでいます。 一方、 食道扁平上皮癌領域のエビデンスは限られており、 今回の第II相試験のctDNA解析も非常に重要なエビデンスと考えられます。
また、 近年は本試験の対象において高侵襲な食道切除を回避し、 化学放射線療法を中心とする食道温存治療の開発も進められています。 しかし、 最適な症例選択の方法には課題が残っています。 本試験で術前化学療法後のctDNA statusやctDNAのクリアランスが予後と関連し得ることを踏まえると、 食道温存戦略の症例選択時にctDNA解析が重要なツールとなる可能性が示唆されます。
切除不能な進行食道扁平上皮癌に対する標準的な初回薬物療法は、 抗PD-1抗体薬+シスプラチン+5-FU併用療法、 または抗PD-1抗体薬ニボルマブ+抗CTLA-4抗体薬イピリムマブ併用療法です。 一方、 2次治療以降の選択肢は限られ、 パクリタキセル単剤療法が頻用されています。
こうした背景から複数の抗体薬物複合体 (ADC) の開発が進められており、 今回EGFRとHER3を標的とし、 ペイロードとしてトポイソメラーゼⅠ阻害薬であるEd-04を有する二重特異性ADCであるiza-brenの第III相試験 (PANKU-Esophageal01試験) が報告されました。
PANKU-Esophageal01試験は、 抗PD-1/PD-L1抗体薬とプラチナ系薬剤に不応となった切除不能な進行・再発食道扁平上皮癌を対象とし、 化学療法単剤 (イリノテカン、 パクリタキセル、 ドセタキセルのいずれか) を対照群、 izalontamab brengitecan (iza-bren) を試験治療群とした、 中国で実施された第III相無作為化比較試験です。
主要評価項目はPFSとOSの2つで、 497例が登録されました。 中間解析の段階ですが、 以下のとおりPFS、 OSともにiza-bren群の優越性が示されました。

安全性については、 grade 3以上の治療関連有害事象が化学療法単剤群60.2%、 iza-bren群85.1%に報告され、 iza-bren群では白血球減少 (49.4%)、 好中球減少 (45.4%)、 貧血 (43.0%) の頻度が高くみられました。 一方、 間質性肺炎はiza-bren群で全gradeでも1.6%にとどまりました。
食道扁平上皮癌に対する現在の治療開発の主流はADCですが、 本邦で実施されているI-DXdは第III相試験段階、 TROP-2を標的としたADCは第I相試験段階です。
その中で、 中国のみで実施された第Ⅲ相試験ではありますが、 これらに先駆けて優越性を証明したiza-brenは、 生存期間の延長のみならず客観的奏効率 (ORR) も35.3%と良好な結果が報告されました。 さらに、 間質性肺炎の頻度も限定的であることから、 有効性・安全性ともに有望な治療薬と考えられます。 今後はiza-brenが本邦も含めた国際共同研究で検証されることが期待されます。
HER2陰性の進行胃癌・食道胃接合部 (GEJ) 癌に対する標準的な初回薬物療法は抗PD-1抗体薬+2剤併用療法であり、 CLDN18.2陽性例ではゾルベツキシマブ+2剤併用療法が選択肢とされています。 今回のASCOでは、 HER2陰性例の初回治療に関する2試験が報告されました。
ATTRACTION-6試験は、 未治療のHER2陰性の切除不能な進行胃癌・食道胃接合部癌を対象とし、 2剤併用療法 (SOX療法またはCAPOX療法) を対照群、 ニボルマブとイピリムマブ+2剤併用療法を試験治療群とした国際共同第III相無作為化比較試験です。 主要評価項目はOSで、 626例が登録されました。
主要評価項目であるOSは下記のとおりであり、 免疫チェックポイント阻害薬の上乗せによる優越性は証明されませんでした。 PFSは以下のとおりでした。

安全性については、 grade 3以上の重篤な治療関連有害事象の発生割合は化学療法群11.5%、 ニボルマブ+イピリムマブ併用群27.6%であり、 ニボルマブ+イピリムマブ併用群で1例 (0.3%) の治療関連死亡 (胃腸炎) が認められました。
ONO-4578-08試験は、 未治療のHER2陰性の切除不能な進行胃癌・GEJ癌を対象とし、 ニボルマブ+2剤併用療法 (SOX療法またはCAPOX療法) を対照群、 経口EP4阻害薬ONO-4578+ニボルマブ+2剤併用療法を試験治療群とした国際共同第II相無作為化比較試験です。
ONO-4578は、 プロスタグランジンE2-EP4シグナル経路を阻害し、 MDSCなど免疫療法に抵抗性となる因子を抑制することで抗PD-1抗体の効果を高めることが期待される薬剤です。 主要評価項目はPFSで、 226例が登録されました。
PFSはONO-4578群の有意な延長が示され、 OSもONO-4578群で良好な傾向でした。

安全性については、 grade 3以上の重篤な有害事象の発生割合は対照群34.7%、 ONO-4578群48.3%でした。 懸念されていた消化性潰瘍については、 プロトンポンプ阻害薬 (PPI) の内服により抑制されていました (PPI内服あり3.4% vs PPI内服なし10.0%)。
今回のASCO 2026では胃癌領域でpractice changeに直結する演題は報告されませんでしたが、 今後の開発の方向性を示唆する結果であったと考えます。
ATTRACTION-6試験で初回治療におけるニボルマブとイピリムマブの上乗せ効果が示されませんでした。 これにより、 長らく行われてきた免疫チェックポイント阻害薬単剤や併用を組み合わせた開発 (CheckMate 649試験やKEYNOTE-859試験) から、 今後はADCや二重特異性抗体、 CAR-Tといった新規治療法へ開発がシフトしていくと示唆されます。
ONO-4578はEP4を標的とするユニークな薬剤であり、 生存期間の延長のみならずORRも約15%上乗せされ、 安全性とあわせて有望な薬剤になりうると考えます。 さらに、 PD-L1 CPS別のサブグループ解析では、 PD-L1 CPS≧1でHR 0.52 (95%CI 0.34–0.79) と良好である一方、 PD-L1 CPS<1または評価不能ではHR 1.73 (95%CI 0.77–3.88) と不良な傾向が示唆されました。 今後の開発でPD-L1 CPSによる対象選択が行われるか、 展開が注目されます。
pStage IIIの大腸癌に対する標準的な術後化学療法は、 カペシタビンなどのフッ化ピリミジン単剤療法や、 CAPOX・FOLFOXといったフッ化ピリミジン系とプラチナ系の併用療法です。
各種観察研究を中心に、 アスピリンが予後改善につながりうると報告されてきました。 一部のバイオマーカー研究ではPI3K/PIK3CA経路の遺伝子異常との関連も検討されていますが、 いまだにエビデンスは限定的です。 今回、 標準的な術後化学療法へのアスピリン上乗せ効果を検証した本邦の無作為化比較試験が報告されました。
JCOG1503C(EPISODE-III)試験は、 化学療法歴のないpStage Ⅲの大腸癌を対象とし、 プラセボ+術後化学療法 (カペシタビン、 CAPOX、 FOLFOXのいずれか) を対照群、 アスピリン+術後化学療法を試験治療群とした、 本邦で実施されたプラセボ対照第III相無作為化比較試験です。 主要評価項目は無病生存期間 (DFS) で、 882例が登録されました。
主要評価項目であるDFSは、 アスピリン上乗せによる優越性は証明されませんでした。 3年OS割合は以下のとおりでした。

安全性については、 全gradeの下部消化管出血の発生頻度は対照群0.2%、 アスピリン群2%でした。
本試験の結果はnegativeでしたが、 会場やディスカッサントの受け止めはfavorな印象でした。 その理由としては、 アスピリンが非常に安価な薬剤でありながら、 有意差は認めないもののHRが良好な傾向であることが考えられます。 安全性についても想定の範囲内の消化管出血頻度であり、 新たな有害事象プロファイルも報告されなかったことも一因と考えられます。
大腸癌術後療法へアスピリン上乗せを検討した研究は世界中で行われており、 今後はPI3K/PIK3CAに関するバイオマーカー解析や、 これらの試験のメタ解析の結果が待たれます。
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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