HOKUTO編集部
1年前
本企画は、 4人の腫瘍内科医による共同企画です。 がん診療専門医でない方でも、 ちょっとしたヒントが得られるようなエッセンスをお届けします。 第4回目は実際の症例の基に考えるケーススタディとなります! ぜひご一読ください。
今から10年以上前に担当した患者さんです。 第1回〜3回までにお話ししたような内容に沿って、 下記のポイントについて説明をしました。
前医でも同じような説明をされていましたので、 おそらく私も淡々と上記の内容について説明したのだと思います。 その間、 ご本人も母親も私の話をしっかりとお聞きになっていました。 話の途中で、 何度か「質問はありませんか?」と聞きましたが、 その時は「特にありません」としっかりお答えになっていました。
話が終わり、 もう一度、 何か質問はないかを尋ねたところ、 患者さんはまっすぐな目で私を見て、 「前の病院の先生からも同じような話を聞いていましたので、 先生のお話はよく分かりました。 完治が難しいことはよく理解しています。 でも、 先生、 私はそれでも治癒を目指したいと思います」とお答えになりました。
その時のまっすぐな眼差しを今でも思い出しますが、 それは、 希望や願望をというより、 はっきりとした意思表示であり、 決意のようにも思えました。
こんな時、 我々医師はどのように対応すれば良いのでしょうか?その時、 私はただ、 たじろぎました。
その前の説明の時に、 しっかり頷きながら私の話を聞いており、 決して理解力が悪いなんてことはない雰囲気でしたので、 まさかそのような言葉が出てくるとは、 予想もしておりませんでした。
まだ、 医師10年目で、 まだまだ患者さんへの説明も未熟だったと思います。 ただ、 上記のような内容を理論的に説明した場合、 多くの患者さんは、 感情の起伏は見られるものの、 ある程度覚悟を固めて、 前向きに治療方針を進めていくという場合が多かったように思います。
その時、 私は彼女の決意に押されたという事もありますが、 そのような真剣な眼差しをする患者さんに向かって、 その決意を否定することはできませんでした。 私がその時にとっさに言えた答えはただ一言。
「分かりました」
それを補うように、 付け加えた説明は下記のようなものでした。
「〇〇さんの、 治したいという気持ちは、 病気に向かい合うときに、 すごく大事な気持ちだと思います」
「私もその気持ちに応えられるように、 一緒に治療法を考えていきましょう」
「ただ、 先ほど申し上げたように、 今の医学で治癒を保証できる治療法はありません。 そのため、 治癒を目指すがために、 もし逆に〇〇さんが苦しんでしまうような、 明らかに不利益になるような治療や、 明らかに効果がなく、 不利益が生じる可能性が高い治療の時には、 私は専門家として止めるようにしますね」
その患者さんは、 約4年間担当させてもらい、 いい時も辛い時も共にしながら、 最終的にはお亡くなりになりました。
ただ、 ある時、 その患者さんから「私が治したい、 と言ったあの時に、 分かりましたと頷いてくれた、 先生の言葉は嬉しかったです」と言われた事がありました。
どういう答えが正しかったのか、 今でも私には分かりません。 ただ、 この経験から二つのことを学びました。 一つは、 あの時、 患者さんの目を見ていなければ、 同じような言葉は出てこなかっただろうということです。 言葉の通り、 患者さんに向き合う事の重要さを教えられた経験でした。 そして、 もう一つは、 患者さんと目標を「共有する」ためには、 患者さんから、 「この人は私の目標を理解してくれている」と信じてもらえるかどうかが重要だという事です。
この3回のシリーズでは、 患者さんに「どう話すか」「どう伝えるか」について解説してきました。 しかし、 本当に大事なことは、 患者さんの話を「どう聴くのか」であり、 患者さんがどう感じているのかに「思いを寄せる」ことだと思います。
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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