消化器癌関連論文Check up! ESOPEC、 CheckMate 8HWなど
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HOKUTO編集部

1ヶ月前

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消化器癌関連論文Check up! ESOPEC、 CheckMate 8HWなど

2025年1月の注目論文

ここ数年の1月は、 サンフランシスコで開催される米国臨床腫瘍学会消化器癌シンポジウム (ASCO GI) が自分の中での新年のシグナルになっている。 毎年practice changeにつながる研究発表を現地で見ることで、 1年分の活力をここでもらえているような気がする。

そんなこともあり、 今年最初の消化器癌関連論文Check up!は、

❶ESOPEC試験

切除可能な食道腺癌に対する周術期薬物療法と術前化学放射線療法 (CRT) の比較

❷CheckMate 8HW試験

MSI-highを有する未治療進行大腸癌に対するニボルマブ (Nivo) +イピリムマブ (Ipi) とNivo単剤の比較

❸BREAKWATER試験

BRAF V600E変異型の未治療の切除不能な進行大腸癌に対する、 エンコラフェニブとセツキシマブの2剤併用療法を検証

――の3論文を取り上げる。

❶食道腺癌周術期FLOT療法が術前CRTよりOSを改善

Perioperative Chemotherapy or Preoperative Chemoradiotherapy in Esophageal Cancer. N Engl J Med. 2025 Jan 23;392(4):323-335. PMID: 39842010

▼背景

切除可能な局所進行食道腺癌に対する最適な集学的治療のアプローチ、 特に周術期治療に関してはいまだ定まっていない。 治療選択肢としては、 FLOT4試験に基づく周術期FLOT (5-FU+オキサリプラチン+ドセタキセル) 療法と、 CROSS試験に基づく術前CRTがあるが、 このどちらが最適かという重要な臨床的疑問を明らかにするために、 ESOPEC試験が行われた。

▼試験デザイン

第Ⅲ相無作為化比較試験ESOPECでは、 切除可能な局所進行食道腺癌(cT1N+M0、 cT2-4aN+M0、 cT2-4aN0M0)患者が、 3剤併用療法である周術期FLOT療法を行う群 (FLOT群 : 221例) と、 術前カルボプラチンとパクリタキセル、 放射線(41.4Gy)併用療法を行う群 (CROSS群 : 217例) の2群に1 : 1で無作為に割り付けられた。 主要評価項目は全生存期間 (OS) と設定された。

▼試験結果

ESOPEC試験のフォローアップ中央値は55ヵ月であった。 主な試験結果は以下の通り。

3年OS割合 (主要評価項目)

FLOT群のCROSS群への優越性が証明された。

  • FLOT群 : 57.4%
  • CROSS群 : 50.7%
HR 0.70 (95%CI 0.53-0.92)

3年無増悪生存割合(PFS)

FLOT群で良好な結果であった。

  • FLOT群 : 51.6%
  • CROSS群 : 35.0%
HR 0.66 (95%CI 0.51-0.85)

治療開始後のgrade 3以上の有害事象発生頻度

  • FLOT群 : 58.0%
  • CROSS群 : 50.0%

重篤な有害事象の発生頻度

  • FLOT群 : 47.3%
  • CROSS群 : 41.8%

術後90日以内死亡割合

  • FLOT群 : 3.1%
  • CROSS群 : 5.6%

▼結論

切除可能な局所進行食道腺癌に対しては、 周術期FLOT療法は、 術前CRTと比較してOSの改善を認めた。

💬My Opinions

切除可能食道腺癌の最適な周術期治療が判明

長年の臨床的疑問であった、 切除可能な局所進行食道腺癌に対する最適な周術期治療に現時点での解答を与えたのが、 このESOPEC試験である。 本邦では食道腺癌の発生頻度は限られていることや、 食道腺癌に対しては胃癌に準じた手術と術後化学療法を行うことも多く、 そのままの外挿は難しいと考える。 そのため現在進行中のJCOG2203*試験の結果が重要になると考える。

*食道胃接合部腺癌に対するDOS or FLOTを用いた術前化学療法の第Ⅱ/Ⅲ相無作為化比較試験

シスプラチンが不適な食道扁平上皮癌でも術前FLOT療法が治療選択肢に

一方、 本邦での食道癌の最多の組織型は扁平上皮癌であり、 食道扁平上皮癌の切除可能病期に対しては、 JCOG1109試験の結果から術前DCF (シスプラチン+5-FU+ドセタキセル) 療法と手術が標準治療として確立している。 ただFLOT療法と薬剤構成を比較して考えると、 両者ともタキサン系、 プラチナ系、 フッ化ピリミジン系薬剤を用いることから、 類似のレジメンとも考えられる。

そのような中、 今年のASCO GI 2025では、 食道扁平上皮癌における術前FLOT療法を検討した第Ⅱ相試験が発表され、 腫瘍原発部位の病理学的治療奏効がDCF療法における治療成績と近い値が得られていた。 そのため、 今後は腎機能低下例や心機能低下例などシスプラチンが不適な食道扁平上皮癌の症例においては、 術前FLOT療法は治療選択肢になり得ると考えられる。

山本氏によるASCO GI 2025解説はこちら

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❷MSI-highの未治療進行大腸癌、 Nivo+Ipi療法でPFSが有意に延長

Nivolumab plus ipilimumab versus nivolumab in microsatellite instability-high metastatic colorectal cancer (CheckMate 8HW): a randomised, open-label, phase 3 trial. Lancet. 2025 Jan 23:S0140-6736(24)02848-4. PMID: 39874977

▼背景

CheckMate 8HW試験は、 MSI-high/dMMRを有する切除不能な進行大腸癌を対象として、 初回治療におけるNivo+Ipi療法と化学療法単独の比較によるPFSと、 治療ライン数を問わないNivo+Ipi療法とNivo単剤療法の比較によるPFSの2つを主要評価項目と設定した試験である。 前者の比較においては、 Nivo+Ipi療法の優越性が証明されていたが、 今回は後者の比較に関する中間解析の結果が報告された。

▼試験デザイン

CheckMate 8HW試験は、 多施設共同第Ⅲ相非盲検無作為化比較試験であり、 23ヵ国128施設が参加した。 免疫治療未施行のMSI-high/dMMRを有する切除不能な進行大腸癌患者が、 Nivo+Ipi療法、 Nivo単剤療法、 標準的な化学療法の3群に2:2:1で割り付けられた。

▼試験結果

今回対象となる集団においては、 707例が登録され、 254例がNivo+Ipi療法群に、 353例がNivo単剤療法群に1:1で無作為に割り付けられた。 なお中央判定でMSI-high/dMMRと判定された症例は582例(Nivo+Ipi療法群 : 296例、 Nivo単剤療法群 : 286例)であった。 フォローアップ中央値は47.0ヵ月で、 主な試験結果は以下の通りであった。

PFS中央値 (主要評価項目)

Nivo+Ipi療法群のNivo単剤療法群に対する優越性が証明された。

  • Nivo+Ipi療法群 : 未到達
  • Nivo単剤療法群 : 39.3ヵ月
HR 0.62 (95%CI 0.48-0.81)

Grade 3-4の治療関連有害事象の発現

  • Nivo+Ipi療法群 : 22%
  • Nivo単剤療法群 : 14%

Grade 5の有害事象の発現

  • Nivo+Ipi療法群 : 心筋炎と肺臓炎で1例ずつ確認された。
  • Nivo単剤療法群 : 肺臓炎で1例において確認された。

▼試験結果

Nivo+Ipi療法は、 MSI-high/dMMRを有する切除不能な進行大腸癌の全治療ラインにおいてNivo単剤と比較して、 安全性を維持したまま、 有意なPFSの延長を認めた。 これらの結果から、 Nivo+Ipi療法は新しい標準治療と考えられる。

💬My Opinions

MSI-high/dMMRの切除不能大腸癌ではICI併用が今後の主流に

先月号でも取り上げたCheckMate 8HW試験であるが、 今月はもう一つの主要評価項目であるNivo+Ipi療法とNivo単剤療法のPFSがASCO GI 2025で報告された。 治療ライン数を問わない結果ではあるものの、 ”dual immune checkpoint blockade”が免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) 単剤よりも治療効果が高い結果が示された。 現状、 ICI単剤がMSI-high/dMMRを有する切除不能な進行大腸癌が初回治療で使用可能であるが、 今回のエビデンスを鑑みるに、 今後はdual immune checkpoint blockadeの使用頻度が実臨床で増えるのではと推察される。

MSI-high/dMMRを有する大腸癌において、 このNivo+Ipi療法は可能性を秘めたレジメンであり、 NICHE-2試験のように、 切除可能病期においても臓器温存まで見据えた戦略が期待できることから、 今後の開発が期待される。

❸未治療のBRAF V600E変異型大腸癌、 エンコラフェニブ+セツキシマブが有望

Encorafenib, cetuximab and chemotherapy in BRAF-mutant colorectal cancer: a randomized phase 3 trial. Nat Med. 2025 Jan 25. doi: 10.1038/s41591-024-03443-3. PMID: 39863775

▼背景

BRAF V600E変異を有する既治療の切除不能な進行大腸癌に対して、 BRAF阻害薬エンコラフェニブと抗EGFR抗体セツキシマブ併用療法はBEACON試験の結果から承認された。 しかし既報から、 BRAF V600E変異型の大腸癌の初回治療における効果は乏しく、 さらなる治療開発が望まれていた。

▼試験デザイン

そのような背景から、 第Ⅲ相試験であるBREAKWATER試験は、 BRAF V600E変異型の未治療の切除不能な進行大腸癌を対象に、 エンコラフェニブとセツキシマブ、 mFOLFOX6の併用療法 (EC+ mFOLFOX6群) と、 標準治療 (SOC群) を直接比較した。 主要評価項目としてPFSと奏効割合が設定された。

▼試験結果

奏効割合

エンコラフェニブとセツキシマブ群が標準治療群と比較して、 有意な改善を示した。

  • EC+ mFOLFOX6群 : 60.9%
  • SOC群 : 40.0%
オッズ比 2.443 (95%CI 1.403-4.253、 99.8%CI 1.019-5.855、 p=0.0008)

治療奏効期間中央値

  • EC+ mFOLFOX6群 : 13.9ヵ月
  • SOC群 : 11.1ヵ月

OSのハザード比 (HR)

初回中間解析において、 OSのHRは0.47 (95%CI 0.318-0.691) であり良好な傾向であった。

重篤な有害事象発生頻度

既報と同様のプロファイルであった。

  • EC+ mFOLFOX6群 : 37.7%
  • SOC群 : 34.6%

▼結論

BREAKWATER試験の結果から、 エンコラフェニブとセツキシマブ、 mFOLFOX6併用療法は、 標準的な化学療法と比較して、 有意な奏効割合の改善を示した。

💬My Opinions

FDAは昨年12月に迅速承認、 本邦への導入にも期待

以前より非常に注目されていたBREAKWATER試験であるが、 ASCO GI 2025で報告され、 PFSはイベント数不足でimmatureであったが、 奏効割合は有意な改善を示した。 またOSの結果も、 カプランマイヤー曲線は最初から離れており、 HRも0.47と非常に有望な結果であったが、 中間解析の有意水準を0.000000083と設定しており、 現段階では優越性は検証されなかった。

既に本結果から、 米食品医薬品局 (FDA) は2024年12月に本治療を迅速承認 (accelerated approval) の対象としており、 実臨床への早期の導入が期待される。 本邦でも導入が期待されるがOSの結果が重要かと考えられ、 今後の続報に期待がかかる。

おわりに

今年も1月から新規標準治療の確立に直結する論文が複数報告されており、 来月も質の高い論文に出会えることを期待している。

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編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。

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