KIWI (炎症性腸疾患)
4ヶ月前
2024年7月に開催された第14回KIWI (Kitasato Institute Webinars on IBD) より、 重要なエッセンスを抽出し、 まとめてご紹介します。 今回のテーマは、 第13回KIWIに引き続き「Best of 2023」。 2023年において発表された、炎症性腸疾患 (IBD) に関する注目の論文を取り上げます。
KIWIは、 IBDにまつわるトピックについての教育的なコンテンツをインターネットでライブ配信するウェビナーです。 IBD専門医だけでなく看護師、 薬剤師など、 全ての医療従事者を対象に、 さまざまなレベルの内容を2ヵ月に1回、 ゲストを招き、 対談形式にレクチャーを交えてライブ配信します。
<本稿の目次>
CQ1.ミリキズマブ導入・維持療法は有効か?
CQ2.グセルクマブ導入療法は有効か?
CQ3.UCの新規バイオマーカーは?
CQ4.AIでUCの臨床転帰は予測可能か?
CQ5.がん合併IBD、 安全性が高い生物学的製剤は?
<注目論文>第Ⅲ相LUCENT1/2試験
方法
潰瘍性大腸炎 (UC) に対するミリキズマブの有効性を検証した2件の第Ⅲ相二重盲検プラセボ対照無作為化比較試験 (Lucent1、 Lucent2)。
導入試験Lucent1では、 患者をミリキズマブ300mg静脈内投与群とプラセボ群に3 : 1で無作為に割り付けた。 維持試験Lucent2では、 導入療法に反応を示した患者を、 ミリキズマブ200mg静脈内投与群とプラセボ群に2 : 1で無作為に割り付けた。 12 週目以降の維持療法時に臨床反応が消失した患者はミリキズマブまたはプラセボの投与を中止し、 ミリキズマブ300mgを4週毎に3回投与する救済療法を受けた。
主要評価項目は臨床的寛解 (導入試験 : 12週目、 維持試験 : 40週目、 全体 : 52週) で、 主な副次的評価項目は臨床反応、 内視鏡的寛解、 便意切迫感の改善だった。
結果
臨床寛解を示した患者割合は、 導入試験 (24.2% vs 13.3%、 p<0.001) および維持試験 (49.9% vs 25.1%、 p<0.001) において、 いずれもミリキズマブ群でプラセボ群に比べ有意に高かった。 便意切迫感を初め、 全ての主要な副次的評価項目も両試験で達成された。
<私はこう見る>
12週目で臨床反応を示した患者は維持試験時に再無作為化されている。 12週時点と比べ、 40週時点の臨床的寛解率は約2倍に上昇しているが、 12週時点で反応を示さなかった患者に対し、 どの時点までミリキズマブ投与を継続するか、 どの時点で次の治療選択肢を検討するかに関する見極めが重要になると考えられる。
<注目論文>第Ⅱb相QUASAR試験
方法
グセルクマブの有効性と安全性を評価した第Ⅱb相二重盲検プラセボ対照用量範囲探索導入試験QUASAR。
対象はコルチコステロイド、 免疫抑制薬および/または高度治療に対して不十分な反応および/または不耐性を示した中等度~重度のUCで、 患者をグセルクマブ200/400mg静脈内投与群とプラセボ群の3群に1:1:1で無作為に割り付けた。
主要評価項目は12週時点での臨床的改善率だった。
結果
12週目の臨床的改善率は、 グセルクマブ200mg群で61.4%、 400mg群で60.7%であり、 プラセボ群の27.6%に比べ有意な改善を示した (いずれもp<0.001)。
グセルクマブ群では主要な副次評価項目 (臨床的寛解、 症状の寛解、 内視鏡的改善、 組織内視鏡的粘膜改善、 内視鏡的正常化) の達成割合がプラセボ群に比べて高かった。 グセルクマブ投与12週目に臨床的反応を示さなかった患者のうち、 200mg群の54.3%、 400mg群の50.0%は24週目に臨床反応を達成した。
<私はこう見る>
患者にとって治療薬の選択肢が増えるのは良いことである一方で、 投与方法や用量、 効果が類似している他の抗IL-23p19抗体との使い分けが今後の課題になると考えられる。 抗IL-23p19抗体はJAK阻害薬よりも差別化が難しくなる可能性がある。
<注目論文>臨床コホート研究
方法
UCの発症および予後を予測するためのバイオマーカー開発に関するコホート研究。 国防総省との共同で作成されたPREDICTS*¹コホートから、 UC発症82例と、 年齢、 性別、 人種が一致する対照82例の血清サンプルを縦断的に研究した。
また外部検証として、 カナダのクローン病・大腸炎遺伝環境微生物 (CCC-GEM)*²プロジェクトにおいて収集された61例の血清サンプルを評価した。 さらに、 2つのUC発症コホート (COMPASS*³/55例、 OSCCAR*⁴/104例) でも抗インテグリンαvβ6抗体を測定し、 両者の関連についてCox比例ハザードモデルを用いて評価した。
研究結果
PREDICTSにおいては、 診断10年前に遡り、 UC発症例は抗インテグリンαvβ6抗体の陽性率が対照群と比較して有意に高かった。 UC発症例における診断10年前の抗インテグリンαvβ6抗体の血清陽性率は12.2%で、 診断時には52.4%に増加した。
抗αvβ6抗体は、 診断10年前までに少なくとも0.8の曲線下面積でUCの発症を予測しており、 GEMコホートにおいても同様の結果が検証された。 さらに、 抗インテグリンαvβ6抗体価はUCの臨床転帰と関連していた。
<私はこう見る>
抗インテグリンαvβ6抗体がUCの発症リスクに関連することが示唆された一方で、 陽性例が必ずUCを発症するという結果ではなく、 抗インテグリンαvβ6抗体が高値であることが何を意味するのかについてはまだ明らかにされていない。 発症予防への応用など、 今後のさらなる研究が期待される。
<注目論文>AIを用いた診断精度試験
方法
UCの予後予測に関するAI支援診断システムの開発・検証を目的とした診断精度試験で、 大腸内視鏡検査で採取した生検標本の病理学的評価における精度を検証した。
試験では合計535のデジタル化された生検標本が、 PICaSSO組織学的寛解指数 (PHRI)、 Robarts組織学的指数 (RHI) およびNancy組織学的指数 (NHI) に従って等級分けされた。 また、 118個の生検標本のサブセットを、 活動期と寛解期を識別するよう畳み込みニューラルネットワーク (CNN) に学習させ、 42個の生検標本を用いてキャリブレーションを行い、 375個の生検標本で診断精度を確認した。
精度は、 感度、 特異度、 Kaplan-Meier法による予後予測、 疾患活動群と寛解群間の再燃のハザード比 (HR) として報告された。
研究結果
組織学的活動性と組織学的寛解の識別におけるシステムの感度は、 PHRIが89%、 RHIが94%、 NHIが89%だった。 特異度はそれぞれ85%、 76%、 79%だった。
また、 UC内視鏡重症度指数 (EIS) とPHRIにおいては、 79%と82%の精度で組織学的活動性と臨床転帰を予測した。 PHRIによる組織学的活動性群/寛解群間の疾患再燃のHRは、 病理医による評価で3.56、 システムによる評価で4.64と推定され、 AIは病理医と同等の精度で再燃リスクを予測できる可能性が示された。
<私はこう見る>
本研究で用いられたAI支援診断システムは好中球を認識するようにトレーニングされており、 人が作成したスコアに則り、 部位にかかわらず好中球の浸潤有無によってAIが評価を行っている。 本システムが実臨床に導入された場合には、 病理医の負担軽減が期待できる。
<注目論文>レトロスペクティブコホート研究
方法
現在がんに罹患、 または5年以内のがん既往があるIBD患者で、 がん診断後に生物学的製剤による治療を受けた患者を対象に、 TNF阻害薬と非TNF阻害薬の安全性について比較検証した研究。
現在がんに罹患している患者 (active cancer) をコホートA、 生物学的製剤または免疫調節薬の治療開始前5年以内のがん既往を有する患者 (recent prior cancer) をコホートBに設定した。
主要評価項目は無増悪生存期間 (コホートA) および無再発生存期間 (コホートB) であり、 安全性は傾向スコアを用いた治療の逆確率重み付けを用いて比較した。
研究結果
コホートAでは、 125例 (追跡期間483.8人年) のうち、 TNF阻害薬による治療を受けた55例中10例 (100人年当たりの発生率 [IR] 4.4) および、 非TNF生物学的製剤による治療を受けた40例中9例 (IR 10.4) でがんの進行が認められた。 両群間で無増悪生存リスクに差はなかった (HR 0.76、 95%CI 0.25-2.30)。
コホートBでは170例 (追跡期間513人年) のうち、 TNF阻害薬による治療を受けた78例中8例 (IR 3.4) および非TNF阻害薬による治療を受けた患者66例中5例 (IR 3.7) でがんの再発が認められた。 無再発生存リスクは両群間で同程度であった (HR 0.94、 95%CI 0.24-3.77) 。
<私はこう見る>
本研究において患者の7~8割が固形がんだったことには留意が必要である。 また、 あくまでも現時点でのBest Availableなエビデンスという意味合いが強く、 conclusiveな研究結果とは言い難い。 今回の結果を受けてがん合併IBDへの生物学的製剤処方例が増え、 さらなる研究課題が出てくる可能性はある。
第15回KIWIは8月または9月、 「IBDと病理」 をテーマに、 ゲストを招いた対談形式のライブ配信が開催される予定です。
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。