【呼吸器疾患】2025年3月の注目論文3選 (中島啓先生)
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亀田総合病院

4ヶ月前

【呼吸器疾患】2025年3月の注目論文3選 (中島啓先生)

【呼吸器疾患】2025年3月の注目論文3選 (中島啓先生)
呼吸器領域で注目度の高い論文を毎月3つ紹介するシリーズです。 2025年3月に注目された呼吸器関連の論文を3つご紹介します。 

深層学習モデルでICI奏効予測は可能か?

JAMA Oncol. 2025 Feb 1;11(2):109-118

📄 PubMed論文情報

背景 : 免疫療法の奏効予測は依然として課題

進行非小細胞肺癌 (NSCLC) に対する免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) は、 一部の患者に長期奏効をもたらす一方で、 反応性には大きな個人差があります。 奏効を予測するバイオマーカーも完全ではなく、 新たな手法が求められています。

研究概要 : H&E標本画像×深層学習で奏効を予測

  • モデル開発 : ICI単剤治療を受けたNSCLC患者958例のH&E標本 (計29万5,581枚) からDeep-IOモデルを構築
  • 開発コホート : 米国の614例 (追跡中央値54.5ヵ月)
  • 検証コホート : 欧州3施設の344例 (同43.3ヵ月)
  • 評価項目 : 客観的奏効率 (ORR)、 無増悪生存期間 (PFS)、 全生存期間 (OS)
  • 比較対象 : 既存指標のバイオマーカー (PD-L1、 TMB [腫瘍変異量]、 TILs [腫瘍浸潤リンパ球] )

結果 : 既存指標を補完する予測ツールに

  • ORRは、 開発コホートで26%、 検証コホートで28%だった
  • ORR予測性能 (AUC) は、 開発コホートで0.75 (95%CI 0.64–0.85)、 検証コホートで0.66 (95%CI 0.60–0.72) であった
本モデルはORR (完全奏効または部分奏効) を目的変数とし、 非奏効との2値分類で訓練されている
  • 多変量解析で、 Deep-IOスコアはPFS (ハザード比 [HR] 0.56、 95%CI 0.42–0.76、 P<0.001) およびOS (HR 0.53、 95%CI 0.39–0.73、 P<0.001) の独立した予測因子であった
  • 検証コホートでは、 Deep-IOスコアはTILsよりも予測精度が高く、 PD-L1と同等のAUC (0.67 [95%CI 0.60–0.74] ) であった。 また、 特異度はPD-L1より10ポイント高かった
  • さらに、 PD-L1発現50%以上+高Deep-IOスコア群では、 奏効率が41%から51%に上昇した

💬 My Opinion

本研究は、 H&E染色標本から構築した深層学習モデルが、 ICIに対する治療反応を予測し得ることを、 多施設コホートで示した先駆的な研究です。 特筆すべきは、 PD-L1と同等以上の予測性能を有し、 併用することで予測精度がさらに向上した点です。 すなわち、 本モデルは既存のバイオマーカーを置き換えるのではなく、 補完する形で臨床判断をサポートする新たなツールとしての可能性を示しています。

デュピルマブはCOPD患者のQOLを改善するか?

Chest. 2025 Jan 31(25):00142-4

📄 PubMed論文情報

背景 : 2型炎症COPDへのデュピルマブとPROs

COPD治療では、 増悪抑制に加え、 QOLや症状を患者視点で評価する患者報告アウトカム (PROs) の改善も重要です。 末梢血好酸球高値を示す2型炎症フェノタイプでは、 IL-4/IL-13経路を標的とするデュピルマブの有効性が既に報告されており、 本研究では疾患特異的PROsへの効果が評価されました。

研究概要 : BOREAS・NOTUS試験の統合解析

BOREAS試験 : N Engl J Med. 2023;389:205–14.
NOTUS試験 : Engl J Med. 2024;390:2274–83.
  • 対象 : 2型炎症 (好酸球高値) を有し、 トリプル療法を継続中のCOPD患者1,660例
  • 介入 : デュピルマブ300mg vs プラセボ (隔週皮下注、 52週間)
  • 主要評価項目 : セントジョージ呼吸器質問票 (SGRQ : 0–100、 低値が良好)、 およびCOPD呼吸器症状評価 (E-RS : 0–40、 低値が軽症) のベースラインから52週目までの変化

結果 : PROsが多面的に改善

以下のPROsがデュピルマブ群で改善した。

  • SGRQ総スコア

LS*平均差 -3.4ポイント (95%CI -5.0 ~ -1.8)、 p<0.0001

*LS: least squares mean difference
  • E-RS総スコア

LS平均差 -0.9ポイント (95%CI -1.4 ~ -0.4)、 p=0.0006

  • SGRQの各ドメインスコア

症状の頻度・重症度 : -3.5ポイント (95%CI -5.5 ~ -1.5)

身体活動の制限 : -4.0ポイント (95%CI -5.9 ~ -2.1)

日常生活・心理社会的影響 : -2.9ポイント (95%CI -4.6 ~ -1.1)

  • E-RSの各ドメインスコア

息切れ : -0.6ポイント (95%CI -0.8 ~ -0.3)

咳・痰 : -0.2ポイント (95%CI -0.3 ~ 0.0)

胸部症状 : -0.1ポイント (95%CI -0.3 ~ 0.0)

💬 My Opinion

トリプル療法中のCOPD患者にデュピルマブを追加することで、 SGRQが3.4ポイント改善し、 患者が変化を実感できる水準の効果が示されました。 E-RSも有意に改善しており、 特に気管支喘息の合併例や末梢血好酸球300/μL以上のような2型炎症フェノタイプを有する患者にとって、 有望な新たな治療選択肢となり得ます。

フルオロキノロンは自然気胸リスクを上げるか?

Thorax. 2025 Feb 17;80(3):159-166

📄 PubMed論文情報

背景 : フルオロキノロンの結合組織毒性と肺への影響

フルオロキノロン (FQ) は、 腱断裂や大動脈解離など結合組織に関わる有害事象との関連が報告されています。 本研究では、 FQによる肺の結合組織への影響と自然気胸リスクとの関連性が検討されました。

研究概要 : case-time-control designで一時的なリスクを評価

  • フランス全国健康保険データベースを使用
  • 対象 : 自然気胸で入院した18歳以上の成人
  • 観察期間の設定
  • リスク期間=入院前30日間
  • 参照期間=入院91~180日前を3分割した3期間
  • 各期間におけるFQ使用歴を比較し、 気胸との一時的な関連を評価

📝 補足 : 本研究のデザインについて

観察研究の一手法であるcase-crossover法では、 患者自身を対照とし、 発症直前 (リスク期間) と過去の参照期間の薬剤使用歴を比較することで、 短期間の曝露と発症との関連を評価します。 ただし、 薬剤の処方頻度が季節や流行によって変動する場合、 これだけでは“リスクがあるように見える”時間的なバイアス (曝露トレンドバイアス) が生じます。 一方、 case-crossover法にこの時間的バイアス補正を加えた拡張型がcase-time-control studyです。 発症していない対照者群の同時期の薬剤使用状況を加えることで、 背景の処方トレンドを補正し、 より正確なリスク評価が可能となります。 さらに本研究では、 感染症そのものが気胸のリスク因子である可能性 (適応症バイアス) にも配慮し、 比較的組織毒性の少ないアモキシシリンも対照薬として用いています。

結果 : FQとアモキシシリンは共に気胸リスクが増加

  • FQ使用で自然気胸の一時的なリスクが増加した。
  • リスク期間に使用 : 63例
  • 参照期間に使用 : 128例
  • 調整オッズ比 : 1.59 (95%CI 1.14–2.22)
オッズ比は、 年齢、 性別、 既往歴、 気胸の再発歴、 入院時期 (季節性)、 感染症の重症度指標などを共変量として調整
  • 同様に、 アモキシシリン使用で自然気胸の一時的なリスクが増加した。
  • リスク期間に使用 : 1,210例
  • 参照期間に使用 : 1,603例
  • 調整オッズ比 : 2.25 (95%CI 2.07–2.45)

💬 My Opinion

FQのリスク増加は確認されたものの、 アモキシシリンでもより強い関連があった点から、 感染症そのものが自然気胸のリスク因子である可能性が高いと考えられます。 FQの肺結合組織に対する潜在的な毒性については、 本研究の結果からは明確な有害性は示されず、 過度な懸念を抱く必要はないと考えられます。

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