HOKUTO編集部
2ヶ月前
初回のトラスツズマブ・デルクステカン(T-DXd)治療を行う転移性乳癌への予防的オランザピン+5-HT3受容体拮抗薬+デキサメタゾン併用制吐療法の効果について、 プラセボ+5-HT3受容体拮抗薬+デキサメタゾン併用療法を対照に検証した第Ⅱ相二重盲検プラセボ対照無作為化比較試験ERICAの結果より、 オランザピン併用制吐療法は遅発期・延長期の悪心・嘔吐の予防に有効であることが示された。 昭和大学先端がん治療研究所准教授の酒井瞳氏が発表した。
T-DXd治療に伴う主な有害事象として、 初回サイクルで高頻度に出現する悪心・嘔吐が挙げられる。
オランザピンは複数の神経伝達物質受容体拮抗薬であり、 難治性悪心・嘔吐の緩和において有効性が確認されている。 また、 5-HT3受容体拮抗薬およびデキサメタゾンとオランザピンの併用は、 NK1受容体拮抗薬に比べて遅発期嘔気の予防に有効である。
対象は初回T-DXd治療を行うHER2陽性または低発現の転移乳癌168例で、 患者を以下の2群に1 : 1で無作為に割り付けた。
観察期間はT-DXdの初回投与後1サイクル (1~22日) とし、 患者は毎日嘔気・嘔吐および制吐薬の追加投与の有無について電子症状日記を記録した。
主要評価は遅発期 (T-DXd投与後24~120時間) の完全奏効 (CR) 率で、 CRは嘔吐なし、 レスキュー薬なしと定義された。
副次的評価項目には以下が設定された。
患者背景は両群で同様HER2低発現はオランザピン群36.3% / プラセボ群41.5%、 HER2陽性は63.8% / 58.5%だった。
T-DXd導入前の転移巣はそれぞれ、 脳転移が17.5% / 17.1%、 肝転移が48.8% / 45.1%だった。
使用された5-HT3受容体拮抗薬はパロノセトロンが80.0% / 81.7%と両群ともに8割以上を占め、 グラニセトロンは20.0% / 18.3%だった。
遅発期のCR率はオランザピン群が70.0%で、 プラセボ群の56.1%に比べて有意に高かった (リスク差 13.9% [60%CI 6.9-20.7%]、 p=0.047)。
急性期のCR率、 CC率、 TC率、 嘔気なしの割合は両群間で差を認めなかった一方、 遅発期・延長期ではオランザピン群で良好な結果を示した。
CR率
急性期のCR率はオランザピン群が92.5% / プラセボ群が92.7%、 延長期のCR率は63.9% / 44.4%だった。 全期間のCR率はそれぞれ48.6% / 40.3%だった。
CC率
急性期のCC率はオランザピン群が91.3% / プラセボ群が92.7%、 遅発期のCC率は67.5% / 53.7%、 延長期のCC率は61.1% / 44.4%だった。 全期間のCC率はそれぞれ45.8% / 40.3%だった。
TC率
急性期のTC率はオランザピン群が82.5% / プラセボ群が79.3%、 遅発期のTC率は55.0% / 35.4%、 延長期のTC率は50.0% / 27.8%だった。 全期間のTC率はそれぞれ33.3% / 25.0%だった。
嘔気なしの割合
急性期でオランザピン群が85.0% / プラセボ群が80.5%、 遅発期で57.5% / 37.8%、 延長期で51.4% / 31.9%だった。 全期間ではそれぞれ37.5% / 26.4%だった。
21日の観察期間を通じて、 1日単位のCR率および嘔気なしの割合はいずれもオランザピン群が高かった。
初回の嘔気出現までの期間中央値はオランザピン群が6.5日、 プラセボ群が3.0日でオランザピン群が長かった。 また、 嘔気を経験した患者における嘔気を生じた期間中央値はオランザピン群が4.0日、 プラセボ群が8.0日でオランザピン群が少なかった。
レスキュー薬を使用した患者の割合はオランザピン群が38.8%、 プラセボ群が56.6%だった。
PRO-CTCAE評価による患者報告アウトカムでは、 オランザピン群は食欲減退による日常生活・日課への支障が少なかった。
オランザピン群では食欲減退や下痢の頻度が低く、 傾眠と高血糖の発現が多かったものの、 いずれもGrade 3未満だった。
酒井氏は 「5-HT3受容体拮抗薬+デキサメタゾン+オランザピンの3剤併用療法は、 T-DXd治療の1サイクル目に引き起こされる遅発期および延長期の悪心・嘔吐を予防する効果的な制吐療法であると考えられる」 と報告した。
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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