【教育講演】溶血性貧血の新規治療薬
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HOKUTO編集部

4ヶ月前

【教育講演】溶血性貧血の新規治療薬

【教育講演】溶血性貧血の新規治療薬
近年、 溶血性貧血に対する新たな抗補体治療薬の開発が急速に進んでいる。 第85回日本血液学会での教育講演では、 溶血性貧血の新規治療薬について、 大阪大学大学院血液・腫瘍内科招聘教授の西村純一氏が講演した。

1.抗補体薬開発の歴史と特徴

(1) エクリズマブ

抗補体C5抗体。 発作性夜間ヘモグロビン尿症(paroxysmal nocturnal hematuria : 以下、 PNH)に対する初めての治療薬として、 2010年6月に発売された。 溶血に対する劇的な抑制効果が示されている。 またPNHにおける血栓症はまれな合併症であるが、 同薬は血栓予防効果を発揮することも示されている。 特徴は以下。 投与間隔は2週に1回。

- 古典経路を活性化しない
- 胎盤通過性が低い
- Infusion reactionの重度な影響が少ない

同薬はその後、 非典型溶血性尿毒症症候群、 全身型重症筋無力症、 視神経脊髄炎スペクトラム障害への適応が拡大された。

(2) ラブリズマブ

抗補体C5リサイクリング抗体。 2019年6月に発売、 その後2021年12月に高濃度製剤も発売された。  エクリズマブをベースに以下の変換により、 pH依存的なC5阻害と長期効果を示し、 8週に1回の投与間隔を実現した。 エクリズマブに比べて点滴時間の短縮や点滴量が減少したことにより、 患者と医療関係者の負担軽減に繋がることが期待されている。  酸性条件下で、 以下の特徴がある。

- FcRnへの結合を促進するための装飾
- エンドソーム内でのC5放出を促進するための装飾

なお現在、 同じく抗補体C5リサイクリング抗体で4週に1回投与間隔かつ皮下注射が可能なクロバリマブも、 PNHに対し国内申請(2023年6月)中である。

(3) ペグセタコプラン

PNHにおける血管外溶血という新たな課題克服に向けて、 2023年9月に発売開始となった補体C3阻害薬である。

補体C3タンパク質およびC3bに高親和性で結合し、 C3の開裂、 補体活性化の下流エフェクターの生成及び膜侵襲複合体生成を阻害する。 その結果、 PNH患者における血管外溶血および血管内溶血を抑制することが示されている。 

2.新規抗補体薬開発の動向

Danicopan

代替経路の増幅ループを選択的に抑制すD因子阻害薬。 エクリズマブまたはラブリズマブにdanicopanを追加投与した群では、 プラセボを追加投与した群と比較して、 ベースラインから12週までにヘモグロビンの有意な増加が認められた¹⁾。

Iptacopan

B因子阻害薬。 Iptacopanは、 抗C5抗体薬に比べ、 ベースラインからの網状赤血球数の有意な減少が認められた²⁾。

👩‍⚕西村先生の解説

これらの新規抗補体薬活用にあたっては、 既存の終末補体阻害薬であるエクリズマブやラブリズマブと比較し、 血管外溶血を抑制だけでなく①安定した血管内溶血の抑制 (LDH≧1.5×ULNが望ましい)、 ②長期安全性(感染症など) が担保できているかどうかの検証が望まれる

3.PNH新規抗補体薬の臨床試験

PNH新規抗補体薬に関する進行中の主な臨床試験としては、 以下が挙げられた。

COMPOSER試験³⁾

健康成人およびPNH患者を対象に、 抗補体C5リサイクリング抗体クロバリマブの有効性および安全性をエクリズマブを対照に検証した国際多施設共同第I/Ⅱ相オープンラベル試験 (中外/ロシュ)

COMMODORE1試験⁴⁾

補体阻害剤による治療歴のある成人および青年期PNH患者を対象に、クロバリマブの有効性および安全性をエクリズマブを対照に検証する多施設共同非盲検ランダム化第Ⅲ相臨床試験 (中外/ロシュ)

COMMODORE2試験⁴⁾

補体阻害剤による治療歴のない成人および青年期PNH患者を対象としてエクリズマブに対するクロバリマブの有効性及び安全性を評価する多施設共同非盲検ランダム化、 第Ⅲ相臨床試験(中外/ロシュ)

AXLN2040-PNH-301試験⁵⁾

臨床的に血管外溶血を示すPNH患者を対象に、 補体C5阻害薬(エクリズマブまたはラブリズマブ)へのdanicopanの追加投与を検証する第Ⅲ相試験 (アレクシオン)

APPOINT-PNH試験⁶⁾

補体阻害剤治療歴のない成人PNH患者を対象に、 iptacopanの有効性および安全性を検証する多施設共同、 単群、 非盲検試験(ノバルティス)

発作性夜間ヘモグロビン尿症患者を対象としたiptacopanの長期安全性及び忍容性を評価する試験⁷⁾

PNHを対象とするiptacopanの第Ⅱ相および第Ⅲ相試験を完了したPNH患者を対象に、 iptacopanの長期安全性および忍容性を検証する非盲検、 多施設、 ロールオーバー継続投与プログラム (ノバルティス)

4.AIHA新規薬剤に関する臨床試験

自己免疫性溶血性貧血(AIHA)新規薬剤については、 以下のような臨床試験が実施または進行中である。

jRCT2051210140試験 (中止)⁸⁾

原発性温式自己免疫性溶血性貧血患者を対象に、 parsaclisib(PI3K阻害薬)の有効性および安全性を検証する第Ⅲ相二重盲検プラセボ対照無作為化比較試験(インサイト)。 試験中止

jRCT2021210027試験⁹⁾

温式自己免疫性溶血性貧血の成人患者におけるnipocalimab(M281:FcRn阻害薬)の有効性及び安全性を検証する長期非盲検継続投与期間を含む多施設共同二重盲検プラセボ対照無作為化比較試験 (ヤンセンファーマ)。 募集中

jRCT2031220601試験¹⁰⁾

1ライン以上の治療が無効であった温式自己免疫性溶血性貧血患者を対象に、 ianalumab(VAY736:BAFF受容体に対するモノクローナル抗体)の有効性および安全性をプラセボと比較して検証する第Ⅲ相二重盲検無作為化比較試験(VAYHIA)(ヤンセンファーマ)。 募集中

jRCT2031220441試験¹¹⁾

寒冷凝集素症(CAD)患者を対象に、 pegcetacopianの有効性および安全性を検証する第Ⅲ相無作為化二重盲検プラセボ対照多施設共同試験(SOBI)。 募集中

まとめ

PNHにおける治療目標と期待される効果

目標を達成するためには、 ブレークスルー溶血を起こすことなく、 血管内溶血を抑制することが重要となる。

目標

血管内溶血抑制

臓器障害抑制

生存率改善

短期目標

溶血に伴う症状

(貧血、疲労感など)

血栓症、

腎障害、肺障害

生存率

期待される効果

溶血の減少

貧血の改善

輸血回数の減少

症状の改善

血栓イベントの減少

慢性腎臓病の改善または安定化

肺高血圧の発現率の減少

QOLの向上

死亡率の低下

溶血性貧血における治療は活発に新薬が開発されている。 その中で、 最終的には、 それら治療薬がどのような使い分けをしているかは現時点では誰もわからないが、 それぞれの薬剤の特徴を理解することで、 最終的に最善の治療薬が選択されていくのではないかと考察し、 西村氏は講演を締めくくった。 

参考文献

1) JSH2023デジタルポスター

2) EHA Library. Risitano A. 06/08/2023; 387882; S182

3) Br J Haematol. 2022 Aug;198(3):e46-e50.

4) Blood. 2023; 142 (Supplement 1): 5628.

5) Lancet Haematol. 2023 Dec;10(12):e955-e965.

6) Hemasphere. 2023 Aug; 7(Suppl ): e29006c9.

7) JRCT. 臨床研究等提出・公開システム. jRCT2021210059試験[最終閲覧 : 2023/12/20]

8) JRCT. 臨床研究等提出・公開システム. jRCT2051210140試験 [最終閲覧 : 2023/12/20]

9) JRCT. 臨床研究等提出・公開システム. jRCT2021210027試験 [最終閲覧 : 2023/12/20]

10) JRCT. 臨床研究等提出・公開システム. jRCT2031220601試験 [最終閲覧 : 2023/12/20]

11) JRCT. 臨床研究等提出・公開システム. jRCT2031220441試験 [最終閲覧 : 2023/12/20]

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編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。

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