HOKUTO編集部
25日前
広島大学病院 脳神経内科の音成秀一郎先生による新連載 「脳波クイズ ER/ICU脳波-意識障害編-」 です。 第1回では、 急性期脳波判読の総論についてご解説いただき、 第2回以降では、 脳波クイズを解き進めながら症例を検討していきます。
実は脳波といっても、 臨床における判読には2つのセッティングがあります。 それは慢性てんかんを対象とするものと、急性期の意識障害などを評価するものです。
前者は、 てんかんかどうかの推定材料として活用され、 もちろん正確な診断が求められますので特異度を重視した判読を要します。 一方、 後者はいわゆる急性期脳波であり、 近年ではCritical Care EEGと呼ばれ、 意識障害の評価やてんかん重積状態の治療設計に活用されるもので、 早期診断のために感度が求められる脳波判読になります。
「脳波トリアージ」、 これは筆者によるネーミングなのですが、 コンセプトとしては 「脳波とは脳のバイタルサイン」 であるという前提で、 「いかに脳のemergencyを脳のバイタルサインから捉えるか」 という視点にあります。
真の意識障害であれば脳のバイタルサインは崩れ、 あるいは不安定になるため、 これを迅速に判定するのが 「脳波トリアージ」 というコンセプトです。
脳波を深く読もうとすれば、 おそらくどれだけでも深く読み込むことができます。 脳波は 「波」 なわけですから、 それこそ海のようなもので、 浅瀬の表層レベルだけをみることもできれば、 深海レベルまで探査することもできるはず。 ですが、 僕たち臨床医は深海魚を探すことを目的としていません。 意識障害の脳波においては、 目前にある海の荒波 (つまり意識) が『入るな危険』かどうかを手っ取り早く知りたいのです。
では、 この『危険』というのは脳波の何を指すかというと、 以下の2点になります。
- そこに真の意識障害があるのか?
- 抗てんかん発作薬(ASM) の介入を要するか?
そしてもう少し解像度を高めて表現すれば、 この2つは 「脳が現在、 二次的脳損傷に陥っているか、 あるいはそのリスクがあるか」 に集約されます。 この解を知るために、 効率よく必要な情報だけを読み解く、 それが脳波トリアージのコンテンツです。 そのためには、 詳細は割愛しますが、 以下の2ステップでてんかん性の意識障害をトリアージすることができます。
なお背景活動のチェックにはDSA (周波数スペクトル密度配列) の活用が便利です。 以下のようにDSAでバンド状のパターンがあるかどうかで簡単に鑑別できます。
以上の2ステップで、 てんかん性の意識障害を迅速にトリアージし、 ASM (anti-seizure medication) での治療介入の準備をすると良いでしょう。
トリアージの先には質的評価が待っています。 つまり、 同定したてんかん性の意識障害に対して、 どの程度の力価 (治療) で介入すべきかを決めなければなりません。 そのためには以下の2つを脳波で判定する必要があります。
1. 現在進行形の発作があるか
2. その発作は重積状態の基準を満たすか
発作の判定のためには、 脳波のパターン化というものを知る必要があります。 具体的にはrhythmic and periodic patterns (RPPs) と呼ばれるもので、 以下の3つが含まれます。
なお発作の基準はいくつかありますが、 PDsであれば 「2.5Hz以上のPDが10秒以上持続する」 が発作の基準に該当し、 electrographic seizureと呼びます。 そしてこの状況が沢山みられれば (簡単に言えば)、 electrographic status epilepticusと呼びます。
ベースラインから発作に至るプロセスでは、 PDsはその発火頻度が徐々に増していきます。 よって、 発作かどうかの判定においては、 「PDsはどれだけ高頻度発火するか?」 が大事です。 例えば1.0HzのPDsよりも2.0HzのPDsのほうが発作リスクが高く、 2.5Hzを超えてくればそれは発作であり二次的脳損傷のリスクがあるとして治療介入します。
しかし、 PDsのサイクルの縦読みでは臨床はできません。 極論ですが、 例えるなら、 PDsは感染症におけるCRPのようなものに過ぎないからです。 起炎菌や感染臓器を意識することが感染症の本質であり、 ソースコントロールできているのか常にフェーズを意識することが求められます。 そのため 「CRP 10」 という数字そのものに独立した意味はないはずです。 これと同じように、 PDsのサイクルも縦読みはとても危険であり病態の本質を捉えることはできません。 それではどうすればいいのかというと 「病因 (etiology) の同定」 と 「病態のフェーズ (phase) の評価」 を意識してください。
はじめての脳波トリアージ
2ステップで意識障害に強くなる
Antaa Slide Award 2021を受賞した著者が、 背景活動×てんかん性の所見で脳波を切り分け、 意識障害の鑑別を最速化する鑑別のコツを伝授。 ICUでの強力な武器を身につけて、 目指せ!デキるレジデント!
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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