インタビュー
23日前

病気を治療するだけでは、 人は幸せになれるとは限らない――。 そんな思いから、 焼き芋を販売しながら地域の人と雑談を交わし、 ときに健康相談にも応じる 「医師焼き芋」 の活動を東京・多摩地域で続ける医師がいる。 家庭医の平沼仁実さん (福島県立医科大卒) は、 イベント会場や在宅医療の現場で人と人とのつながりを育んでいる。
「芋とお節介を焼く」 を合言葉とした活動は、 2021年冬に始まった。 国分寺市の八百屋で購入した芋を同市のパン屋で焼いてもらい、 イベント会場に搬入してブースを立ち上げる。 衛生面が懸念される夏場は、 代わりにカフェでACP (アドバンス・ケア・プランニング) をテーマにしたゲーム「人生すごろく」などで交流する。

活動に決まりはない。 メンバーには仕事や家庭があるため、 拠点や開催場所・頻度は決めず、 負担なく楽しんで継続できることを意識してきた。 緩やかな活動を続けるうち、 気づけば4年半。 イベントを通じた縁がきっかけとなり、 開催場所も広がった。 国分寺市を中心に多摩地域の各市に足を運び、 神奈川県のイベントからも声がかかった。 開催数は2026年6月時点で60回を数える。
「診察室で病気を治療していても、 広い意味での健康にはアプローチできない」
平沼さんは家庭医として診療を続けるうち、 そう感じるようになった。 家庭医は病気の有無を問わず患者や家族と長く関わる。 悩みは家族関係や生活・将来への不安など多様であり、 深く関わるほど、 医療行為だけでは解決できない現実に直面した。
「病気の重さと本人が感じる幸せは必ずしも比例していないことを感じました。 身体や精神が病気でないだけでなく、 社会的にも満たされたウェルビーイングを実現するにはどうすればいいんだろう、 と考えるようになったんです」

地域とつながり、 多様な人と健康づくりを進められたら――。 そんなアイデアが浮かんだ頃に知ったのが、 国分寺市などが運営する市民参加型の講座 「こくぶんじカレッジ」 だった。
3期生として2021年に受講した平沼さんが参加者に思いを語ると、 広告クリエイターの男性が共感を示した。 コロナ禍で対面交流が難しい中、 「音を使ったコミュニケーションはどうか」 と男性が発案。 音楽を流しながら自転車修理をする人、 石焼き芋の販売車をヒントに、 「石焼き芋」 の 「石」 と 「医師」 を掛け合わせた。 看護師やヨガ講師らも賛同し、 5人で活動が始まった。
活動を通じて紡がれた緩やかなつながりは、 平沼さんが行う在宅医療にも変化をもたらした。 担当していた70代の男性患者は脊髄損傷と重度の褥瘡を患い、 1年ほど自宅のベッドに寝たきりだった。 話し相手も医師や看護師、 ヘルパーに限られていた。
「この人を少しでもハッピーにできないか」。 ある日、 男性が寝ている部屋の奥の扉が少し開いており、 膨大な数のレコードが見えた。 話題にすると、 男性の顔がぱっと明るくなった。 後日、 医師焼き芋で知り合った蓄音機好きの男性を連れて行くと、 2人は意気投合し、 音楽の話は尽きなかった。

「普段の患者さんとはまるで違いました。 受け身で医療やケアを受けていた人が、 いきいきとした表情を初めて見せてくれたんです。 私自身も、 大きな幸せを感じた瞬間でした」


編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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