HOKUTO編集部
2ヶ月前
高リスクの転移性去勢抵抗性前立腺癌 (mCRPC) を対象に、 1次治療としての177Lu-PSMA-617+エンザルタミド併用療法の有効性と安全性について、 エンザルタミド単剤療法を対照に評価した第II相無作為化比較試験ENZA-pの長期観察の結果、 OSの有意な改善を認め、 HRQLも向上した。 オーストラリア・St. Vincent’s HospitalのLouise Emmett氏が発表した。 本試験はLancet Oncol. 2025年2月13日オンライン版に同時掲載された。
ENZA-p試験では、 追跡期間中央値20ヵ月における中間解析の結果、 エンザルタミド単剤療法で早期進行リスクが高いmCRPCの1次治療として、 ルテチウムオキソドトレオチド-177 (177Lu)-PSMA-617+アンドロゲン受容体シグナル阻害薬 (ARSI) エンザルタミド併用療法はエンザルタミド単剤療法に比べ、 前立腺特異抗原無増悪生存期間 (PSA-PFS) を有意に改善した (13ヵ月 vs 7.8ヵ月、 HR 0.43、 p<0.00001) ¹⁾。 本研究では、 2024年7月31日をデータカットオフとする全生存期間 (OS) および健康関連QOL (HRQL) に対する長期追跡結果が報告された。
mCRPCで、 ①PSA>5ng/mL、 ②mCRPCに対する化学療法歴がない、 ③68Ga-PSMA PET/CT陽性、 ④エンザルタミドでの早期進行リスク因子を少なくとも2つ以上有するーー患者162例が、 以下の2群に1 : 1で無作為に割り付けられた。
主要評価項目はPSA-PFSであった。 副次評価項目として画像学的PFS (rPFS)、 PSA50%奏効率・90%奏効率、 有害事象、 OS、 HRQL (EORTC QLQ-C30を用いて6週間ごとに評価) だった。
年齢中央値、 PSA値、 PSMA陽性転移巣>20の割合などの患者背景は両群間で概ね一致していた。
追跡期間中央値34ヵ月 (IQR 29-39ヵ月) におけるOS中央値は177Lu-PSMA-617併用群で34ヵ月 (95%CI 30-37ヵ月) であり、 エンザルタミド単剤群の26ヵ月 (95%CI 23-31ヵ月) に比べて有意に改善した (HR 0.549、 95%CI 0.36-0.84、 p=0.0053)。
なお、 エンザルタミド単剤群の79例中30例 (38%) は試験外で後治療として177Lu-PSMA-617を投与されていた。
身体機能および健康状態全体の悪化リスクはいずれも177Lu-PSMA-617併用群で低かった。
身体機能が悪化せずの生存期間中央値
HR 0.51 (95%CI 0.36-0.72、 p=0.0001)
健康状態全体が悪化せずの生存期間中央値
HR 0.47 (95%CI 0.33-0.67、 p<0.0001)
HRQLは162例中154例で評価された。 疼痛および倦怠感の平均スコアの差はそれぞれ7.3 (95%CI 1.6-13、 p=0.01)、 5.9 (95%CI 1.1-11、 p=0.02) であり、 177Lu-PSMA-617併用群で良好な結果を示した。
Grade3-5の有害事象の発現割合に大きな差は認められなかった。
Emmett氏は、 「177Lu-PSMA-617+エンザルタミド併用療法は、 エンザルタミド単剤療法で早期の治療失敗リスクを有するmCRPCのOSをおよそ8ヵ月改善した。 HRQLの指標も向上し、 安全性は良好だった。 本試験の結果は、 mCRPC治療における177Lu-PSMA-617の臨床的意義を裏付けるものである」 と報告した。
本発表に関して、 がん研有明病院総合腫瘍科部長の三浦裕司先生にご解説いただきました。
ASCO GU 2025のポスター発表は、 前立腺特異的膜抗原 (PSMA) および放射性リガンド療法 (Radioligand Therapy, RLT) に関する研究が中心であり、 この分野が現時点での注目領域 (Hot Topic) であることが改めて実感された。
また特筆すべきは、 RLTにおいて 「Understanding Radioligand Therapies for Advanced Prostate Cancer」 という独立したGeneral Sessionが設けられた点である。 同セッションでは、 PSMAを標的としたRLTに加え、 他の薬剤を併用する 「Combination治療」 や、 CD46、 DLL3、 STEAP1、 hK2などPSMA以外の抗原を標的とした新規RLTの開発に関する発表が多数行われた。 また、 PSMA-PETを用いた新たな治療効果判定法についても議論が展開された。
ENZA-p試験は、 mCRPCにおいてドセタキセル投与前の治療ラインで177Lu-PSMA-617の効果を検証する第Ⅱ相無作為化比較試験であり、 同じく177Lu-PSMA-617の有効性を評価したPSMAfore試験と類似する。 しかし、 ENZA-p試験ではARSIであるエンザルタミドを併用し、 その上乗せ効果を探索する点が新たな試みである。
同試験では、 主要評価項目であるPSA-PFSのみならず、 副次評価項目であるOSの改善が確認された点が印象的であった。 ARSIは前立腺癌治療のバックボーンであることは間違いなく、 177Lu-PSMA-617において、 ARSIとの併用療法の方向性が見えたことは重要な所見である。
日本では現在、 PSMA-PETおよびLu-PSMA治療は未承認であり、 国際的な治療開発との隔たりが一層顕在化している。 国際的にPSMAを標的としたRLTが標準治療戦略として確立されつつある現状を踏まえると、 最新の標準治療の提供および今後の治療開発における国際競争力の維持のために、 日本でのRLT実施に向けたインフラおよび規制の整備が喫緊の課題だと考えられる。
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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