HOKUTO編集部
5ヶ月前
循環器領域における注目トピックやキーワードについて解説する新連載の第1回は、 急性心不全・慢性心不全の急性増悪の初期対応に重要なクリニカルシナリオ (CS) 分類について解説いただきます (解説医師 : 北海道大学 循環病態内科学教室 上原拓樹先生)。
心不全は、 なんらかの心臓機能障害により、 呼吸困難感や倦怠感、 浮腫等が出現し、 運動耐容能が低下する臨床症候群と定義されている。
また、 心不全は症状が出現し顕在化すると、 その後は増悪と寛解を繰り返すことが知られている。 初回の心不全発作を急性心不全、 安定した後の状態を慢性心不全、 2回目以降の発作を慢性心不全の急性増悪と呼ぶことが多い。
近年は 「心不全パンデミック」 とも呼ばれるように、 心不全の患者が年々増えている。 また、 年齢層も高齢化の傾向がある。
CS分類は、 急性心不全・慢性心不全の急性増悪の初期対応のために提唱された。 血圧を参考とし、 病態により分類されている。
急性の肺水腫を呈する
病態としてはvolume central shiftによる充満圧上昇が主体であり、 急性の肺水腫を呈する。 交感神経が活性化しているため、 来院時の収縮期血圧は著明に上昇していることが多い。
起座呼吸を伴う頻呼吸が典型的な臨床所見であり、 酸素投与でも呼吸状態が改善しない場合には速やかにNPPV (非侵襲的陽圧換気) を開始する。 呼吸状態を支持した上で、 前負荷と後負荷 (血圧上昇) を是正するためにニトログリセリン持続静注などの硝酸薬投与を開始する。
硝酸薬は、 慣習的には収縮期血圧 120~130 mmHg程度を目標に投与する。
利尿薬は体液貯留が確認されれば使用
CS 1では必ずしも体液貯留を伴っていないため、 利尿薬については体液貯留が確認された場合に使用する。 しかし、 仮に発作まで無症状であったとしても、 多少の体液貯留を伴っていることが多い。
少なくとも外来では、 フロセミド静注にて利尿薬を使用し、 いったんは尿量確保をしておくことが望ましいだろう。
全身的な体液貯留を認める
病態としては、 全身的な体液貯留 (溢水) が主体となる。 臨床的には亜急性もしくは慢性経過の労作時息切れや両下腿浮腫を先行し、 全身性の浮腫や画像検査での胸水貯留を伴っていることが多い。
体液貯留が主体であるため、 利尿薬 (フロセミド20~40mg静注など) を使用して体液量を是正する。 尿量が不十分であればフロセミドを増量もしくは持続静注を行い、 尿量確保を目指す。 フロセミドへの反応が不良であれば、 トルバプタンを併用しても構わない。
CS 1とCS 2は明瞭に分類できないこともある。 血圧が高いことは左室にとっての後負荷増大となるため、 収縮期血圧が140mmHgを超えているようであれば血圧コントロールも考慮した方が良いだろう。
低灌流が主体の心不全
低灌流が主体の心不全であり、 肺水腫や体液貯留は軽度のこともある。 低心拍出だけであれば四肢冷感や倦怠感、 食欲低下、 活動性の低下などが主訴となり、 一見すると心不全の判断が難しい。
心原性ショックに陥ると循環不全となり、 血中乳酸値上昇 (2 mmol/L、18 mg/dL) を認める。 必ずしも収縮期血圧<100mmHgではないため、 低心拍出や心原性ショックが疑われた場合には血中乳酸値も確認し、 ドブタミンでの強心薬を開始する。
低心拍出や心原性ショックは、 溢水ではなく脱水が原因のこともあるため、 体液量評価を行う。 溢水を併発している場合は、 慎重に利尿薬を併用する。
ACSにより急性心不全を合併した状態
急性冠症候群 (ACS) により急性心不全を合併した状態である。 心筋トロポニン上昇単独ではなく、 心電図所見等と組み合わせて判断する。
急性心不全を合併したACSでは原則、 緊急での冠動脈造影と血行再建を試みる。
右室収縮能が保たれた疾患もあり注意
CS 1~CS 4に分類できないのが、 右心不全が主体の心不全である。 右心不全では原則肺水腫は見られず、 右心不全徴候としての体液貯留を伴う。 血圧は低めであることが多い。
左心機能が正常かつ右室の収縮機能障害があれば疑うが、 収縮性心膜炎など右室収縮能が保たれた疾患もあるため注意が必要である。
初期対応はCS 2に近く、 まずは循環動態の確認と利尿薬による体液貯留の是正を行う。
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編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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