HOKUTO編集部
13日前

切除不能または転移性腎細胞癌 (mRCC) の治療において、 HIF-2α阻害薬ベルズチファンが新たな選択肢として加わった。 同薬の有効性を最大限に引き出すためには、 オンターゲット毒性である貧血と低酸素症の特性を理解し、 早期かつ適切に対処することが重要である。 JSMO2026では、 埼玉県立がんセンター 腫瘍内科の近藤千紘氏が有害事象の生物学的メカニズムから実践的なマネジメントまでを解説した。
❶貧血と低酸素症はHIF-2α阻害による予測可能なオンターゲット毒性である
❷薬理遺伝学的多様性 (特に東アジア人で頻度が高いdual poor metabolizer) が曝露量と毒性の強さに影響を及ぼす
❸早期認識と適切な管理 (休薬・ESA・輸血・鉄補充) により治療継続が可能である
NCCNガイドラインによれば、 進行腎細胞癌に対しては複数の全身療法が利用可能である。 ベルズチファンは現在、 主に免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) やVEGF-TKIを含む全身療法による前治療歴のある患者に使用されている。 日本では2025年6月に承認され、 「VHL病関連腫瘍」 および 「がん化学療法後に増悪した根治切除不能又は転移性の腎細胞癌」 が適応となっている。
HIF-2αは正常な低酸素応答を媒介するタンパク質である。 VHL欠損腫瘍ではHIF-2αが蓄積し、 偽低酸素状態 (pseudohypoxia) を引き起こす。 ベルズチファンはHIF-2αとHIF-1β (ARNT) の相互作用を阻害して低酸素関連遺伝子を抑制する。 一方で、 この経路は正常な低酸素応答の調節にも関与しているため、 貧血や低酸素症などのオンターゲット毒性が生じる¹⁾。
HIF-2α阻害は複数の臓器に影響を与える。 例えば、 腎間質線維芽細胞ではエリスロポエチン (EPO) 産生を低下させ貧血を引き起こす。 また、 頸動脈小体細胞では低酸素換気応答を障害し、 CO₂への換気感受性低下と低酸素への順化を妨げる。 さらに、 肺血管内皮細胞では内皮シグナル伝達経路を変化させ、 肺血管リモデリングに影響を与える可能性がある。
ベルズチファンの薬物動態 (PK) と薬力学 (PD) の関係をみると、 ベルズチファンは投与後約2~3時間で血漿中濃度がピークに達し、 その後EPO値が急速に低下する。 数時間以内にEPO値は約30~50%低下し、 投与開始から1週間で60~80%の抑制率に達する²⁾。 このようなPKとPDの特性が、 早期の貧血を引き起こす。
ベルズチファンの安全性プロファイルは、 複数の臨床試験を通じて比較的一貫している。 最も頻度の高い有害事象は貧血であり、 次いで低酸素症が挙げられる。 そのほか疲労感、 呼吸困難などの症状が認められることもある³⁾。
ベルズチファンの曝露-反応解析において、 ベルズチファンの曝露量はEPO抑制およびその後のヘモグロビン (Hb) 低下と相関していることから、 貧血はHIF-2α阻害による予測可能なオンターゲット毒性である⁴⁾。 重度の貧血を発症するリスクは薬剤曝露量だけでなく、 ベースラインのHb値にも依存し、 ベースラインのHb値が低い患者では、 Grade 3の貧血を発症するリスクが高くなることが同解析において示されている。
ベルズチファンはCYP2C19およびUGT2B17によって代謝される。 UGT2B17およびCYP2C19の両酵素がpoor metabolizerである患者 (dual poor metabolizer) では薬剤曝露量が増加し、 毒性が早期かつ重度に発現する可能性がある。 Dual poor metabolizerの頻度はヨーロッパ系集団では約0.5%であるのに対し、 東アジア系集団では約15%に上るという報告もある⁴⁾。
ベルズチファンの安全性を、 VHL病患者を対象としたLITESPARK-004試験⁵⁾、 前治療歴のある転移性淡明細胞型腎細胞癌 (mccRCC) 患者を対象にベルズチファン群とエベロリムス群を比較したLITESPARK-005試験⁶⁾、 LITESPARK-005試験に含まれる東アジア系集団という3つの集団から比較する。
貧血は各集団で90%、 83%、 84%と高頻度に認められたが、 Grade 3以上の貧血はそれぞれ8%、 33%、 40%と、 LITESPARK-004試験で発現頻度が低かった。
低酸素症については、 LITESPARK-004試験では全Grade・Grade 3以上ともに2%、 LITESPARK-005試験では全Gradeが15%、 Grade 3以上が11%の発現率であった (LITESPARK-005試験の東アジア系集団では報告なし)。
東アジア系集団では全体集団と同様の傾向が認められた。 また、 LITESPARK-004試験で発現頻度が低い理由として、 患者年齢中央値が41歳と比較的若く、 良好なPSを維持していることが要因であると考えられる。
貧血管理として、 ベルズチファン投与開始前に全血球計算 (CBC) でベースラインのHb値を確認する。 Hb値が10g/dLを下回っている場合は、 疲労感・呼吸困難・出血・併存疾患等について評価し、 鉄代謝検査やビタミン値測定などを行う。 貧血管理には、 鉄剤の補給 、 赤血球輸血、 および根本的な原因の治療などがある。
症候性または重度の貧血に対しては輸血を検討する。
米国血液銀行協会 (AABB) の赤血球輸血ガイドライン2023年版では、 状態が安定している患者ではHb値7g/dL以下、 心血管疾患を有する患者ではHb値8g/dL以下で輸血を検討するとしている。
科学的根拠に基づいた赤血球製剤の使用ガイドライン (改訂第3版) でも、 状態が安定している患者でHb値7g/dLを輸血閾値としている。
鉄欠乏の評価も欠かせない。 ガイドラインごとに定義が若干異なるが、 低フェリチン値および低トランスフェリン飽和度を基準とし、 鉄欠乏が認められる場合は鉄剤補充を検討する。
例えば、 NCCNの造血成長因子のガイドライン (2026 v3) では、 絶対的鉄欠乏 (フェリチン<30ng/mLかつTSAT<20%) と機能的鉄欠乏 (フェリチン30~500ng/mLかつTSAT<50%) を区別しており、 いずれの場合も鉄剤補充が推奨されている。
赤血球造血刺激因子製剤 (ESA) については、 多くのガイドラインでHb値が10g/dL未満の場合に使用を検討するとしている。 ただしHb値の過度な上昇は避け、 一般に11.5~12g/dLを超えないよう管理することが重要である。 ESA開始前には鉄代謝の状態を確認し、 血栓塞栓症リスクについても考慮することが必要である。
本邦ではHIF-2α阻害薬関連貧血のレスキュー治療として、 ダルベポエチン アルファが 「ベルズチファン投与に伴う貧血」 の適応で保険適用となっており、 1回360μgを3週間以上の間隔をあけて皮下投与する。
Grade 3の貧血 (Hb値8.0g/dL未満または輸血が必要な状態) が発現した際には、 Grade 2未満に回復するまでベルズチファンを休薬する。 回復後は同じ用量または1段階減量した用量で投与再開できる。 Grade 4の貧血に対しては、 Grade 2未満まで休薬し1段階減量して再開することが基本であるが、 再発した場合はより慎重な管理または永続的な中止を検討する。
前述したLITESPARK-005試験において、 ベルズチファン群の全体集団 (374例) と日本人集団 (20例) では、 貧血はいずれの集団でも投与開始から約1ヵ月以内に発症している (中央値は全体集団29日、 日本人集団27.5日)。 ESAの使用開始時期は概ね同様であったが、 輸血は日本人集団の方が遅い時期に実施される傾向があった (中央値は全体集団89日、 日本人集団508日)。 なお、 日本人集団ではGrade 4の貧血が認められなかったが、 これは適切な臨床管理がなされていた可能性がある⁷⁾。
LITESPARK-005試験では、 ベースラインのSpO₂が92%未満の患者は除外されていた。 試験中は来院ごとにパルスオキシメーターでSpO₂を測定しモニタリングすることで、 低酸素症の早期発見が可能であった⁶⁾。
低酸素症の重症度はNCI-CTCAE v5.0によりグレード分類されている。 Grade 3 (安静時のSpO₂が88%未満またはPaO₂が55mmHg以下) では症状の有無により管理方法が異なる。 無症候性の場合は治療継続または一時中断とし、 必ずしも減量を必要としない。 有症候性の場合は回復するまで休薬し、 減量して治療再開することが推奨される。
来院時のモニタリングに加えて、 患者自身がパルスオキシメーターを購入し、 自宅でSpO₂を測定することも低酸素症の早期発見に有効である。 毎日計測する習慣をつけてもらい、 SpO₂が90%前後まで低下した場合には一時的に服薬を中断するようあらかじめ指導することで、 SpO₂の改善が期待できる。 この方法はdual poor metabolizerであるかどうかにかかわらず、 すべての患者に安全管理として応用できる。
Dual poor metabolizerが疑われる患者では、 受診間隔の短縮により低酸素症を早期に発見することができる。
ICIとの併用や、 VEGF標的薬との2次治療での併用など、 複数の試験が進行中であり、 HIF-2α阻害薬をより早い治療ラインで使用するためのエビデンスが蓄積されつつある。 これらの結果によって、 RCC治療におけるHIF-2α阻害の役割が1次治療を含むより早期の治療ラインにも拡大していく可能性がある。
1) Future Oncol. 2024;20(18):1251-1266.
2) Nat Med. 2021 May;27(5):802-805.
3) Int J Mol Sci. 2025 Jul 23;26(15):7094.
4) J Clin Pharmacol. 2024 Oct;64(10):1246-1258.
5) N Engl J Med. 2021 Nov 25;385(22):2036-2046.
6) Lee JL. ESMO Asia Congress. 2024 #LBA2.
7) MSD株式会社. WELIREG® (belzutifan) 臨床試験成績 LITESPARK-005(日本人部分集団を含む安全性データ). MSD Connect.
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編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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