HOKUTO編集部
4ヶ月前
本稿では食道胃接合部腺癌の治療戦略について、 ガイドラインなどの現状のエビデンスを中心に概説する (解説医師 : 国立がん研究センター中央病院頭頸部・食道内科/消化管内科 山本駿先生)。
一般に、 食道胃接合部腺癌と胃腺癌は分子生物学的には類似しており、 切除不能進行病期においては、 同一の治療戦略で開発が進められてきた。 そのため食道胃接合部腺癌では、 胃癌の化学療法におけるエビデンスに基づき実臨床でも治療が行われており¹⁾、 HER2陽性例においては抗HER2抗体トラスツズマブと2剤併用化学療法²⁾が、 HER2陰性かつCLDN18.2陰性例では抗PD-1抗体 (ニボルマブ、 ペムブロリズマブ) と2剤併用化学療法³⁾⁴⁾がそれぞれ標準治療として確立しており、 さらにHER2陰性かつCLDN18.2陽性例では抗CLDN18.2抗体ゾルベツキシマブと2剤併用化学療法⁵⁾⁶⁾も標準治療の選択肢の一つとして確立している。
本稿では、 これらのレジメンの食道胃接合部癌のデータを中心に、 HER2陽性/陰性およびHER2陽性/CLDN18.2陽性のそれぞれの初回薬物療法に関して概説する。
HER2陽性例に対する治療開発で重要な試験がToGA試験である。 ToGA試験は未治療のHER2陽性の進行胃癌または食道胃接合部癌を対象に、 フッ化ピリミジン系薬剤とプラチナ系薬剤をベースにして、 トラスツズマブの上乗せの有効性を検証した第Ⅲ相試験である。
主要評価項目である全生存期間 (OS) 中央値に関しては、 13.8ヵ月と11.1ヵ月であり、 トラスツズマブの上乗せにより有意な延長が報告された(HR 0.74、 95%CI 0.60-0.91)。 なおToGAには全体の約20%に相当する106例の食道胃接合部癌が登録され、 OSのHRに関してはHR 0.67(同0.42-1.08)と報告された²⁾。 そのため、 食道胃接合部癌でも実臨床において、 トラスツズマブの上乗せは治療効果が得られると考えられる。
なお現在、 ペムブロリズマブの上乗せを検証したKEYNOTE-811のプレスリリースにおいて、 OS中央値の有意な延長が報告されており、 今後サブグループも含めた結果が期待される。
HER2陰性例に対する治療開発で重要な試験が、 CheckMate 649試験とKEYNOTE-859試験である。
CheckMate 649試験は、 未治療のHER2陰性の進行胃癌または食道胃接合部癌を対象に、 フッ化ピリミジン系薬剤とプラチナ系薬剤をベースにして、 ニボルマブの上乗せ、 またはニボルマブとイピリムマブ併用療法の有効性を検証した第Ⅲ相試験である (ニボルマブとイピリムマブ併用療法のコホートは途中で登録中止)。
主要評価項目の1つであるPD-L1 CPS 5%以上の集団おけるOS中央値に関しては、 14.1ヵ月と11.1ヵ月であり、 ニボルマブの上乗せにより有意な延長が報告された(HR 0.71、 98.4%CI 0.59-0.86)³⁾。 なおCheckMate 649試験には、 こちらも全体の約20%に当たる170例の食道胃接合部癌が登録され、 OSのHRに関してはHR 0.82(95%CI 0.58-1.16)と報告された⁷⁾。
KEYNOTE-859は、 未治療の進行胃癌または食道胃接合部癌を対象に、 フッ化ピリミジン系薬剤とプラチナ系薬剤をベースにして、 ペムブロリズマブの上乗せの有効性を検証した第Ⅲ相試験である。
主要評価項目の1つである、 全体集団のOS中央値に関しては、 12.9ヵ月と11.5ヵ月であり、 ペムブロリズマブの上乗せにより有意な延長が報告された(HR 0.78、 95%CI 0.70-0.87)。 なおKEYNOTE-859には、 こちらも全体の約20%に当たる334例の食道胃接合部癌が登録され、 OSのHRに関してはHR 0.74(同0.58-0.94)と報告された⁴⁾。
これらの結果から、 抗PD-1抗体の治療効果に関して、 食道胃接合部癌においては全体集団と比較して同等と考えられることから、 実臨床においても免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) は重要な治療選択肢になり得る。
HER2陰性のうち、 CLDN18.2陽性例は約35%と報告されており、 こちらの対象で重要な試験が、 先日承認されたばかりのゾルベツキシマブに関連する、 SPOTLIGHT試験とGLOW試験である。
SPOTLIGHT試験は、 未治療のHER2陰性かつCLDN18.2陽性の進行胃癌または食道胃接合部癌を対象に、 FOLFOX (フルオロウラシル、 オキサリプラチン、 レボホリナート) 療法をベースにして、 ゾルベツキシマブの上乗せの有効性を検証した第Ⅲ相試験である。
全体集団のOS中央値に関しては、 18.23ヵ月と15.54ヵ月であり、 ゾルベツキシマブの上乗せにより有意な延長が報告された(HR 0.75、 95%CI 0.60-0.94)。 なおSPOTLIGHT試験には、 こちらも全体の約20%に当たる136例の食道胃接合部癌が登録され、 OSのHRに関してはHR 1.07(95%CI 0.69-1.67)と報告された⁵⁾。
GLOW試験は、 未治療の進行胃癌または食道胃接合部癌を対象に、 CAPOX (カペシタビン、 オキサリプラチン) をベースにして、 ゾルベツキシマブの上乗せの有効性を検証した第Ⅲ相試験である。
副次評価項目である全体集団のOS中央値に関しては、 14.39ヵ月と12.16ヵ月であり、 ゾルベツキシマブの上乗せにより有意な延長が報告された(HR 0.771、 95%CI 0.615-0.963)。 なおGLOW試験には、 全体の約15%に相当する79例の食道胃接合部癌が登録され、 OSのHRに関してはHR 1.013(同0.563-1.823)と報告された⁶⁾。
これらの結果から、 既存の薬剤のサブグループ解析と異なり、 ゾルベツキシマブに関しては食道胃接合部癌においては治療効果が限定的である可能性が示唆される。 しかし、 胃腺癌と食道胃接合部腺癌に関しては分子生物学的には類似しており、 その点で差異が出たとは考えにくい。 部位の影響なども考慮されるが、 いまだにその理由は明らかになっていない。 さらに症例数も限られていることから、 食道胃接合部癌におけるゾルベツキシマブに関して、 今後の実臨床におけるエビデンスの集積が期待される。
本稿では、 各治療薬のピボタル試験における食道胃接合部癌の初回薬物療法に関するエビデンスに着目し概説した。 本稿がHOKUTOユーザーの皆様の臨床の参考になれば幸いである。
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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