標準治療を拒否する患者さんにどう対応する?
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11ヶ月前

標準治療を拒否する患者さんにどう対応する?

標準治療を拒否する患者さんにどう対応する?
標準治療を患者さんが拒否した時、 どのような対応が望ましいのでしょうか。 連載 「患者さんにどう伝えますか?」 の5回目は、 この点を深掘りします。 

ステージ4の患者 「抗がん剤は毒。 波動治療したい」

新型コロナ禍では、 科学的根拠に基づかないフェイクニュースが話題になりました。 医学界では、 診療ガイドラインが当たり前のように用いられるようになった反面、 世間一般には、 いまだに 「抗がん剤は効かない」 など標準治療を否定する情報は後を絶ちません。

ある患者さんの話です。 ステージ4の悪性リンパ腫と診断されました。 悪性リンパ腫は、 悪性腫瘍の中でも、 抗がん剤 (化学療法) が効きやすいがん種です。 抗がん剤によって、 ステージ4であっても治癒が期待できる悪性腫瘍であることは、 医師であれば常識です。

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写真はイメージです

患者さんは、 医師から 「すぐに抗がん剤をするように」 と言われたものの、 ネットで調べるうちに、 「抗がん剤は毒であり、 抗がん剤はやらないほうがよい。 〇〇波動治療でがんを治せる」 との情報を信じてしまいました。

どう説明しますか?

先生なら、 どのように説明しますか?

  1. ◯◯波動治療には効果がない
  2. 標準治療 (抗がん剤) をやらないと死んでしまう
  3. 標準治療をするかの最終的な選択はあなたにまかせる

上記のような対応をする医師も多いかもしれません。 いずれも間違いではなく、 すべて正しいように思います。 ただ、 患者さんは 「すぐ抗がん剤をするのは怖いので、 まず◯◯波動療法で経過を見てほしい」 との希望があるようでした。

実際の医師対応

この患者さんは結局、 元の主治医から 「◯◯波動治療をするのであれば、 責任を持てないので、 うちでは診られない」 と告げられ、 他の病院を受診したそうです。

ただ、 他の病院でも言われることは同じ。 「すぐに抗がん剤治療を受けるように」 「なぜ、 抗がん剤を受けないのか理解できない」 といったけんもほろろとした対応だったそうです。

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有名ながん専門病院の医師は、 患者さんが診察室に入るやいなや、 怒った様子で 「抗がん剤をしないのは自殺行為だ。 複数の医者に抗がん剤を勧められているのに何を考えているんだ」 とまくしたて、 5分も経たないうちに患者さんを追い出したそうです。

患者さんは30代女性。 大卒で定職についている方です。

患者が抗がん剤を拒否した理由

この患者さんは、 5件目くらいに私の外来を受診されました。 「なぜ抗がん剤を受けたくないのか?」 と聞くと、 「実は身内をがんで亡くした経験があり、 抗がん剤でひどい目にあったのを見ていた」 とのことでした。

その経験から、 抗がん剤には抵抗感があるとのこと。 よくよく聞くと、 身内の死因は肺がんで、 死亡したのは20年前でした。

私は 「大変お気の毒でした。 肺がんとリンパ腫とは使う抗がん剤の種類はまったく違います」 とした上で 「20年前と現在では抗がん剤の副作用への対応はかなり進歩し、 副作用を軽減できるようになりました」 などと1時間以上話しました。

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すると患者さんは 「こんなに話を聞いてくれたお医者さんは初めてでした。 ありがとうございます」 と感謝の意を示してくれました。

面談後抗がん剤に同意、 完全奏効

それでも、 すぐに抗がん剤に同意してくれたわけではありません。 外来で、 2~3回、 面談を重ねた後、 同意を得ました。

患者さんは現在、 規定の抗がん剤を終了し、 PET-CTでもCR (完全奏効) が確認され、 元気で外来通院をしています。

高学歴ほど標準治療を受けない傾向に

標準治療を拒否する患者を診たくないのは、 医師の本音かもしれません。 正しい情報を伝えられた後に治療を最終的に選ぶのは患者だから、 患者の自己責任だと考える人も多いと思います。

しかし、 患者は圧倒的に情報弱者であり、 医学の素人です。 我々が時間をかけて学んできた医学を数時間で理解することは不可能に近いでしょう。

アメリカの研究*¹で、 高学歴・高収入の傾向にある地域の住民の方が標準治療を受けず、 代替療法を受ける割合が高かったとの報告もあります。 日本の研究*²でも同様の傾向でした。

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高学歴の人ほど色々な情報を調べるものの、 正しい情報にたどりつくことが難しいということを意味します。 医学の素人である患者さんに標準治療の大切さをわかってもらうにはどうしたらいいのでしょうか。

「コミュニケーション力が大切」 にエビデンスあり

それを解く一つの鍵は、 コミュニケーション力であると思います。 コミュニケーション力は、 専門性をもった医師が手術や特殊な治療を行うがごとく、 医師の専門性として身に着けておきたい能力の一つだと思います。

「コミュニケーション力は必要なのか?」

「コミュニケーションを持つことのエビデンスはあるのか?」

と思う先生もいるかもしれません。 実は、 日本で行われたランダム化比較試験*³で、 医師のコミュニケーション力が患者さんのアウトカムを向上させたというエビデンスがあります。

次回はそのエビデンスを解説します。

標準治療を拒否する患者さんにどう対応する?

出典

Use of Alternative Medicine for Cancer and Its Impact on Survival. J Natl Cancer Inst(2018). PMID: 28922780

Nationwide survey on complementary and alternative medicine in cancer patients in Japan. J Clin Oncol(2005)23(12):2645-54. PMID: 15728227

Effect of communication skills training program for oncologists based on patient preferences for communication when receiving bad news: a randomized controlled trial. J Clin Oncol(2014)32(20):2166-72. PMID: 24912901

過去の連載一覧

  1. なぜ説明と同意だけではいけないの?
  2. 「先生の家族だったらどう治療しますか」
  3. 「ICします」 はもうやめよう
  4. 治療拒否の同意書?

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HOKUTO編集部
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編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。

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