HOKUTO編集部
4ヶ月前
7月上旬には東京で第78回日本食道学会学術集会が開催され、 食道を専門とする医師が集まった。 現状のエビデンスにとどまらず、 若手による今後の将来展望の発表もあり充実した学会であった。 個人的には、 自分が統括事務局を務める日本臨床腫瘍研究グループ (JCOG) 食道癌グループの若手の会のメンバーと、 face to faceで交流する機会が得られたことが印象的であった。
今月は、
❶第Ⅲ相試験ESCORT-NEOの短期成績
❷第Ⅲ相試験PRODIGYの長期成績
❸ニボルマブ単剤療法 2用量の後ろ向き研究
の3本を取り上げる。
▼背景
切除可能な局所進行食道扁平上皮癌に対する抗PD-1抗体camrelizumabを含む術前療法については、 近年の単群前向き研究において、 有望な治療効果が報告されている。
そのため非盲検の第Ⅲ相無作為化試験であるESCORT-NEOでは、 未治療の切除可能な局所進行食道扁平上皮癌 (cT1b-3N1-3M0、 cT3N0M0) を対象に、 周術期治療として、 2剤併用術前療法に周術期camrelizumab療法を上乗せした新規治療の有効性と安全性が検証された。
▼試験デザイン
ESCORT-NEOには、 未治療の切除可能な局所進行食道扁平上皮癌が登録され、 ①術前パクリタキセルとシスプラチン (TP) 併用療法、 ②術前TP療法+周術期camrelizumab療法、 ③術前nab-パクリタキセルとシスプラチン (nab-TP) 併用療法+周術期camrelizumab療法-に割り付けされ、 臨床病期で層別化された。
主要評価項目は病理学的完全奏効 (pCR) と無イベント生存割合 (EFS) と設定され、 本論文ではpCRの結果が報告された。
▼試験結果
ESCORT-NEOには、 391例が登録され、 TP療法群 (129例)、 TP+camrelizumab療法群 (130例)、 nab-TP+camrelizumab療法群 (132例) に1 : 1 : 1で無作為に割り付けられた。
主要評価項目の1つであるpCR割合に関しては、 TP療法群で4.7%、 TP+camrelizumab療法群で15.4% (p=0.0034)、 nab-TP+camrelizumab療法群で28.0% (p<0.0001) と報告され、 それぞれTP療法群と比較すると有意な改善を認めた。
Grade 3以上の治療関連有害事象の発現頻度は、 TP療法群で28.8%、 TP+camrelizumab群で29.2%、 nab-TP+camrelizumab療法群で34.1%と報告された。 なお術後合併症発生頻度は、 TP療法群で32.0%、 TP+camrelizumab群で38.8%、 nab-TP+camrelizumab療法群で34.2%と報告された。
▼結論
これらの結果から、 術前療法とcamrelizumabの併用は、 従来の術前療法と比較して、 pCRの有意な改善を認め、 忍容性も良好であった。
💬My Opinions
pCR割合の結果から長期成績の改善も期待
本試験は、 先月号のJCOG1109と同様、 食道癌で最も多い対象である切除可能な局所進行食道扁平上皮癌を対象とした第Ⅲ相無作為化試験である。 ESCORT-NEOは短期的な結果しか報告されていないが、 同対象の予後に影響を与え得るpCR割合の有意な改善は、 長期成績の改善も期待させる。
JCOG1109やNeoResではpCR割合は予後との関連を認めなかったが、 この理由として、 違うモダリティ (例えば、 術前薬物療法と術前化学放射線療法) 同士での比較では関連が乏しい可能性が考えられる。 実際にJCOG1109のCF (シスプラチン、 フルオロシル) 療法群とDCF (ドセタキセル、 シスプラチン、 フルオロシル) 療法群の結果を考えると、 pCR割合の改善が長期予後の改善に繋がっている可能性があり得ることから、 食道扁平上皮癌における周術期治療の開発を考える際に同じモダリティ間でのpCRは非常に重要なファクターと考えられる。
併用薬によるpCR割合の差は患者背景が関連か
本試験において興味深い点として、 パクリタキセルの併用とnab-パクリタキセルの併用によりpCR割合が約10%も異なることが挙げられる。 実際に本試験が発表された米国臨床腫瘍学会消化器癌シンポジウム (ASCO-GI) 2024の壇上ではステロイド使用の有無に関する議論が行われていたが、 患者背景 (PD-L1 CPS 10%以上の割合など) の違いが影響している可能性も考えられる。
周術期の治療開発を考える上で重要な示唆
本試験は中国国内のみの試験であり、 本邦では同対象に対する標準治療が術前DCF療法であることから、 有望な長期成績がでても標準治療がすぐに変わるわけではないが、 今後の周術期開発を考える際に重要な示唆を与える研究であると考えられる。
▼背景
切除可能な局所進行胃癌 (cT2-3N+ or cT4Nany) に対する周術期治療として、 術前DOS (ドセタキセル、 オキサリプラチン、 S-1) 療法+術後S-1療法は、 術後S-1療法単独と比較して無増悪生存期間 (PFS) を有意に延長させることがPRODIGYで報告された。
PRODIGYの主要評価項目はPFSと設定されたが、 全生存期間 (OS) は副次評価項目と設定されており、 本論文においてはPRODIGYにおけるOSの長期追跡結果が報告された。
▼試験デザイン
PRODIGYには、 484例が登録され、 術前DOS療法群 (238例)、 術後S-1療法群 (246例) に1 : 1で無作為に割り付けられた。
▼試験結果
今回の追跡期間中央値99.5ヵ月の報告では、 8年生存割合は術前DOS療法群で63.0%、 術後S-1療法群で55.1%と報告され、 優越性が証明された (HR 0.72、 95%CI 0.54-0.96、 p=0.027)。 またPFSも同様の結果であった (HR 0.70、 95%CI 0.53-0.94、 p=0.016)。
▼結論
術前DOS療法+術後S-1療法による周術期治療は、 術後S-1療法単独と比較してOSの有意な延長を認めた。 アジアにおける局所進行胃癌の標準治療の一つとして考えるべきである。
💬My Opinions
局所進行胃癌の周術期薬物療法の意義を確立
本試験は、 切除可能な局所進行胃癌における周術期薬物療法の意義をアジアで確立した第Ⅲ相試験である。 欧米ではFLOT4の結果から、 切除可能な局所進行胃癌における標準的な周術期治療は術前後のFLOT療法であるが、 本邦ではACTS-GCやJACCRO-GC07の結果から、 標準的な周術期治療は術後S-1療法や術後ドセタキセルとS-1の併用療法とされている。 しかし、 本邦の標準治療に近い対照群が設定されたPRODIGYの結果を加味すると、 今後本邦においても現状の標準治療に術前治療を上乗せする周術期治療戦略は有望な治療開発の選択肢になると考えられる。
周術期治療へのICIの上乗せにも期待
同対象に対しては、 周術期治療にさらに免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) を上乗せする治療開発が進められている。 KEYNOTE-585ではペムブロリズマブの上乗せの有効性が証明されなかったが、 デュルバルマブの上乗せを検証するMATTERHORNが進行中であり、 今後の展開が期待される。
▼背景
ニボルマブ単剤療法は、 ATTRACTION-3の結果から、 ICI未使用で、 プラチナ系薬剤不応・不耐後の進行食道扁平上皮癌に対する標準的な2次治療として確立されている。 当初、 2週間隔の240mg/bodyの固定用量が承認されたが、 その後の薬物動態のデータを基に、 4週間隔の480mg/bodyも使用可能となった。 しかし、 これら2用量の有効性と安全性を比較したデータは乏しい。
▼試験デザイン
上記の2用量の有効性と安全性を後ろ向きに比較するため、 有効性の指標としてOSやPFS等を評価し、 安全性の指標として有害事象発生割合を評価した。 対象は日本の単施設においてニボルマブ単剤療法を受けた117例の食道扁平上皮癌の症例(2次治療 : 85例、 3次治療以降 : 32例)であった。
▼試験結果
OS中央値に関しては、 2次治療例では、 2週間群で22.8ヵ月、 4週間群で未到達(HR 0.99、 95%CI 0.99-1.00])、 3次治療以降例では、 2週間群で5.6ヵ月、 4週間群で5.7ヵ月(HR 0.99、 95%CI 0.99-1.00)と報告された。
PFS中央値に関しては、 2次治療例では、 2週間群で1.7ヵ月、 4週間群で4.1ヵ月 (HR 0.60、 95%CI 0.35-1.01)、 3次治療以降例では、 2週間群で4.0ヵ月、 4週間群で5.8ヵ月 (HR 0.58、 95%CI 0.23-1.46]) と報告された。
なお全Gradeの有害事象の発生頻度に関しては、 2週間群で58.3%、 4週間群で69.7%と報告された。
▼結論
既治療の進行食道扁平上皮癌において、 ニボルマブの2用量に関して有効性と安全性は同等であった。
💬My Opinions
4週間に1回のニボルマブ単剤療法も選択肢に
単施設の後方視的検討であるが、 実臨床では重要なポイントを明らかにした研究と言える。 実際にATTRACTION-3で検証された2週間に1回の投与法と、 食道癌の臨床データとしては乏しい4週間に1回の投与法で有効性や安全性が同等であれば、 利便性の観点から4週間に1回のニボルマブ単剤療法も十分選択肢になり得ると考えられる。
現在は進行食道扁平上皮癌の初回薬物療法として、 FP+Nivo (フルオロウラシル、 シスプラチン、 ニボルマブ) 療法も使用可能であるが、 手術後の早期再発例や根治的化学放射線療法後の不応例等でニボルマブ単剤は選択肢になることから、 臨床に直結し得る内容である。
2024年も既に半分が終了し、 焦りも生じる今日この頃であるが、 来月も新たなエビデンスに出会えることを期待している。
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。