HOKUTO編集部
2年前
❶ 鉄欠乏性貧血 (IDA)
❷ 慢性疾患/炎症に伴う貧血 (ACD)
❸ Hb異常症、 主にサラセミア
🔢鉄飽和度 (TSAT)
🔢フェリチン
🔢Mentzer index
以下に小球性貧血の原因となる3つの疾患についてポイントを述べる
鉄の吸収・排泄量はそれぞれ1~2㎎/日である¹⁾。 汗、尿、便などからの受動的に排泄される。 鉄吸収量の増減によって排泄量も調整されるような、 能動的排泄機構はヒトにはない。
鉄はヒトが意識して調整しないと容易に欠乏症/過剰症となる
1. 慢性出血:鉄排泄量の増加
2. 鉄供給量の低下
男女ともに中高齢者(特に閉経後)では、消化管悪性腫瘍は見逃すことのできない鑑別である。 また、 若年女性の鉄欠乏性貧血は非常に多いが、 原因の多くは月経関連や過度な減量である。
中高年者・男性⇒消化管や女性器悪性腫瘍、
若年女性⇒月経関連・偏食を見逃さない!
以下の検査項目のうち、 血清鉄、 TIBC、 フェリチンを主に診断に用いる。
血清鉄:鉄のキャリア蛋白であるトランスフェリン(Tf)に結合した状態の鉄のこと
総鉄結合能(TIBC):Tfを機能的に測定した値でありTf総量と考えて間違いはない
不飽和鉄結合能(UIBC):鉄が結合していないTfの量であり、 以下の関係式が成り立つ
TIBC = 血清鉄 + UIBC
鉄飽和度(T-SAT):以下の式で計算され、 鉄欠乏症ではTIBCが上昇して血清鉄が減るため、 低くなる。 一方で、 ACDではTIBCが上昇しないためTSATも正常~減少した値となる
T-SAT = 血清鉄 ÷ TIBC
(正常 25-45%、 IDA ≦18%²⁾)
フェリチン:体内の貯蔵鉄を反映する蛋白質である。 貯蔵鉄の増減とともに増減する。 フェリチン低値なら鉄欠乏性貧血と診断してよい。
カットオフは30ng/mLとすることで感度59-92%、 特異度96-98%でIDAを診断可能³⁾⁴⁾。
フェリチン:貯蔵鉄を反映
(正常値 31-100ng/mL、 IDA≦30ng/mL²⁾)
IDAの治療は、 鉄補充と原疾患の治療に分けられる。 原疾患の治療が大切なのは当然であり、 それがなされずに鉄補充をしても改善しない、 または再発する。
鉄補充の原則とは?
用量は?
低用量である方が鉄の吸収は良好である⁸⁾。 これは上記した1日の鉄吸収量が1㎎程度であることからも理解できる。
用法は?
毎日 vs 隔日で比較すると隔日投与の方が鉄吸収が改善し嘔気などの副作用がすくない⁷⁾。
筆者が外来でよく行う処方
クエン酸第一鉄50㎎ 1日1回 夕食後 毎日
加えて患者に「毎日飲む必要はなく、 飲み忘れてもよい。 嘔気が出る場合も2-3日に1回程度の内服でよい」と伝えている。 こうすることで、 患者は安心し、 副作用も管理可能となり、 治療効果も最大限となるため一石三鳥である。
静注製剤は毎日投与の製剤と週1回投与の製剤がある。 上記したように鉄には能動的排泄機構がないため、 静注した鉄はすべて蓄積されてしまう。 投与量を決めておかなければ鉄過剰証を引き起こすことになるので、 事前に🔢中尾の式で計算した量までの投与にする。
典型的には、 以下のように治療効果がでる
経口鉄補充はフェリチンやTSAT正常化まで継続、 静注製剤はフェリチンやTSATを指標にしない!
💡 難治性鉄欠乏性貧血の原因としてHelicobacter pylori感染がある
Anemia of chronic disease/inflammationの略でACDとも呼ばれる。 感染症や悪性腫瘍、 自己免疫性疾患など慢性的な高炎症反応/高サイトカイン状態によって、 鉄吸収の低下、 リンパ網内系への鉄貯蔵によって赤血球産生が滞る病態である。
ACDの病態のカギとなる蛋白質がヘプシジン(hepcidine)である。 感染症や炎症反応上昇に伴い肝臓で産生される蛋白質で細胞膜状のフェロポーチン(ferroportin)に結合して鉄の移動を阻害する。 これにより小腸からの鉄吸収、 マクロファージからの鉄放出を阻害する¹⁰⁾
以下にIDAと比較した各検査項目の表をしめす。 診断の決め手はフェリチン高値である
原疾患の治療
治療はいわずもがな原因疾患の治療である。 鉄補充はTSATが20%以下など鉄欠乏も合併している場合のみ慎重に投与する。 上記のヘプシジンの吸収阻害作用を考慮すると経口よりも静注の方が有効である可能性はあるが、 比較した無作為化試験はない。
輸血支持療法
貧血による症状が強い、 心不全がある、 という場合なら輸血を検討する。
小球性貧血の最後のテーマはサラセミア: Thalassemiaに代表されるHb異常症 (Hemoglobrinopathy)である。 先天性のHb産生障害で、 グロビンのどの鎖の異常なのかによりαサラセミアとβサラセミアに分けれらる。
日本人は軽症のサラセミアが多く、 健康診断で初めて指摘されることがある。 ポイントはいかの2つである。
💡 小球性貧血なのに赤血球数が多い場合にHb異常症を疑う
💡 Mentzer indexを計算し、 溶血の有無・IDAの合併の有無をチェック
ヘモグロビン電気泳動などで診断に迫ることが出来るが、 確定診断は遺伝子検査を要する。
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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