【もう迷わない!】貧血マネジメント④「小球性貧血の鑑別」(聖路加藤野先生)
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HOKUTO編集部

2年前

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【もう迷わない!】貧血マネジメント④「小球性貧血の鑑別」(聖路加藤野先生)

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小球性貧血のポイント

覚えておくべき3つの"鑑別"

❶ 鉄欠乏性貧血 (IDA)

❷ 慢性疾患/炎症に伴う貧血 (ACD)

❸ Hb異常症、 主にサラセミア

覚えておくべき3つの"検査"

🔢鉄飽和度 (TSAT)

🔢フェリチン

🔢Mentzer index

MCV鑑別フローチャート

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前回までのフロー

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以下に小球性貧血の原因となる3つの疾患についてポイントを述べる

❶鉄欠乏性貧血 (IDA)

鉄の吸収と排泄について

鉄の吸収・排泄量はそれぞれ1~2㎎/日である¹⁾。 汗、尿、便などからの受動的に排泄される。 鉄吸収量の増減によって排泄量も調整されるような、 能動的排泄機構はヒトにはない。

鉄はヒトが意識して調整しないと容易に欠乏症/過剰症となる

原因は大きく2つに分類される

1. 慢性出血:鉄排泄量の増加

  • 消化管出血:消化管腫瘍*、 消化管潰瘍
  • 女性付属器出血:過多月経**、 不正出血

2. 鉄供給量の低下

  • 偏食:菜食主義、 過度な減量
  • 消化管手術後:胃切除、 空腸切除
  • Helicobacter pylori感染症
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男女ともに中高齢者(特に閉経後)では、消化管悪性腫瘍は見逃すことのできない鑑別である。 また、 若年女性の鉄欠乏性貧血は非常に多いが、 原因の多くは月経関連や過度な減量である。

中高年者・男性⇒消化管や女性器悪性腫瘍、
若年女性⇒月経関連・偏食を見逃さない!

鉄欠乏性貧血の診断

以下の検査項目のうち、 血清鉄、 TIBC、 フェリチンを主に診断に用いる。

血清鉄:鉄のキャリア蛋白であるトランスフェリン(Tf)に結合した状態の鉄のこと

総鉄結合能(TIBC):Tfを機能的に測定した値でありTf総量と考えて間違いはない

不飽和鉄結合能(UIBC):鉄が結合していないTfの量であり、 以下の関係式が成り立つ

TIBC = 血清鉄 + UIBC

鉄飽和度(T-SAT):以下の式で計算され、 鉄欠乏症ではTIBCが上昇して血清鉄が減るため、 低くなる。 一方で、 ACDではTIBCが上昇しないためTSATも正常~減少した値となる

T-SAT = 血清鉄 ÷ TIBC
(正常 25-45%、 IDA ≦18%²⁾)

フェリチン:体内の貯蔵鉄を反映する蛋白質である。 貯蔵鉄の増減とともに増減する。 フェリチン低値なら鉄欠乏性貧血と診断してよい。

カットオフは30ng/mLとすることで感度59-92%、 特異度96-98%でIDAを診断可能³⁾⁴⁾。

フェリチンは急性期反応物質でもあるため、 炎症反応が高い状態では上昇する。 上記診断精度は炎症反応がない場合に限る。
フェリチン:貯蔵鉄を反映
(正常値 31-100ng/mL、 IDA≦30ng/mL²⁾)

鉄欠乏性貧血の治療

IDAの治療は、 鉄補充と原疾患の治療に分けられる。 原疾患の治療が大切なのは当然であり、 それがなされずに鉄補充をしても改善しない、 または再発する。

鉄補充の原則とは?

  1. 少量、 1日1回、 内服、 隔日投与がBest 毎日でも臨床上は問題ない
  2. 内服であれば吸収上限量が決まっているので鉄過剰症のリスクが低い
  3. 緑茶、 紅茶などに含まれるタンニンは鉄吸収を阻害するが、 それによる臨床アウトカムの差は明らかではない⁵⁾
  4. ビタミンCの併用によって吸収効率が上がるとされるが、 これも臨床アウトカムの改善にはつながらなかった⁶⁾
  5. 静注製剤は、 内服療法が不耐容、 消化管から吸収できない、 重度貧血で早急な鉄補充が必要な場合のみ使用する

用量は?

低用量である方が鉄の吸収は良好である⁸⁾。 これは上記した1日の鉄吸収量が1㎎程度であることからも理解できる。

用法は?

毎日 vs 隔日で比較すると隔日投与の方が鉄吸収が改善し嘔気などの副作用がすくない⁷⁾。

筆者が外来でよく行う処方

クエン酸第一鉄50㎎ 1日1回 夕食後 毎日

加えて患者に「毎日飲む必要はなく、 飲み忘れてもよい。 嘔気が出る場合も2-3日に1回程度の内服でよい」と伝えている。 こうすることで、 患者は安心し、 副作用も管理可能となり、 治療効果も最大限となるため一石三鳥である。

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徐放製剤は消化器症状が少ないが、 吸収率が悪い
第一鉄は胃酸の影響を受けにくく、 吸収されやすい
特に嘔気の副作用で困るなら、 薬剤変更をしてみたほうが良い
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事前に中尾の式で総鉄必要量を計算する
溶解は必ずブドウ糖液を使用
フェイジェクトは体重とHb値によって投与回数が変わるので適正使用のお知らせを参照

静注製剤は毎日投与の製剤と週1回投与の製剤がある。 上記したように鉄には能動的排泄機構がないため、 静注した鉄はすべて蓄積されてしまう。 投与量を決めておかなければ鉄過剰証を引き起こすことになるので、 事前に🔢中尾の式で計算した量までの投与にする。

治療経過と期間

典型的には、 以下のように治療効果がでる

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  • ヘモグロビンは2週間ほどで上昇し始めるが、 そこで治療を終わると再発する
  • フェリチンが正常化するまでが治療期間の正解である
  • フェリチンが炎症などで上昇し、 TSATでIDAを診断した場合はTSATの正常化まで治療する
  • 静注製剤はフェリチンやTSATはすぐに上昇して治療終了の目安とならないので、 🔢中尾の式や製薬会社のInfomationに沿って中止を判断する
経口鉄補充はフェリチンやTSAT正常化まで継続、 静注製剤はフェリチンやTSATを指標にしない!

Helicobacter pylori感染との関連

  • IDAの原因としてHelicobacter pylori感染が注目されている
  • 萎縮性胃炎による胃酸・アスコルビン酸の低下、 菌による鉄の強奪によって難治性鉄欠乏性貧血となる
  • 除菌療法のみでIDAが改善する症例もある(9)
  • 保険診療上は上部消化管内視鏡検査を行い、 萎縮性胃炎の所見があった上でないと検査はできないので注意する。
💡 難治性鉄欠乏性貧血の原因としてHelicobacter pylori感染がある

❷慢性疾患/炎症に伴う貧血 (ACD)

Anemia of chronic disease/inflammationの略でACDとも呼ばれる。 感染症や悪性腫瘍、 自己免疫性疾患など慢性的な高炎症反応/高サイトカイン状態によって、 鉄吸収の低下、 リンパ網内系への鉄貯蔵によって赤血球産生が滞る病態である。

ACDの病態のカギとなる蛋白質がヘプシジン(hepcidine)である。 感染症や炎症反応上昇に伴い肝臓で産生される蛋白質で細胞膜状のフェロポーチン(ferroportin)に結合して鉄の移動を阻害する。 これにより小腸からの鉄吸収、 マクロファージからの鉄放出を阻害する¹⁰⁾

ACDの診断と検査

以下にIDAと比較した各検査項目の表をしめす。 診断の決め手はフェリチン高値である

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ACDの治療

原疾患の治療

治療はいわずもがな原因疾患の治療である。 鉄補充はTSATが20%以下など鉄欠乏も合併している場合のみ慎重に投与する。 上記のヘプシジンの吸収阻害作用を考慮すると経口よりも静注の方が有効である可能性はあるが、 比較した無作為化試験はない。

輸血支持療法

貧血による症状が強い、 心不全がある、 という場合なら輸血を検討する。

❸Hb異常症、 サラセミア

小球性貧血の最後のテーマはサラセミア: Thalassemiaに代表されるHb異常症 (Hemoglobrinopathy)である。 先天性のHb産生障害で、 グロビンのどの鎖の異常なのかによりαサラセミアとβサラセミアに分けれらる。

日本人は軽症のサラセミアが多く、 健康診断で初めて指摘されることがある。 ポイントはいかの2つである。

💡 小球性貧血なのに赤血球数が多い場合にHb異常症を疑う
💡 Mentzer indexを計算し、 溶血の有無・IDAの合併の有無をチェック

ヘモグロビン電気泳動などで診断に迫ることが出来るが、 確定診断は遺伝子検査を要する。


Take home messages

  1. IDAは鉄補充と原因疾患の治療!
  2. 鉄補充は少量、1日1回、隔日、内服がBest!
  3. IDAとACDを鑑別できるように!
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連載一覧

  1. 貧血総論 「もう迷わない!」
  2. 出血と溶血の違いは?
  3. MCVによる鑑別総論
  4. 小球性貧血のマネジメント
  5. 大球性貧血のマネジメント
  6. 正球性貧血のマネジメント (最終回)

参考文献

  1. Finch CA, Huebers H. N Engl J Med 1982;306(25):1520–8.
  2. Auerbach M, Adamson JW. Am J Hematol 2016;91(1):31–8.
  3. Skikne BS, Punnonen K, Caldron PH, et al. Am J Hematol 2011;86(11):923–7.
  4. Mast AE, Blinder MA, Gronowski AM, Chumley C, Scott MG. Clin Chem 1998;44(1):45–51.
  5. Disler PB, Lynch SR, Charlton RW, et al. Gut 1975;16(3):193–200.
  6. Li N, Zhao G, Wu W, et al. JAMA Netw Open 2020;3(11):e2023644.
  7. Stoffel NU, Cercamondi CI, Brittenham G, et al. Lancet Haematol 2017;4(11):e524–33.
  8. Moretti D, Goede JS, Zeder C, et al. Oral iron supplements increase hepcidin and decrease iron absorption from daily or twice-daily doses in iron-depleted young women. Blood 2015;126(17):1981–9.
  9. Hershko C, et al. Blood Cells Mol Dis. 2007 Jan-Feb;38(1):45-53.
  10. Ganz T. Blood 2011;117(17):4425–33.

こちらの記事の監修医師
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編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。

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