HOKUTO編集部
11ヶ月前
2023年12月9~12日に米国・サンディエゴで開催された米国血液学会 (ASH 2023) について、 第2回は引き続き藤先生に、 多発性骨髄腫 (MM) 、 移植片対宿主病 (GVHD) 、 マントル細胞リンパ腫、 鎌状赤血球症、 および急性白血病に関する注目演題8題についてご解説いただきました。
自家移植の適応と考えられる70歳までの多発性骨髄腫 (MM) におけるダラツムマブをVRd (プロテアソーム阻害薬ボルテゾミブ+免疫調節薬レナリドミド+デキサメタゾン) に上乗せする効果を評価した第Ⅲ相試験です。
既にGRIFFIN試験というのが第Ⅱ相試験ながら大きな試験で報告されており、 それを再確認するような感じではあるので、 あまり驚きはないというところではあります。 ただし、 既に4年時点でのPFSも示され、 17%程の上乗せ効果が得られているということで、 その大きなメリットが再確認されたことになります。
最近の4剤併用レジメンでは微小残存病変 (MRD) 陰性化率も非常に高くなってきており、 今後のMRD陰性化の長期的なメリット、 治療中断の可能性がより評価しやすくなってきたことになります。
【IsKia試験】移植適応のある新規多発性骨髄腫へのKRd+イサツキシマブでMRD陰性率が改善
多発性骨髄腫の最近の大規模な臨床試験では4剤併用が当たり前となっていますが、 この報告は自家移植適応となる70歳未満の多発性骨髄腫で抗CD38抗体イサツキシマブ+ KRd (IsaKrd療法) がKRd療法 (カルフィルゾミブ+レナリドミド+デキサメタゾン) よりも優れるのではないかという報告です。 前述のダラツムマブ+ VRd療法の報告(PERSEUS試験)もあるので、 そちらと並べて読んでみるとよいと思われます。
この報告では、 示されたデータがまだまだimmatureな印象で今後の成績の報告が待たれるところですが、 イサツキシマブの上乗せ効果がMRD以外のパラメーターでは出にくかったと推察されるデータでした。 それは、 KRd療法自体でも効果が高いことが影響しているのかもしれません。
もう少し長いフォローアップで、 今回差の出ているMRD陰性化の意義がどの程度あるのか、 また他の4剤併用と比べてどういったサブグループで特にメリットがあるのかという点が確認されてくると、 この4剤併用レジメンの意義が示されることになるのではないかと考えます。
【AGAVE-201】axatilimabが再発・難治性慢性GVHDのORRを改善
axatilimab (SNDX-6352) は新たな作用機序を有する慢性GVHDに対する抗CSF-1Rモノクローナル抗体で、 今回は第Ⅱ相試験で用量の比較を行うような結果が報告されました。 本邦での開発も期待されるところです。
本研究結果で興味深い点としては、 投与量が多い群で奏効率が低くなるという現象でした。 単純に免疫を抑制するということであると、 投与量が多くなると毒性はともかくとして有効性は高くなりそうでありながら、 そうではなかったということになります。
実際の発表では、 メカニズムは現時点ではあまりはっきりしていないような発言がありました。 逆に、 投与量が一番低い群で奏効率が一番高いくらいなので、 もう少し投与量を減らしていくという再検討の余地もあるのかと感じます。
オビヌツズマブ、 ステロイドを要する慢性GVHD発症頻度を減少
同種造血幹細胞移植後の慢性GVHDは重大な合併症の1つで、 B細胞がその発生に大きく関わっていることが明らかになっています。 そこで、 抗CD20モノクローナル抗体オビヌツズマブ vs プラセボで移植後投与することで、 慢性GVHDの頻度を減少させるかどうかの検討が行われました。
これまで慢性GVHD関係ではリツキシマブが用いられることが多かったのですが、 オビヌツズマブが用いられました。 結果として、 ステロイドを必要とするような慢性GVHDは有意にオビヌツズマブ投与群で減少しました。 現時点でOSの改善は観察されていないものの、 同じ生存率であれば、 ステロイドを要するような慢性GVHDは少ない方がよいと考えられます。
DPP-4 阻害薬シタグリプチンという、 本来は糖尿病に用いられる薬が急性 (a) GVHDを減らすのではないかという臨床試験です。
最近NEJM誌に単群での報告が出て間もないところで、 中国からの無作為化比較試験の結果が報告されています。 なぜかポスターセッション演題ということではありますが、 結果が報告通りであれば今回の無作為化比較試験でもaGVHDを減少させており、 非常に重要な結果と考えられます。
問題点としては、 元々のNEJM誌の報告でもそうですが、 シタグリプチンの投与量が多く、 通常の糖尿病に対する投与量でも効果があるのかという点が挙げられます。
再発/難治性マントル細胞リンパ腫にイブルチニブ+ベネトクラクス併用でPFSが改善
再発・難治性マントル細胞リンパ腫においては、 治療選択肢は増えてきているものの長期的に疾患コントロールは難しいことが多く、 さらなる治療開発が望まれています。
今回の試験は、 慢性リンパ性白血病 (CLL) においては既に欧米では知見の多い、 チロシンキナーゼ阻害薬イブルチニブとBCL-2阻害薬ベネトクラクスの併用療法 (Ven+Ibr) をIbr単剤と比較する研究でした。 Ibr単剤でも有効性が示されているところに、 Venの上乗せ効果がPFSでも示されています。 ただし、 なだらかにPFSは落ちていってしまっているところが、 さらなる改良を要する点です。
成人鎌状赤血球症へのハプロ移植、 HLA一致血縁ドナー移植と同等のEFS
鎌状赤血球症は、 本邦ではほとんど診ることはないのではと感じられますが、 欧米では移民を中心に認められるようです。 そのような背景もあり、 minorityは骨髄バンクではドナーがほとんど見つからないため、 今回のようなハプロ移植で安全に移植が可能となれば、 より多くの症例で移植が行われる流れになると予想されます。
移植以外では、 遺伝子編集を用いた治療も選択肢となってくるものと考えられますが、 この方法は200~300万ドル単位で費用がかかるとされ、 費用的にはハプロ移植の方が大幅に優れるという結果でした。
revumenib、 単剤で再発/難治性KMT2Ar急性白血病患者の予後が改善
KMT2A遺伝子変異を有する急性白血病においては、 臨床開発まで進んでいるクラスとしてmenin阻害薬が期待されています。
今回はその中でも期待されている薬剤の1つであるrevumenib (SNDX-5613) の成績が報告されました。 単剤投与であり、 限界はありますが、 純粋に完全奏効 (CR) に達した症例のみならず、 複合評価項目まで含めると40%程の症例に認められ、 全奏効率 (ORR) でも63.2%にまで至っており、 期待できる結果です。
今後、 まずは今回の設定と同じ再発・難治例に対して、 単剤で使用可能になることを期待します。 その後、 他剤との併用療法の開発が進むことを望みます。 さらには、 NPM1遺伝子変異を有する白血病においても同様に効果が得られるか、 今後の適用症例の増加と関連した領域での結果を期待しています。
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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