HOKUTO編集部
24日前
2024年10月10日に、 転移性去勢抵抗性前立腺癌 (mCRPC) の患者を対象に、 PARP阻害薬タラゾパリブ (TLZ) とアンドロゲン受容体シグナル阻害薬エンザルタミド (ENZ) 併用療法の有効性と安全性を検討したTALAPRO-2試験の最終解析結果が報告され、 TLZ +ENZ療法において全生存期間 (OS) が統計学的に有意に延長したことが発表された。 本稿においてはTALAPRO-2試験の内容とその意義について解説する。 (解説医師 : 東京慈恵会医科大学 葛飾医療センター泌尿器科診療医長 田代康次郎先生)
mCRPCに対するPARP阻害薬とアンドロゲン受容体シグナル阻害薬 (ARSI) の併用治療については、 PROpel試験でオラパリブとアビラテロンの併用療法がrPFSを延長したことが報告されているが、 OSにおいては統計学的有意差を示せていなかった¹⁾。
また、 MAGNITUDE試験 (ニラパリブ+アビラテロン) では、 併用療法群がBRCA変異陽性者に限りrPFSが有意に延長したことが報告されている²⁾。
TALAPRO-2試験はmCRPC患者に対する1次治療としてTLZ+ENZ療法 (併用群) とプラセボ+ENZ (プラセボ群) を比較し、 有効性・安全性を検討した第Ⅲ相の無作為二重盲試験である。
コホート1を相同組換え修復 (HRR) 変異の有無を問わない、 いわゆる全患者集団とし、 コホート2をHRR変異陽性患者に設定して評価した。 コホート1の患者のうち、 HRR変異の認められた患者はコホート2にも組み込まれている。 一見わかりにくいが、 全患者集団群とHRR変異群を効率良く解析できる組み立てとなっている。
コホート1 (805例) では、 ①HRR変異の有無 (HRR欠損 vs 非欠損または不明)、 ②先行治療として許容されているアビラテロンとドセタキセルの有無も無作為化の因子として組み込み、 併用群 (402例) とプラセボ群 (403例) に割り付けて解析を行った。
コホート2 (399例) ではHRR変異ありの患者を対象にし、 併用群 (200例) とプラセボ群 (199例) に割り付けて解析を行った。
主要評価項目は放射線学的な増悪がない生存期間 (rPFS) であり、 コホート1においては併用群で未達、 プラセボ群で 21.9ヵ月と、 併用群において有意に延長していることが確認された。
コホート2においても、 併用群で未達、 プラセボ群で13.8ヵ月となっており、 併用群が有意にrPFSが延長した³⁾⁴⁾。
有害事象はコホート1、 2の両方ともに併用群において、 貧血、 好中球減少、 疲労の順で多く、 Grade 3~4の有害事象では貧血が最も多かった。 また、 併用群において治療関連死は認められなかった。
TALAPRO-2試験が他のPROpel試験とMAGNITUDE試験と異なる点として、 HRR変異の有無を無作為化の因子として加えている点が挙げられる。 そのほかの2つの試験ではHRR変異のステータスは後ろ向きに解析されている。
コホート1のrPFSのサブグループ解析を見てみると、 BRCA変異あり・HRR変異あり群でHR 0.23 (95%CI 0.1-0.5、 p=0.0002)、 BRCA変異なし・HRR変異あり群ではHR 0.66 (95%CI 0.39-1.12、 p=0.12)だった。 コホート2でも同様に、 BRCA変異のみ群でHR 0.20 (95%CI 0.11-0.36、 p<0.0001) であり、 HRR変異あり群でHR 0.44 (95%CI 0.32-0.60、 p<0.0001)だった。
これらの結果から検討すると、 BRCA変異あり群のみの治療効果が、 BRCA変異あり・HRR変異あり群の結果を修飾しているとも考えられる。
現在、 医薬品医療機器総合機構 (PMDA) はTLZ+ENZ療法の適応をBRCA変異患者のみに限定している。 このことは、 前稿 (転移性去勢抵抗性前立腺癌に対するARSIとPARP阻害薬の併用療法) でも記載したが、 HRR変異あり・なしの患者間ではPARP阻害薬+ARSI併用による前立腺癌の増殖抑制の主要な作用機序が異なるため⁵⁾、 HRR変異に依存しない作用機序が非臨床試験により裏付けられていると判断するのは難しいことが背景とされている。
2024年10月10日には、 TALAPRO-2試験においての全生存期間 (OS) の結果が報告され、 TLZ+ENZ療法がENZ単独と比較して、 コホート1およびコホート2の最終OSに統計的に有意かつ臨床的に意義のある改善があったことが示された。
これまで、 治療後に遠隔転移が出現した異時性 (metachronous) のmCRPCにおける治療として、 TAX-327試験 (1次治療にドセタキセル)⁶⁾、 COU-AA-302試験 (1次治療にアビラテロン) ⁷⁾、 PREVAIL試験 (1次治療にENZ) ⁸⁾が、 それぞれ4.4ヵ月、 4.4ヵ月、 2.2ヵ月のOS延長を示してきた。 患者背景も異なるために単純に比較することはできないが、 TALAPRO-2試験におけるOSが上記試験よりも、 延長したことは明らかと考える。
最終的な解析結果については、 今後の米国臨床腫瘍学会泌尿器癌シンポジウム (ASCO-GU) などで報告されることが予想される
現在、 本邦でTLZ+ENZ療法を行う場合、 BRCAコンパニオン検査のタイミングはmCRPCの1次治療として行う患者 (ただし、 アビラテロンとドセタキセルの先行使用は許容される)となっている。 また、 BRCAコンパニオン診断検査としてはFoundation One®︎ CDxのみ (一部、 Foundation One®︎ Liquid CDxも可) となっている。
現時点での本邦の泌尿器科における保険診療においてBRACAnalysis検査が行えないのは本治療を標的とした検査数の伸び悩みの原因となっていると考えられるが、 TALAPRO-2試験のコンセプトは全患者集団もしくはHRR変異患者に使用すること、 TARAPRO-3試験 (mCSPC患者に対するTLZ+ENZ療法) ⁹⁾による将来的な承認も見据えると、 今後もこの検査制限が変更される可能性は低い。 なお、 欧州では全患者、 米国ではHRR変異患者への使用が認められている。
我々、 泌尿器科医が遺伝学的診断を下に診療を進める時代は既に始まっている。 患者の適切な治療機会を見失わないように、 どのタイミングで行える検査があるのかコンパニオン検査のタイミングが来る前から見据えて準備をすることは、 これからの時代は当たり前の責務となっていくことを意識して診療に臨む必要がある。
転移性去勢抵抗性前立腺癌に対するARSIとPARP阻害薬の併用療法
mCRPCへのTLZ+ENZでrPFS改善 : TALAPRO-2
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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