寄稿ライター
11ヶ月前
私は大阪生まれの大阪育ち、 現在大阪で勤務している 「大阪ネイティブ」 ですが、 東京でも勤務経験があります。 その時に、 周囲に伝わらずびっくりした大阪弁をご紹介します。
東京の病院で外科手術に参加したときのこと。 開腹で腸管を切除する手術で、 術者が血管を露出しては、 第一助手が糸で縛るという工程を繰り返していました。 第二助手で参加していた私は、 第一助手をしていた先輩に気を使って言いました。
「私が代わりに糸をくくりましょうか?」
すると、 術者と先輩に、 「糸をどうするの?」 と言われてしまいました。 この瞬間まで私は 「くくる」 という言葉が大阪弁であるとは知りませんでした。
髪をくくる、 ゴミ袋をくくるというように日常的に使用しておりますが、 東京の病院では伝わりませんでした。 東京では、 「わたしが代わりに糸を結びましょうか?」 と言うのが正解だったようです。
外科の手術では、 最後に生理食塩水で患者さんの腹腔内を洗浄します。 患者さんが低体温にならないためには食塩水の温度管理が大事で、 人肌程度になるよう看護師が調整してくださいます。
看護師から手渡された食塩水の温度を確認すると、 ちょうどいい温度だったので私は言いました。
「ぬくいです」
看護師や一緒に手術していた医師達は 「???」 という反応でした。 「ぬくい」 はちょうど心地よい温度の時に使う言葉ですね。 西日本では多く使われているようですが、 東京の病院では伝わりませんでした。
手術中には、 カルテ記録用にカメラで写真を撮影する機会がたくさんありました。 カメラを使うときには所定の位置から手術室内へ運び、 使用後は元の場所へ片づけていました。
「使い終わったカメラをなおしておきますね」
と先輩医師に言うと、 「そのカメラ、 壊れてしまったの?」 と返答が…。 「なおす」 が、 関東では 「修理する」 になるとは知りませんでした。
無事に手術が終了し、 今から患者さんのご家族へのICを行います。 先輩医師から患者さんの家族がいる場所を聞かれ、
「詰所の前です」
と答えると、 「詰所って何?」 とびっくりされてしまいました。 大阪では、 ナースステーションを詰所と呼んでいる医師や看護師が多数います。 詰所が大阪弁かどうかははっきりとはわかりませんが、 少なくとも東京の病院では伝わりませんでした。
その詰所での出来事です。 看護師から 「先生、 先ほど手術から帰室したAさん、 1時間尿量が少なめです。 点滴の速度を速くしてもいいですか?」 と質問されました。
「ええんちゃいますか」
と私が返事をすると、 看護師さんは 「???」 という態度。 良いのか悪いのかわからないと言われてしまいました。
大阪には他人を許容するような優しさがあります。 「ええんちゃいますか」 という言葉は、 大阪ではよく使われており、 人間関係を円滑にしてくれます。 看護師の意見を尊重したいという気持ちを込めて使ったのですが、 東京の病院では伝わりませんでした。
東京の病院で患者さんと話す時は、 できるだけ大阪特有の単語を使わないよう注意を払っていました。 特に私が使わないようにしていたのは 「あかん」 という言葉です。
大阪で 「あかん」 は、 親しみを込めたソフトな表現であることが多いです。 しかし、 東京の人に使うと、 大変驚かれ、 時には謝られたこともありました。 「絶対禁止」 のような強い言葉と受け取られたのかもしれません。
私は大阪ネイティブです。 できれば自分の言葉である大阪弁で話したいと思っています。 ただ、 言葉の一番の目的は情報を正しく伝えることです。 大阪弁を使うことで相手に正しく意味が伝わらなかったり、 怖がらせてしまうのであれば、 違う表現を選ぶ必要があります。 特に医療現場では言葉選びは大切だということを実感した、 東京での病院勤務でした。
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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