栄養療法マニュアル
10ヶ月前
本コンテンツは造血幹細胞移植時の栄養療法について、 専門医の視点からわかりやすい解説を行う企画です。 是非とも臨床の参考としていただければ幸いです。
敗血症性ショック時においてはまずは初期輸液を急速に行い循環の維持を図り、 安定した段階で維持輸液への切り替えを進めていくという流れになる。 初期輸液および維持輸液の注意点を以下に記載する。
Surviving sepsis campaign guideline (SSCG) では初期輸液は最低30mL/kg投与することを勧めている。 この投与量は、 以前のSSCGでは 「強い推奨」 であったが¹⁾、 2021年版では 「弱い推奨」 となっている²⁾。 30mL/kgという量がマジックナンバー的に用いられているが、 これは前向きの臨床試験で細かく検討された値ではない。 ただ、 SSCGの長い期間の推奨もあって、 この用量は広く一般的な目標として理解され、 現在も使用されているものと考えられる。
▼CLOVERS試験
最近報告されたCLOVERS試験においては両群とも無作為化前に約2,000mLの輸液が投与されているが、 その分も含め24時間で総輸液投与量が3L強と5L強という差がある状況で、 臨床成績にはほとんど差がなかった³⁾。 差がないのであれば少ない量で良いのではないかと個人的には感じている。 この研究は最新のSSCGよりも後に発表されているので、 将来的なSSCG改訂の際に考慮されてくるものと考えられる。
▼急速輸液では輸液過剰に注意
急速輸液というと全開で投与する印象ではあるが、 臨床試験のデータを見ると1,000mL/hr程度で投与されているようであり、 これがひとつの目安となる⁴⁾⁵⁾。 しかし、 急速輸液では当然ながら輸液過剰にならないか注意が必要である。
▼反応不良の場合は昇圧薬を投与
また、 院内発症の場合、 10~20 mL/kg程度投与したところで初期輸液に対する反応が不良であれば、 早めに昇圧薬を準備して少量からでも開始すべきである⁶⁾。 SSCGでも昇圧薬に関しては、 必要な際には中心静脈カテーテルの留置を待たずに末梢からの投与も勧めている²⁾。 また、 30mL/kgを投与した後も輸液負荷を要しそうな場合には、 その反応性を評価していくことが重要である⁷⁾。
▼晶質液と膠質液の選択
基本的には晶質液が勧められる。 これは膠質液を用いても臨床的に大きな差が報告されておらず、 膠質液の方が価格が高いからである⁸⁾⁹⁾。 しかし、 敗血症性ショックの場合、 膠質液の中でもアルブミンに絞った解析において、 晶質液よりも効果が良い可能性が示されており、 今後の報告で再現性があれば膠質液が勧められてくる可能性がある¹⁰⁾。
▼生理食塩水と細胞外補充液の選択
晶質液の中でもCl の少ない輸液を現時点では選択すべきと考えられる¹¹⁾¹²⁾。 したがって、 生理食塩水を用いるよりは細胞外補充液 (ラクテック®、 ソルアセトFなど) が勧められる¹³⁾。
生理食塩水は細胞外補充液と比較して酸血症 (acidemia) を増悪させる可能性があるため、 アシドーシスを認める例、 既にClが高い例、 腎機能障害を有する例などでは、 特にClの少ない輸液を選択した方が良いと考えられる。 膠質液を選択する場合でも5%アルブミン製剤よりは20%アルブミン製剤の方がClは少ないので、 後者を選択するのが妥当である¹⁴⁾。 ただし、 本邦では20%アルブミン製剤を大量に投与することは保険適用上困難であるため、 晶質液を併用することとなる。
▼移植後症例における輸液
移植後症例はそもそも低アルブミン血症の症例も多いため、 一般的な敗血症症例よりは膠質液のほうがメリットのある症例が多いと考えている。 SSCGにおいてもbalanced crystalloidの大量投与が必要な症例ではアルブミンの追加を 「弱い推奨」 ながら勧めている。
維持輸液に関する研究は限定的であり、 SSCGのガイドラインでもはっきりした記載が乏しい。 ただ、 初期輸液で大幅にプラスになっている体液バランスを少しずつでもマイナスに戻していきやすいように輸液を設計すべきである¹⁵⁾¹⁶⁾。 その為、 過剰な輸液量は極力避けて、 NaやClの負荷を減らしていくことが望ましい。
輸液量や電解質の投与量は抗生剤、 輸血、 ルート確保用の輸液など全てを含めて考えなければならない。 特に重篤な症例では高カロリー輸液以外の負荷が高いことがあり注意が必要である。
維持輸液の時点では、 体液バランスをマイナスにしていく為、 20%アルブミン製剤をフロセミド (ラシックス®) とともに用いることが有用と考えられる¹⁷⁾。 NaやClの負荷に関してはNICE guidanceにおいて1mmol/kg/day程度とされており、 これは現実的とはいえないが、 低Na血症とならない範囲で負荷を減らすように努めることが勧められる。
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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