HOKUTO編集部
4日前
抗体薬物複合体(ADC)は、 乳癌の新たな治療薬として注目されている。 日本では現在、 HER2陽性乳癌やトリプルネガティブ乳癌(TNBC)を対象に承認されており、 治療選択肢が広がりつつある。 10月24~26日に開催された日本癌治療学会(JSCO 2024)において、 乳癌治療におけるADCの現状や各薬剤に関する臨床試験、 サブタイプ別の使い所について、 国立がん研究センター東病院総合内科科長の内藤陽一氏が解説した。
2024年10月時点で国内承認されているADCは、 ①トラスツズマブ エムタンシン (T-DM1) ②トラスツズマブ デルクステカン (T-DXd) ③サシツズマブ ゴビテカン (SG) の3種類である。
T-DM1の有効性は、 第Ⅲ相EMILIA試験¹⁾および第Ⅲ相TH3RESA試験²⁾において示されている。
EMILIA試験では、 抗HER2抗体トラスツズマブ+タキサン系薬併用療法後の2次治療としてのT-DM1の有効性について、 チロシンキナーゼ阻害薬ラパチニブ+カペシタピンを対照に検証され、 全生存期間 (OS) の有意な改善が示された(HR 0.75)。
またTH3RESA試験では、 トラスツズマブ、 ラパチニブ、 タキサン系薬剤による前治療歴を有する患者の3次治療以降におけるT-DM1の有効性が、 担当医選択の治療を対照に検証され、 OSの有意な改善が示された(HR 0.68、 p=0.0007)。
これらの試験の結果より、 T-DM1はHER2陽性乳癌に対する標準2次治療となっていた。
その後に登場したT-DXdでは、 T-DM1よりさらに優れた効果が示されている。 DESTINY-Breast03試験³⁾では、 トラスツズマブとタキサン系薬剤による治療歴のある切除不能もしくは転移性のHER2陽性乳癌を対象に、 T-DXdの有効性についてT-DM1を対照に検証し、 OS(HR 0.64)、 PFS(HR 0.33)、 奏効率の改善が示された。
DESTINY-Breast02試験⁴⁾では、 T-DM1による治療歴のあるHER2陽性の切除不能または転移性乳癌を対象に、 同薬の有効性について担当医選択の化学療法を対照に検証し、 OS(HR 0.66)、 PFS(HR 0.36)、 奏効率の改善が示された。
HER2CLIMB-02試験⁵⁾では既治療のHER2陽性局所進行/転移乳癌を対象に、 T-DM1+チロシンキナーゼ阻害薬tucatinib併用療法の有効性について、 プラセボ+T-DM1を対照に検証し、 PFSの有意な改善が示された(HR 0.76、 p=0.0163)。
しかし上述の通り、 T-DXd単剤ではOS、 PFSの改善が認められており、 現在全米総合がんセンターネットワーク (NCCN) のガイドラインでは、 HER2陽性例の2次治療としてはT-DXd単剤が標準治療として推奨されている。
T-DXdは、 HER2低発現(IHC 2+/ISH-またはIHC 1+)に加え、 HER2超低発現(IHC 0)への有効性が示されている。
Destiny Breast 04試験⁶⁾ではHER2低発現の切除不能または転移性乳癌を対象に、 T-DXd単剤の有効性について、 担当医選択の化学療法を対照に検証し、 HR陽性コホートでPFS(HR 0.51、 p<0.001)およびOS(HR 0.64、 p=0.003)の有意な改善が示された。
Destiny Breast 06試験⁷⁾では化学療法未治療のHR陽性HER2低発現または超低発現の転移性乳癌において、 担当医選択の化学療法を対照にT-DXd単剤の有効性について検証し、 HER2低発現患者におけるPFSの有意な改善が示された(HR 0.62、 p<0.0001)*。
TROPiCS-02試験⁸⁾では、 内分泌療法および少なくとも2つ以上の化学療法による治療歴を有するHR陽性HER2陰性の転移性乳癌を対象に、 抗Trop-2抗体薬物複合体であるSG単剤の有効性について、 担当医選択の化学療法を対照に検証し、 OS(HR 0.79、 p=0.02)の有意な改善が示された*。
これらの結果から、 NCCNガイドラインではHR陽性HER2低発現/超低発現例の2次治療として、 HER2低発現ではT-DXd、 T-DXdが治療候補にならない場合ではSGが推奨されている。
上述のDESTINY-Breast 04試験におけるTNBC集団(60例)の探索的解析の結果、 PFS(HR 0.46)およびOS(HR 0.48)の有意な改善が示された。 次にASCENT試験⁹⁾では、 既治療の転移性TNBCを対象に、 SG単剤の有効性について担当医選択の化学療法を対照に検証し、 PFS(HR 0.41)およびOS(HR 0.51)の有意な改善が示された(ともにp<0.0001)。
これらの結果からNCCNガイドラインではTNBCの2次治療において、 SGが推奨されており、 BRCA1/2遺伝子変異が陰性、 かつHER2低発現例ではT-DXdを選択することが推奨されている。
以上より、 内藤氏は、 現在の日本において、 各サブタイプの2次治療以降で推奨されるADCは下図の通りであると説明した。
最後に同氏は、 乳癌におけるADCの展望に関して、 「今後、 SGや同じく抗Trop-2抗体薬物複合体であるdatopotamab deruxtecan(Dato-DXd)の承認が拡大された場合の薬剤選択が論点となるであろう。 また、 SGでは好中球減少、 T-DXdでは間質性肺疾患などの有害事象には注意が必要であり、 投与時の慎重なマネジメントが求められる」 と解説した。
¹⁾ Lancet Oncol. 2017 May 16;18: 732–742.
²⁾ Lancet Oncol. 2017 Jun;18: 743-754.
³⁾ Lancet. 2023 Jan 14;401: 105-117.
⁴⁾ Lancet. 2023 May 27;401: 1773-1785.
⁵⁾ Cancer Res (2023) 83 : GS1-01.
⁶⁾ N Engl J Med. 2022 Jul 7;387: 9-20.
⁷⁾ N Engl J Med. 2024年9月15日オンライン版
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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