HOKUTO編集部
7ヶ月前
HOKUTOは2024年8月、 日本臨床腫瘍学会 (JSMO) と包括的業務提携を締結しました。 これに伴い、 同年9月よりJSMO公式アカウントの運用をHOKUTOにて開始し、 今後はJSMO主催のイベントのお知らせ、 刊行物・ガイドラインの紹介、 さらにJSMO会員の専門医による寄稿記事などを配信する予定です。 今回はHOKUTOと日本臨床腫瘍学会の提携を記念し、 同学会の使命や活動内容について、 JSMO理事長で神戸大学腫瘍・血液内科教授の南博信先生にお話を伺いました。
――まず、 日本臨床腫瘍学会がどのような学術団体であるかについて教えてください
日本臨床腫瘍学会はがん医療の向上を通じて患者さんやそのご家族、 ひいては国民の医療福祉へ貢献することを使命に、 主に薬物療法における適正な治療法を提供することを目指して、 さまざまな取り組みを行っています。
最近のがん薬物療法は、 免疫チェックポイント阻害薬や分子標的薬による治療が占める割合が大きくなってきています。 従来がん医療といえば臓器別の診療が中心でしたが、 がん遺伝子パネル検査 (CGP) の導入により、 がんの発生臓器別の治療ではなく、 特定の遺伝子異常に基づく治療が一般化しつつあります。 特に直近5年間での分子標的薬治療の進展は著しく、 臓器横断的ながん診療の重要性がさらに増しています。
JSMOの大きな目標の1つは、 こうした臓器横断的な視野を持ち、 どのがん種にも対応できる医師を育成することです。
――医師育成に関する取り組みの1つに、 がん薬物療法専門医の認定がありますね
がん薬物療法専門医認定制度は、 臨床腫瘍学の進歩に即して質の高いがん薬物療法を臓器横断的に実践する医師を教育するために設立されました。
がん薬物療法専門医には、 臨床薬理学に基づいた薬物の作用機序の理解から副作用マネジメント、 2次治療や3次治療まで踏まえた治療戦略に至るまでの幅広い知識と横断的理解が重視されます。 臓器横断的な視点を持ち、 幅広い臓器のがん薬物療法を修得し実施できる医師が、 がん薬物療法専門医として認定されます。
――これから専門医を目指す方に意識してほしいことはありますか
特定領域の専門性を持つ際には、 まずは臓器横断的ながん医療のトレーニングを積んだ後で、 肺がん、 大腸がん、 乳がんなどの特定の臓器に対する専門性を深めていっていただきたいと思います。
また、 がん医療は治療すれば良いというものではありません。 患者さんに寄り添った症状の管理や緩和治療も大切ながん医療です。 これからがん薬物療法専門医を目指す方には、 臓器横断的に薬物療法を修得した上で、 患者さんの病態や希望、 社会背景にも配慮した医療を実践できる医師になることを目指していただけると嬉しく思います。
――日本臨床腫瘍学会学術集会の特徴は
日本臨床腫瘍学会学術集会では、 毎年、 世界最先端の薬物療法の開発状況から標準治療を変え得るような臨床試験の結果発表など新しい知見が発表される以外に、 各がん種の標準治療に関する情報共有などさまざまな教育プログラムまで、 幅広い内容が取り上げられます。
特に最先端の知見を発表・議論するプログラムは、 海外の方も交えて英語で行われることも本学術集会の特徴です。 一方、 教育プログラムなどは参加者の理解を高めることに重点を置き、 日本語で発表・議論されます。
また、 看護師や薬剤師等のメディカルスタッフ、 他診療科・多職種を含むチーム医療のプログラムも日本語で組まれ、 合併症への対応に関する演題や、 他学会との合同企画なども積極的に取り入れています。
第22回日本臨床腫瘍学会学術集会 (JSMO 2025) は、 2025年3月6日(木)~8日(土)に神戸にて開催予定。
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――その他、 セミナーやガイドライン作成などにも取り組んでいらっしゃいますね
例えば毎年米国臨床腫瘍学会 (ASCO) の後に開催している 「Best of ASCO」 では、 ASCOで発表された演題の中から重要トピックスを厳選し日本のがん医療を踏まえて紹介・議論しています。
また、 教育セミナーでは、 がんの基本的な知識を幅広く学ぶことができ、 近年ではe-learningでの開催となっています*。
――HOKUTOとの提携が締結し、 今後期待することは
我々の一番の思いは 「適正ながん薬物療法を患者さんに届けたい」 ということです。 現在でも、 がん薬物療法の十分なトレーニングを受けていない、 すなわちがん薬物療法を専門としていない医師が、 独学で得た知識のみでがん診療を行っている施設はゼロではありません。
患者さんががん薬物療法による不利益を被らないためには、 正しい情報を入手し、 正しく解釈する能力を養うことが重要です。 HOKUTOを通じて、 当学会が発信する情報も含め、 がん薬物療法に関する正確かつ最新の情報を広く届けることができれば、 我々としても大きな喜びになるでしょう。 さらには、 1人でも多くの若手の先生方が、 がん薬物療法に興味を持ってくださればこの上なく嬉しく思います。
――HOKUTO会員へのメッセージをお願いいたします
がん薬物療法の実践には、 実直なトレーニングが必要不可欠です。 そのため、 先輩医師の診療をただ見様見真似で学ぶだけではなく、 どうか正しい情報を取得し、 正しく学んでほしいと思います。
一方で、 ガイドラインは遵守しつつも 「ガイドラインが全て」 という考えは持たないことも重要です。 患者さんは一人ひとり症状や考え方や治療への希望、 背景が異なりますから、 患者さんの気持ちを汲みながら、 今あるエビデンスの中で最適な選択を考えていってください。 そのためには座学にとどまらず、 現場で実践経験を積むことが何より大切です。
日本において、 腫瘍内科医はまだまだ全国的に人手が足りていません。 そのニーズは高く、 各地の施設が腫瘍内科医を待っています。 正しい情報を把握したうえで、 現場での経験や実践を通じてがん医療の未来を担う医師が育っていくことを願っています。
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編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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