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聖路加国際病院 救急部

129日前

【人気】救急外来における急性下痢症のマネジメント|腸管外病変の否定はTAPTAPなD?

下痢が止まらず、救急外来に来ました」は比較的よくみられる主訴で、 多くが“self-limited”なため、 マネジメントに困ることはあまりないのですが慣れてきた時が要注意!腸管外病変の否定を忘れがちなので語呂合わせ作ってみました.

POINT!

  1. 下痢の定義は『連続した24時間3回以上の軟便水様便が排泄されること』
  2. 急性<14日、 持続性 ≧14日、 慢性 ≧30日
  3. ほとんどがウイルス性 (便培養陽性は2-5%)
  4. 重症度評価と診断的評価を同時に行う
  5. 特に、①腸管外病変の否定を忘れがち!
  6. 各疾患の典型例な経過や症状を押さえる!
  7. 日本, アメリカのガイドライン, レビュー, UpToDate®を参考にしています

急性下痢症のマネジメント

①まずは, 腸管外病変を否定

  • 腸管外病変『TAP-TAPなD
  • 薬剤性下痢『DATSuN

②脱水を評価し、脱水あれば補正

  • 有用な身体所見と検査は?

③病歴、身体所見から原因菌を推定

  • 便培養, 直腸診, 内視鏡検査は必要?

④治療方針を決定

  • 日本の急性下痢症はほぼ"self-limited"
  • 旅行者下痢など抗菌薬投与症例を見極める
  • 止痢剤は禁忌?
  • 整腸剤の効果は?

①腸管外病変を否定

腸管外病変の鑑別『TAP-TAP な D』

お腹タプタプTAPTAPで下痢Diarrhea
  • Thyroid crisis|甲状腺クリーゼ
  • Anaphylaxis|アナフィラキシー
  • Peritonitis|腹膜炎(UTIやPID)
  • TSS|トキシックショック症候群
  • Acute Pancreatitis|急性膵炎
  • Pregnancy|妊娠
  • Drug induced|薬剤性

薬剤性下痢の鑑別『DATSuN』

ダットサンは日産の有名な海外車
  • Diuretics|利尿薬
  • Anti-Acids|制酸剤 PPI
  • Anti-Arrythmia|抗不整脈薬 
  • Theophylline|テオフィリン
  • Softener|緩下剤
  • NSAIDs|非ステロイド性抗炎症薬
その他たまに経験する落とし穴
  • SMA血栓症
  • レジオネラ肺炎
  • DKA 糖尿病性ケトアシドーシス

②脱水の評価

成人の身体所見と検査 (LR+/-)

  • 尿比重>1.020 (+11.0/-0.09)
  • capillary refill test (+6.9/-0.7)
  • 眼球陥凹 (+3.4/-0.5)
  • 腋窩の乾燥 (+2.8/-0.6)
  • 舌の乾燥 (+2.1/-0.6)
  • 口腔の乾燥 (+2.0/-0.3)
  • 舌の縦皺 (+2.0/-0.3)
  • 起立テスト* (+1.7/-0.8)
*起立で脈拍が30回以上増加、但し臥位で2分間、立位で1分間以上経過して測定する

③原因菌を推定

急性下痢の問診

  1. 便の性状 (水様便or血便かは重要)
  2. 海外渡航歴 (旅行者下痢症は別物)
  3. 薬剤使用歴 (DATSuN上記参照)
  4. 職業 (医療従事者, 食品業)
  5. 食事内容

上記と身体所見で大きく下記に分類

  • 小腸型下痢 (毒素性/ウイルス性)
  • 大腸型下痢 (炎症性*上皮細胞を浸潤し侵害)
  • 旅行者下痢症

小腸型と大腸型

  • 急性の嘔吐と全身症状、鋭い腹痛、水様便

→ウイルス、毒素産生菌

  • 粘血便、渋り腹、腹痛、発熱、便中白血球陽性

→ 大腸型 : Sigella(赤痢菌)、Salmonellaなど

  微生物や毒素で腸管粘膜が破壊!
  • 粘血便や発熱なし(or軽度)、 シャーシャー

→ 小腸型 : コレラ菌、ウイルス

  微生物や毒素で小腸から分泌物増加

すでに産生された毒素による下痢 (上部型)

  • 症状:嘔吐, 腹痛, 下痢
  • 細菌性 (黄ブ菌、セレウス菌、ボツリヌス菌)

体内で産生された毒素による下痢 (小腸型)

  • 症状:水様性下痢, 腹痛
  • ウイルス性が多い (ノロ、 ロタウイルス等)
  • 細菌性(腸管毒素原生大腸菌ETEC、コレラ菌、ウェルシュ菌、セレウス菌、非O1コレラ菌)

腸管で組織障害を起こす下痢 (大腸型)

  • 症状:発熱, (粘)血便, 渋り腹, 下痢, 腹痛
  • 細菌性が多い (サルモネラ菌、 赤痢菌、 腸管出血性大腸菌EHEC、 腸管侵入性大腸菌EIEC)
Campylobacter jejuniやYersinia spp.は小腸型と大腸型のどちらのタイプにも入る. *ETEC : 腸管毒素原生大腸菌 enterotoxigenic E. coli. *EIEC: 腸管侵入性大腸菌 enteroinvasive E. coli. *EHEC : 腸管出血性大腸菌 enterohemorrhagic E. coli

渡航歴の重要性: 旅行者下痢症

  • 旅行者下痢は別物!
  • アフリカ中東東南アジア中南米がリスク.
  • 2週間で20−90%が発症する.
  • 細菌性なら大腸菌 (特に腸管毒素原生大腸菌ETEC) とカンピロバクター.
  • 他、サルモネラ属、赤痢、ビブリオ属が続く.
  • 実際は「食べ物が合わなかった」がほとんど.
  • 多くの旅行者下痢は“self limited”.
  • ただし、大腸菌が原因の場合が多いのでベロ毒素のチェックは必要. 治療するならシプロキサン400mgを5日間
  • 旅行者下痢は『1にマラリア、 2にマラリア、 3・4がなくて5にマラリア

急性下痢症の検査

  1. 便培養はルーチンでは行わないが、 有用なこともある (血便あればEHECを考え提出).
  2. 直腸診はできる限り施行するようNEJM 2014のレビューでは薦められている.
  3. 下部内視鏡のルーチン施行は行わない.
1.便培養
  • Primary careでは, 血便20%で病原体検出
  • 培養検出で多いのは、大腸菌O157: H7赤痢菌カンピロバクターサルモネラなど.
  • Clin Infect Dis2001 便潜血陽性+肉眼的血便
  • Shigella 49%
  • Campylobacter 20%
  • Salmonella 19%
  • E. coli 8%

UpToDate®での便培養の適応

  • 免疫不全者, 入院中抗生剤暴露歴あり
  • 他の合併症リスクが高い
  • 血便など、より重症で細菌性を示唆する下痢
  • 炎症性腸疾患患者の再燃、感染合併の鑑別
  • 飲食業、 医療関係者 (社会的な事情で)
2.直腸診
  • NEJM2014のレビューやUpToDate®で推奨.
  • 出来る限り便性状, 便潜血の直接確認.
  • 直腸腫瘤がないか指で探る.
3.下部内視鏡
  • 急性下痢症へのルーチン施行は否定的.
  • Gastrointest Endosc 2010; 71: 887-92.

UpToDate®での下部内視鏡の適応

  • 炎症性腸疾患と感染性腸炎の鑑別.
  • CD腸炎を疑うが、トキシン陰性の時.
  • 免疫不全患者で日和見感染症を疑うとき.
  • 虚血性腸炎を疑うが、診断が不確定なとき.

その他

  • 一般的にウイルス性より細菌性の方が重症.
  • 下痢の程度・血便・発熱も細菌性の方が顕著.
  • 部位的には小腸が主座よりも、回盲部〜大腸が主座の方が重症.
  • 病変部が口側に近いと嘔吐が出現しやすい.
  • 肛門側に近いと下痢が出現しやすい.
  • ウイルス性の場合、近位空腸が主座であるので嘔吐を伴いやすく、下痢が出にくいか発現のタイミングが遅い.
  • ロタウイルスは小腸の広範囲が主座であるため下痢が顕著となる.
  • 病原特定できない多くの軽症ウイルス性腸炎では回盲部が主座のことも多い.
  • 多くの細菌性腸炎は遠位空腸〜回盲部が主座であるが、病原性大腸菌ではその名の通り大腸が主座となる.
  • 便中抗原(ノロ,ロタ)は疾患を否定できるほどの感度はない、 使用価値低い.
  • 血液培養はサルモネラ、カンピロバクター等で陽性となる.菌血症を呈する他疾患と鑑別.
  • 画像は虫垂炎、憩室炎などの除外に有用.
  • エルシニア腸炎は回盲部リンパ節炎を伴う.
  • ビブリオは激しい水様性下痢を伴う.
  • CD腸炎は市中でも起きる. 抗菌薬暴露で検討 便培養は培地が特殊.

参考:便培養のmodified 3 days rule

入院3日目~は便培養は提出しない(以下除く)

  • 65歳以上で基礎疾患あり
  • HIV感染
  • 好中球減少
  • 院内での流行が疑われる
  • JAMA2001; 285: 313-19.

④治療方針の決定

抗菌薬を投与する症例を見極める

  • NEJM 2014; 370: 1532-40.
  • まずは補液と電解質補正.
  • 止痢薬は大抵症状短縮にはならない ※細菌性を疑うような場合には使用ない.
  • 整腸剤はあまり意味がないかも.
  • CD腸炎, 中等症〜重症の旅行者下痢症には抗生剤投与が推奨される.

経口補水液(ORS)と食事

  • WHO曰くORSは20世紀最大の発明. OS-1®
  • 急性下痢症の食事療法の目的は、生理的状態の維持→“足らないモノを足す”のが基本。“お腹を安静”、“柔らかくする”、“刺激物を避ける”など実はエビデンスなし(とはいえ、消化にいいもの、消化に悪いものはある程度おさえておこう).

止痢剤について

  • 止痢剤はほとんどの下痢に対して適応.
  • 例外は腸管出血性大腸菌, 偽膜性腸炎.
  • 腸管粘膜に緩徐な収斂作用を及ぼすタンナルビン、吸着作用をもつアドソルビン、蠕動抑制+水分・電解質分泌抑制作用をもつ強力なロペミン®などを使用.
  • ACG Clinical Guidelineでも, ロペミン®は少量より服用すれば害はなく有効と. しかし, 2日以内に中止するべき.

抗菌薬の適応

  • 基本的には使用しない.
  • 国内感染性下痢症の原因の上位3つ、①サルモネラ, ②腸炎ビブリオ, ③キャンピロバクターはいずれも原則的に抗菌薬不要(重症の場合考慮).
  • また、EHEC腸管出血性大腸菌感染症が疑われる場合も投与しない!
  • シプロフロキサシン500mg 1日2回 3~5日
  • キノロン耐性のカンピロバクターが疑われる場合、アジスロマイシン500mg1日1回3日

UpToDate® 抗菌薬の適応

  • 重症感がある、あるいは菌血症が疑われる人
  • 免疫能の低い人(糖尿病、慢性肝疾患、腎不全、胃切後、悪性腫瘍、アルコール中毒、妊婦)
  • 途上国からの帰国者, 食品取り扱い者など

UpToDate® 腸管出血性大腸菌の特徴

  • ①血便 ②all blood no stool(まさに鮮血便) ③発熱なし(37℃台) ④WBC>1万 ⑤腹痛
  • 上記①~⑤の3つ以上がE. coli O157: H7感染の65%でみられた.
  • Shigella、Campylobacter、Salmonellaで3つ以上認めたのは19%であった.
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編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。

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