経口テトラサイクリン系抗菌薬は骨・関節感染症に有効?
著者

メイヨークリニック感染症科 松尾貴公

2ヶ月前

経口テトラサイクリン系抗菌薬は骨・関節感染症に有効?

Oral tetracyclines for bone and joint infections: what do we know?

J Bone Joint Infect. 2025 Apr 8;10:143–154.
経口テトラサイクリン系抗菌薬は骨・関節感染症に有効?

研究方法

研究デザイン

系統的レビュー (PRISMAガイドライン*に準拠)

*Preferred Reporting Items for Systematic Reviews and Meta-Analyses guidelines¹⁾

検索対象

1960年~2024年11月に掲載された論文を、 PubMedおよびScienceDirectで検索した

除外条件

動物実験ではない、 静注薬使用、 性感染症や動物由来疾患、 記述不足の症例報告など

対象研究数

31件 (骨への薬物移行性3件、 感受性プロファイル5件、 バイオフィルム形成4件、 動物実験1件、 治癒目的の臨床研究8件、 抑制療法10件)

主な研究結果

薬剤の骨・関節内移行性

骨中濃度は血中濃度の0.06~0.75倍とばらつきが大きく、 血中濃度との相関性については研究間で一貫した結果は得られていなかった。

起因菌に対する感受性プロファイル

テトラサイクリン系薬剤に対しては、 MSSA*で3.2~3.7%、 MRSA**で9.8~10.9%、 コアグラーゼ陰性ブドウ球菌で13~15%の耐性率が報告され、 おおむね感受性が保たれていた。 一方で、 Enterococcus faecalisでは75%以上が耐性を示していた。

なお、 ドキシサイクリンに耐性を示す菌株の一部でミノサイクリンに感受性が保たれている例も報告されていた。

*メチシリン感受性黄色ブドウ球菌、 **メチシリン耐性黄色ブドウ球菌

バイオフィルムに対する活性

S. aureusS. epidermidisC. acnesなどのバイオフィルムに対しても一定の殺菌活性を示すことが確認された。

また、 リファンピンとの併用により相乗効果が得られるとする報告もあった。

動物モデルにおける治療成績

ドキシサイクリン単剤では十分な効果は得られなかったが、 リファンピン併用群の静注抗菌薬使用では無菌化が達成された。

治癒を目的とした使用 (Curative therapy)

PJIを対象とした使用48例では、 治療成功率は82~100%、 有害事象による中止は最大14%であった。

骨髄炎に対する使用では、 治療期間は5日~14ヵ月と幅が大きく、 成功率は62%とやや低めであった。

抑制療法 (Suppressive therapy)

10研究・201例の治療成功率は57~100%と幅があり、 有害事象による中止は最大19%であった。

主な副作用は光線過敏、 消化器症状、 掻痒感などであった。

経口テトラサイクリン系抗菌薬は骨・関節感染症に有効?

経口テトラサイクリン系抗菌薬は、 骨・関節感染症において代替選択肢として利用可能であり、 特に抑制療法として頻用されます。

消化器症状や光線過敏など軽度の副作用が多く報告されていますが、 特に長期使用の場合にはミノサイクリンの皮膚障害、 前庭神経障害なども重要であり、 患者への十分な説明が必要です。

関連記事

ミノサイクリンによる皮膚色素沈着の頻度とリスク因子は?

また、 感受性に関して 「ドキシサイクリンが無効でも、 ミノサイクリンが有効であるケース」 が存在することは、 おさえておきたいポイントです。

本研究で引用された報告は比較的小規模かつ後ろ向きであることから、 臨床応用には個別にリスクとベネフィットを慎重に判断し選択をする必要があります。

<出典>
1) BMJ. 2021 Mar 29:372:n71.

2011年 長崎大学医学部卒業、 聖路加国際病院初期研修・内科専門研修・内科チーフレジデント・感染症科フェロー・医員を経て2021年 テキサス大学ヒューストン校/MDアンダーソンがんセンターにて臨床留学。 2022年 同チーフフェロー、 2023年 同アドバンストフェロー、 2024年よりメイヨークリニック感染症科の整形外科感染症フェローとして骨関節感染症に特化したトレーニングを行い更なる研鑽を積んでいる。 また、 日本チーフレジデント協会 (JACRA) 世話人を経て、 現在日本感染症教育研究会 (IDATEN) KANSEN JOURNAL編集委員・米国感染症学会 (IDSA) 感染症教育推進委員。 2024年2月よりFebrile Podcast ID Digital Institute (IDDI)のメンバーも務めており、 デジタルデバイスを活用した新しい感染症教育に積極的に取り組んでいる。

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編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。

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