インタビュー
4日前
誰しも立ち止まり、 迷い、 そして踏み出した人生の瞬間がある。 医師の原点や転換点にフォーカスするインタビュー企画 「Doctor's Career」。 今回は、 メイヨークリニック (米国) 感染症科の松尾貴公先生に話を聞いた。 (全2回の2回目)
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聖路加国際病院での勤務が5~6年を経た頃、 日々の診療が徐々にパターン化し、 「慣れ」 の段階に入ってきた一方、 自らの知識や経験に“偏り”が出てきたことも気づき始めた。 多職種カンファレンスでの議論において、 自信をもって語れない疾患や領域がある。
「このまま今の知識だけで診療を続けていいのか──そう思ったんです。 自分の弱点・苦手分野を学び直すため、 専門的なトレーニングができる必要性を感じていました」
ただ、 日本では日々の診療に忙殺され、 新しい分野を系統立てて学ぶ時間や仕組みが不足していると感じていた。 苦手な分野に関しては、 教科書を確認しながら診察を進めるような状況が多かった。
そのような状況で、 米国テキサス州から約3年半の臨床留学を終えて帰国した医師が、 直属の上司として着任したことが転機となった。 複雑で難治性の感染症に対しても系統立ったアプローチとロジックで、 数々の患者さんを次々と治している姿には衝撃を受けた。
「豊富な知識と経験を有する上司を目の前にして、 どうすればこのようになれるのかと考える日々が続きました。 思い切って相談すると、 『実際に自分で症例を経験しないと、 いくら教科書で勉強しても本当の意味で自分の身につかない。 そのような豊富な症例と教育環境が米国にはあった』と臨床留学の意義を語ってくれました」
留学への思いが一気に高まり、 2021年に渡米を決意した。
「がんと感染症、 免疫不全領域の感染症は感染症医の中でも特に複雑な分野で、 より高度なトレーニングが必要とされます。 ①自分の弱点でもあるこの分野を本格的に学び直す、 ②かつて自分が患った骨関節感染症の分野でもエビデンスを発信する場所に身を置き、 集中的にトレーニングする――この2つを目標に据えました」
米国で選んだのは、 MDアンダーソンがんセンターとメイヨー・クリニック。 フェローシップを通じて、 サブスペシャリティに特化した体系的なトレーニングを受けられる環境が整っていたためだ。
「最初の頃は、 電話での診療に苦労して、 患者さんに怒られてしまったこともあります。 でも、 言葉だけでなく、 姿勢や共感が大事だということも、 あらためて教わりました」
現地での教育文化にも、 大きな刺激を受けた。 フェローによるレクチャーも評価対象であり、 質の担保が徹底されていた。 発言の機会も上下関係なく与えられ、 オープンな議論の場が広がっていた。
「議論の深さも、 教育の姿勢も、 非常に刺激的でした。 今までの常識や自信が崩れるような感覚でしたが、 それ以上に、 自分の幅を広げられたと感じます」
今、 次なるステージに視線を移している。 診療と並ぶ柱として 「教育」 を重視。 自らが学んだ知識やスキルを、 わかりやすく伝えるコンテンツ制作をミッションと捉えている。 制作ノウハウは、 米国の感染症教育の最先端 「Febrile」 のデジタル教育フェローシップを通して習得した。
現在は、 米国感染症学会の感染症教育委員として、 臨床現場で活用できるデジタルデバイスを活用したリソース作りに取り組んでいる。
「1人で100人に教えるよりも、 その100人がさらに誰かに伝えてくれた方が意味があります。 教育の連鎖が医療の質向上に寄与し、 最終的には患者さんのためになると信じています」
自身が作成したX (旧Twitter) の学習アカウント 「1-min ID consult」 は2025年5月現在、 2万3000人のフォロワーがいる。 「隙間時間に1枚のスライドで学べる」 と世界中の医学生や研修医、 フェローを中心に高評価を得ているといい、 今後は日本への展開を目標にしている。
「米国に行かなくても、 同じ学びを得られるような環境をつくりたい。 自分が架け橋になれればと思います」
医師となる前は教師を目指していた時期もあった。 その志が医師となった今、 別の形で実を結びつつある。
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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