【解説】切除可能進行食道胃接合部癌の最適な周術期治療は?
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Beyond the Evidence

9ヶ月前

【解説】切除可能進行食道胃接合部癌の最適な周術期治療は?

【解説】切除可能進行食道胃接合部癌の最適な周術期治療は?
「Beyond the Evidence」では、 消化器専門医として判断に迷うことの多い臨床課題を深掘りし、 さまざまなエビデンスや経験を基に、 より最適な解決策を探求することを目指す企画です。 気鋭の専門家による充実した解説となっておりますので、 是非参考としてください。

今回のClinical Question

現在の本邦における最適な切除可能進⾏⾷道胃接合部癌の周術期治療をどう考えるか?

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専門医の解説 「私はこう考える」

【解説】切除可能進行食道胃接合部癌の最適な周術期治療は?
進行期では、 術前にフッ化ピリミジン系薬+プラチナ製剤+タキサン系薬による併用化学療法を行う。 世界標準ではFLOT (ドセタキセル+オキサリプラチン+ホリナートカルシウム+5-FU)、 東アジアではDOS (ドセタキセル+オキサリプラチン+S-1) も選択肢となる。 オーバートリートメントを避け、 安全性をいかに担保するかが課題であるため、 臨床試験に参加できる場合には積極的に患者さんに治療機会を提供する。

治療法選択における3つのポイント

近年、 食道接合部癌が増えており、 最適な治療法をめぐる議論が活発化している。 今回は、 切除可能な進行接合部癌の周術期治療 (薬物治療) の私見を述べたい。 このCQを考える上で、 主なポイントに下記の3点を挙げた。

  1. 薬物療法で、 接合部癌と胃癌の区別は必要か
  2. 治療法は食道癌寄りか、 胃癌寄りか
  3. 欧米と東アジア、 特に本邦との違い

1. 薬物療法は接合部癌と胃癌で区別せず

上部消化管癌においては、フッ化ピリミジン系薬+プラチナ製剤 (オキサリプラチン) は食道癌 (扁平上皮癌含めて)、 胃癌において、 ともに有効な薬剤である。

欧米では周術期化学療法の標準治療はFLOT-4試験以降、 FLOT療法でドセタキセルも併用薬剤である。 術前化学療法としてDOS療法の有効性を検証したPRODIGY試験のOSの結果が公表³⁾され、 OSでもDOS療法の有効性が⽰唆された。 また本邦においても、 JACCRO-GC 07試験の結果⁴⁾から切除可能胃癌でドセタキセルは有効である。

これらの試験にはほとんど接合部癌は含まれていないが、 JCOG1109試験で局所進行食道癌 (扁平上皮癌) でDCF (シスプラチン+5-FU+ドセタキセル) 療法が有効⁵⁾であること、 少数の後ろ向き解析ながら接合部癌を対象としたDOS療法の高いpCR率が報告⁵⁾されていることを勘案すると、 切除可能な接合部癌のキードラッグは、 胃癌同様に、 フッ化ピリミジン系抗癌剤、 プラチナ製剤、 タキサン系抗癌剤がキードラッグであることに異論は少なく、 薬物療法の観点では接合部癌を胃癌と区別する必要はないだろう。

2. 胃癌寄りの視点からみた治療法

この問題は治療法上、 放射線療法を加える意義をどう考えるかということである。 食道癌側から見ると、 化学放射線療法 (CRT) と周術期化学療法のいずれが標準治療であるかは結論が出ていない。

本年のASCO GI 2023でも報告されたNeo-AEGIS試験では、 CRTと周術期化学療法の生存期間のK-M曲線はほぼ重なっていた。 Neo-AEGISではCRTとしてはいわゆるCROSS (カルボプラチン+パクリタキセル+放射線照射) レジメンが用いられており、 CheckMate-577試験でnon-CR症例に術後ニボルマブを加える有効性が示されたため、 CRT群にはさらに伸びしろがある。 一方、 周術期化学療法もFLOT療法の割合が少なかったことから同様に伸びしろがある。 さらにDANTE、 MATTERHORN試験からも周術期化学療法への免疫療法の上乗せ効果も期待され、 さらなる進化を遂げる可能性があり、 両者の決着は予測困難となっている。

本邦で行われたJCOG1109試験の結果など、 術前CRTによる毒性の増強は一貫して報告されている。 食道癌側のエビデンスからみても、 現状ではless toxicである化学療法単独に軍配があがるだろう。

図 食道接合部腺癌に対する周術期治療:サブグループ解析
【解説】切除可能進行食道胃接合部癌の最適な周術期治療は?

3. 欧米とアジア、 本邦の治療法の違い

切除可能上部消化管癌の治療には、 東西の隔たりが大きく、 端的に語れない。 またRESOLVE試験など中国では周術期 (術前) 治療が標準化してきている。 PRODIGY試験のOSの結果から韓国にも術前治療の波が今以上に広がるだろう。 隔たりは東西の構図から、 本邦とその他となるだろう。

本邦では、 接合部癌が少なく、 エビデンスは『ない』という認識が専門家間で共有されており、 胃癌に倣って切除を先行するもしくは、 食道癌に倣って術前治療を行う2つの立場がありうる。 しかしながら、 本邦の食道癌は扁平上皮癌が主体であるため、 同じ腺癌の胃癌のエビデンスが重視されやすいのではないだろうか。 術前治療を標準治療とすることへの懸念は、 早期癌に対するオーバートリートメントであり、 進⾏症例に切除を先行することの懸念は本邦の臨床医にとっても同様で、 実はあまり異論はないだろう。

欧米では早期癌が少ないため必要性のない議論だが、 進行期をいかに的確に抽出するかが議論の本質である。

さいごに:治療法の選択につながる新たなエビデンス

本年のASCO 2023では中間リスクの直腸癌に対するPROSPECT試験がプレナリーで報告された。 この試験は、オーバートリートメントという医療者にとっては見過ごされやすい問題について、 スポットを当てた点で筆者は重要であったと思う。 治療を受ける患者さん側に立ち、 安易に『とりあえず、 念のため』という考えに流されず、 適応を見極めることが重要である。

世界的には、 免疫療法の周術期におけるエビデンスも増え、 さらに本邦とのエビデンス格差を広げることは望ましくない。 もし、 術前治療の臨床試験に参加できる環境にあるのであれば、 積極的に提供し、 安全性をできる限り担保し、 しっかりとエビデンスを創出することが現状の最適解ではないか。

参考文献

  1. The impact of primary tumour origins in patients with advanced oesophageal, oesophago-gastric junction and gastric adenocarcinoma--individual patient data from 1775 patients in four randomised controlled trials. Ann Oncol. 2009 May;20(5):885-91.PMID: 19164454
  2. Perioperative chemotherapy with fluorouracil plus leucovorin, oxaliplatin, and docetaxel versus fluorouracil or capecitabine plus cisplatin and epirubicin for locally advanced, resectable gastric or gastro-oesophageal junction adenocarcinoma (FLOT4): a randomised, phase 2/3 trial. Lancet. 2019 May 11;393(10184):1948-1957 PMID: 30982686
  3. Neoadjuvant docetaxel, oxaliplatin, and s-1 plus surgery and adjuvant s-1 for resectable advanced gastric cancer: Final survival outcomes of the randomized phase 3 PRODIGY trial.J Clin Oncol 41, 2023 (suppl 16; abstr 4067)
  4. Addition of Docetaxel to Oral Fluoropyrimidine Improves Efficacy in Patients With Stage III Gastric Cancer: Interim Analysis of JACCRO GC-07, a Randomized Controlled Trial. J Clin Oncol 2019 May 20;37(15):1296-1304 PMID: 30925125
  5. A randomized controlled phase III trial comparing two chemotherapy regimen and chemoradiotherapy regimen as neoadjuvant treatment for locally advanced esophageal cancer, JCOG1109 NExT study. ASCO GI Cancer Symposium 2022. Abstract #238
  6. Neo-AEGIS (Neoadjuvant Trial in Adenocarcinoma of the Esophagus and Esophago-Gastric Junction International Study): Final primary outcome analysis. ASCO GI Cancer Symposium 2023. # Abstract #295
  7. Adjuvant Nivolumab in Resected Esophageal or Gastroesophageal Junction Cancer. NEJM 2021 Apr 1;384(13):1191-1203.PMID: 33789008
  8. Surgical and pathological outcome, and pathological regression, in patients receiving perioperative atezolizumab in combination with FLOT chemotherapy versus FLOT alone for resectable esophagogastric adenocarcinoma: Interim results from DANTE, a randomized, multicenter, phase IIb trial of the FLOT-AIO German Gastric Cancer Group and Swiss SAKK. ASCO annual meeting 2022. #Abstract 4003
  9. MATTERHORN: phase III study of durvalumab plus FLOT chemotherapy in resectable gastric/gastroesophageal junction cancer. Future Oncol. 2022 Jun;18(20):2465-2473. PMID: 35535555
  10. Perioperative or postoperative adjuvant oxaliplatin with S-1 versus adjuvant oxaliplatin with capecitabine in patients with locally advanced gastric or gastro-oesophageal junction adenocarcinoma undergoing D2 gastrectomy (RESOLVE): an open-label, superiority and non-inferiority, phase 3 randomised controlled trial. Lancet Oncol. 2021 Aug;22(8):1081-1092. PMID: 34252374

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編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。

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