HOKUTO編集部
26日前
人気連載 「がん遺伝子パネル検査の基礎知識」 の廣島幸彦先生による新連載です。 乳がん遺伝子パネル検査に関する疑問を解決します!
「治療到達率」 は、 遺伝子パネル検査を実施した結果、 標的治療を受けられた患者の割合を指す。
乳がんはサブタイプによって治療到達率が大きく異なり、 ホルモン受容体 (HR) 陽性HER2陰性乳がんで圧倒的に高い。 自験例 (120例) における、 遺伝子パネル検査後の治療到達率を以下に示す。
サブタイプ別にみた遺伝子変異の特徴と、 遺伝子パネル検査後の治療到達率を以下に述べる。
HER2陽性乳がんでは、 ERBB2遺伝子がドライバーとして重要な働きをしている。 ERBB2を標的とした治療が推奨され、 遺伝子パネル検査により他の治療標的となる遺伝子変異が検出されることは少ない。
トリプルネガティブ乳がん (TNBC) では、 FGFR1やCCNE1の遺伝子増幅やFGFR2の活性化変異など、 今後治療標的となり得る病的変異が散見されるが、 現時点では標的治療へのアクセスは難しいと考えられる。
Tumor Mutation Burden (TMB) -Highも10%弱で検出されるが、 複数の免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) が標準治療で使用可能であり、 TMB評価の有用性は限定的である。
PI3K pathway(PIK3CA/AKT/PTEN)遺伝子変異を有するHR陽性HER2陰性乳がんに対して、 AKT阻害薬カピバセルチブが2024年に国内で承認・保険適用となった。 これを受け、 カピバセルチブ適用を目的として遺伝子パネル検査を受検する患者が急増している。
HR陽性HER2陰性乳がんにおけるPI3K pathway遺伝子変異の保有率は50%前後と報告されており、 約半数の患者がカピバセルチブを保険適用薬として使用可能になる。
がんゲノム情報管理センター (C-CAT) 登録データを利用した研究では、 転移性のHR陽性HER2陰性乳がん患者1,967例の52.8%にPI3K pathway遺伝子の変異が認められた¹⁾。
C-CATデータと自験例におけるPI3K pathway遺伝子の変異割合を以下に示す。 自験例では、 他検査で陽性が判明している症例も含まれるため、 変異割合が高くなったと考えられる。
また、 TMB-Highに対する抗PD-1抗体ペムブロリズマブやBRAF V600E変異に対するBRAF阻害薬ダブラフェニブ+MEK阻害薬トラメチニブなど、 がん種横断的な薬剤が適用となる症例も数%ある。 すなわち、 HR陽性HER2陰性乳がんで、 50%以上の症例で保険承認薬にアクセスできる可能性が見込まれる。
さらに、 ホルモン療法耐性変異と知られるESR1遺伝子の活性化変異を検出することで、 今後新規エストロゲン受容体分解薬 (SERD) の適用が判断できる可能性も検討されている。
近年、 がんの個別化医療が進展する中で、 がん遺伝子パネル検査は治療選択の重要な指標となっている。 特にHR陽性HER2陰性乳がんでは、 標準治療を実施する上で必須の検査と考えられており、今後もその用途が拡大していくことが予想される。
他のサブタイプにおいても、 遺伝子パネル検査を実施しない理由はない。 今後、 遺伝子パネル検査は単なる 「選択肢のひとつ」 ではなく、「標準治療を最適化するための必須ツール」 となる可能性が高いだろう。
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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