HOKUTO編集部
5ヶ月前
本稿では、 切除可能な局所進行食道胃接合部腺癌 (GEJC) の周術期治療について、 臨床試験などの現状のエビデンスを中心に概説する (解説医師 : 国立癌研究センター中央病院頭頸部・食道内科/消化管内科 山本駿先生)。
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本邦において、 食道胃接合部腺癌に対する最適な周術期治療に関しては非常にエビデンスが乏しく、 胃癌におけるACTS-GC試験¹⁾やJACCRO-GC07試験²⁾を参考に、 手術と術後S-1療法または術後DS (ドセタキセル+S-1) 療法が実臨床で行われていると推察される。
欧米ではCROSS試験³⁾やCheckMate 577試験⁴⁾を中心に術前化学放射線療法や術後ニボルマブ療法が開発されると同時に、 FLOT4試験を中心に周術期FLOT (フルオロウラシル、 ロイコボリン、 オキサリプラチン、 ドセタキセル) 療法⁵⁾の開発も進められた。
切除可能な局所進行食道胃接合部腺癌に対しては、 以前から大きく分けて2つの周術期治療開発の方向性が存在した。
▼食道癌の一つとして術前CRTを中心とした開発
1つ目が、 食道癌治療の一つとして、 術前化学放射線療法(CRT)を中心としたCROSS試験³⁾を軸とする開発の方向性であり、 その後には病理学的完全奏効 (pCR) が得られなかった (non-pCR) 例に限って術後ニボルマブ療法がCheckMate 577試験⁴⁾で開発され有効性を証明した。 そのため、 切除可能な局所進行食道胃接合部腺癌の最適な周術期治療の一つが、 術前CRT (non-pCRのみ術後ニボルマブ療法)⁶⁾であった。
▼胃癌の一つとしてFLOT4を軸とした開発
2つ目が、 胃癌治療の一つとして、 周術期化学療法を中心としたFLOT4試験⁵⁾を軸とする開発の方向性であり、 切除可能な局所進行食道胃接合部腺癌へのもう一つの最適な周術期治療が、 周術期FLOT療法⁶⁾であった。
切除可能な局所進行食道胃接合部腺癌の最適な周術期治療に関しては複数の議論が存在し、 術前CRTと周術期化学療法のどちらがより生存期間を延長させるのか明らかでなかった。
以前、 この疑問を解決するために、 術前CRTと周術期化学療法を直接比較した無作為化比較試験であるNeo-AEGISが行われ、 主要評価項目である3年生存割合に関しては、 57% vs 55%で、 HR1.03 (95%CI 0.77-1.38) と両群で有意差を認めなかった⁷⁾。
しかし、 この試験にはMAGIC⁸⁾で用いられたエピルビシンベースの周術期化学療法が大半で行われており、 周術期FLOT療法は限定的であったことから、 現在の化学療法における両者の差は不明なままであった。
この議論に重要な示唆を与えたのが、 今年の米国臨床腫瘍学会 (ASCO 2024) で発表されたESOPEC試験⁹⁾である。 対象は、 cT1N+M0またはcT2-4aNanyM0の切除可能な食道腺癌の患者であり、 主要評価項目として全生存期間 (OS)、 副次評価項目として無増悪生存期間 (PFS) 等が設定された。
同試験には438例が登録され、 CROSS群217例、 FLOT群221例と1:1に割り付けられた。 主要評価項目であるOS中央値 (ITT集団) はCROSS群が37ヵ月、 FLOT群が66ヵ月と、 周術期FLOT療法の優越性が証明された(HR 0.70、 95%CI 0.53-0.92)。 またPFS中央値 (ITT集団) に関しても、 CROSS群が16ヵ月、 FLOT群が38ヵ月であり、 こちらでも周術期FLOT療法の有効性が報告された (HR 0.66、 95%CI 0.51-0.85)⁹⁾。
この結果から、 切除可能な局所進行食道胃接合部腺癌に対する最適な周術期治療は、 周術期FLOT療法と考えられた。 ただし、 術後ニボルマブ療法の症例が含まれていない点や、 CROSS群の治療完遂が低く、 治療効果が以前の報告よりも不良な点は議論の余地が残っている。 しかし、 術後ニボルマブ療法の意義はCheckMate 577試験のOSの結果次第であり、 後者に関してはCROSS試験に含まれていない進行例がESOPEC試験には含まれていた点で説明可能と考える。
今後は切除可能な進行食道胃接合部腺癌の周術期治療はFLOT療法が中心になると考えられ、 胃癌で行われているような、 周術期FLOT療法に免疫チェックポイント阻害薬を上乗せする治療開発が主流となるであろう。
既にKEYNOTE-585試験¹⁰⁾では優越性を証明できなかったが、 MATTERHORN試験が進行中であり、 この結果が待たれる。
本稿では、 食道胃接合部腺癌における周術期治療、 特にASCO 2024で報告されたESOPEC試験の歴史的背景や今後の展望について概説した。 次回は切除不能病期の緩和的化学療法に関して、 抗CLDN18.2抗体であるゾルべツキシマブやペムブロリズマブのエビデンスも含めて概説する。
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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