【制吐薬】NK₁受容体拮抗薬の使い分け!国立がん研究センター薬剤師の解説
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HOKUTO編集部

7ヶ月前

【制吐薬】NK₁受容体拮抗薬の使い分け!国立がん研究センター薬剤師の解説

【制吐薬】NK₁受容体拮抗薬の使い分け!国立がん研究センター薬剤師の解説
がん薬物療法に伴う悪心・嘔吐 (chemotherapy-induced nausea and vomiting: CINV) は、 患者のQOLを大きく損なう副作用の一つであり、 その発現を適切に予防することが重要です。 特に高度催吐性リスクを有する化学療法に対しては、 複数の制吐薬を組み合わせた予防的アプローチが推奨されています。 本稿では、 CINV予防におけるNK₁受容体拮抗薬の役割にフォーカスし、 その作用機序、 エビデンス、 および実臨床での使用方法について薬剤師が解説します (第2回解説薬剤師: 国立がん研究センター中央病院 薬剤部 田内淳子先生)。 

解説薬剤師

【制吐薬】NK₁受容体拮抗薬の使い分け!国立がん研究センター薬剤師の解説

CINV予防とNK₁受容体拮抗薬

抗がん薬の催吐性リスクは4段階

CINVは、 急性 (抗がん薬投与24時間以内)、 遅発性 (24-120時間後)、 突出性、 予測性の4種類に分類される。

近年、 抗がん薬投与開始120時間後以降 (6日目以降) も持続する超遅発期悪心・嘔吐も注目されている。

また、 各抗がん薬の催吐性リスクは、 制吐薬の予防的投与なしで投与後24時間以内に発現する嘔吐頻度に基づき、 高度、 中等度、 軽度、 最小度の4段階に分類され、 リスクに応じた適切な予防投薬が推奨されている。

CTZにNK₁受容体が存在

CINVの発現機序には、 末梢性経路と中枢性経路の2つが関与している。 末梢性経路では、 消化管に存在するセロトニン5-HT₃受容体と5-HT₃の結合によってCINVが引き起こされる。 一方、 中枢性経路では、 第4脳室の化学受容器引き金帯 (CTZ) に存在するNK₁受容体とサブスタンスPの結合、 およびドパミン受容体とドパミンの結合を介して嘔吐中枢が刺激され、 CINVが発現すると考えられている。

また、 CINVの発現時期によって主要な発症機序が異なり、 完全には解明されていないものの、 急性期には5-HT₃が主に関与し、 遅発期にはサブスタンスPが深く関与していると考えられている。

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参考文献¹⁾を基に編集部作成

NK₁受容体拮抗薬の適用場面

本邦の『制吐薬適正使用ガイドライン2023年10月改訂第3版』²⁾では、 以下のように、 中等度以上の催吐性リスクレジメンに対してNK₁受容体拮抗薬の投与が推奨されている。

  • 高度催吐性リスクレジメン: デキサメタゾン (DEX) +5-HT₃受容体拮抗薬+NK₁受容体拮抗薬+オランザピンの4剤併用療法が推奨
  • 中等度催吐性リスクレジメン: DEX+5-HT₃受容体拮抗薬+NK₁受容体拮抗薬
カルボプラチン (AUC≧4) や、 カルボプラチン以外の抗がん薬でDEX+5-HT₃受容体拮抗薬では悪心が制御できない場合のオプションとして提示。

NK₁受容体拮抗薬の使い方

2025年2月時点で、 使用可能なNK₁受容体拮抗薬は3種類あり、 以下に各薬剤の特徴を示す。

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薬剤選択は患者に合わせて柔軟に

NK₁受容体拮抗薬による悪心・嘔吐の抑制効果と全身作用に基づく副作用 (血管痛を除く) は、 承認用法・用量において各薬剤間に差は認められない。 そのため、 薬剤選択にあたっては、 患者のアドヒアランスや経口投与の可否、 抗がん薬レジメンのスケジュールなどを鑑みて選択する。

CYP3A4阻害作用に注意

3剤ともCYP3A4を阻害するため、 CYP3A4で代謝されるDEXの血中濃度を約2倍上昇させることが知られている。 そのため、 NK₁受容体拮抗薬を使用する場合はDEX投与量を½にする。

例: 中等度催吐性リスクレジメンの場合、 NK1受容体拮抗薬を使用しない場合のDEX投与量はDay 1 9.9mg (IV)、 Day 2-3 8mg (PO) となるが、 NK1受容体拮抗薬を使用する場合はDay 1 4.95mg (IV)、 Day 2-3 4mg (PO) となる。

まとめ

CINVは発症を予防することが重要となる。 CINVは患者のQOLを著しく低下させるだけでなく、 がん薬物療法の継続を妨げる要因ともなる。

NK₁受容体拮抗薬の登場により高度催吐性リスクにおけるCINVの制御割合は著しく上昇した。 ガイドラインに従い適切な予防投与をすることが大切である。

出典

  1. 薬局. 2022, Vol.73, No.13. 南山堂
  2. 日本癌治療学会編. 制吐薬適正使用ガイドライン 2023年10月改訂 第3版. 金原出版
  3. J Clin Oncol. 2022;40(2):180-188.

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第1回 : 総論編

第2回 : 高催吐レジメン編

第3回 : 中催吐レジメン編

第4回 : 軽度・最小度催吐性レジメン編

第5回 : 新規開発薬ホスネツピタント

第6回 : 中催吐性レジメンで管理困難な場合の対応

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編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。

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