HOKUTO編集部
1ヶ月前
12月は何故か臨床、 教育、 研究全ての業務が忙しくなる時期であり、 さらに忘年会等も重なると、 自分の時間の確保も難しい時期である。
今月は、
❶第Ⅲ相試験CheckMate 8HW
MSI-high/dMMRを有する未治療進行大腸癌に対する抗PD-1抗体ニボルマブ (Nivo) +抗CTLA-4抗体イピリムマブ (Ipi) 療法と標準的化学療法の直接比較
❷第Ⅲ相試験KEYNOTE-177の5年追跡結果
MSI-High/dMMRを有する進行大腸癌に対する抗PD-1抗体ペムブロリズマブ (Pem) と標準的化学療法の5年追跡結果
❸第Ⅱ相試験CROC
切除可能な進行食道扁平上皮癌に対するケモセレクションを軸にした臓器温存戦略
――の3論文を取り上げる。
▼背景
切除不能な進行大腸癌に対する、 分子標的薬と殺細胞性抗癌薬の併用療法や、 殺細胞性抗癌薬のみの併用療法は標準治療として確立しているが、 MSI-high/dMMRを有する場合はその治療効果は限定的である。 そのような中、 Nivo+Ipi療法は非無作為化試験において有望な治療効果が報告されており、 今回Nivo+Ipi療法と標準的な化学療法を直接比較した第Ⅲ相試験であるCheckMate 8HW試験が行われた。
▼試験デザイン
CheckMate 8HW試験は、 第Ⅲ相多施設共同非盲検無作為化比較試験であり、 MSI-high/dMMRを有する切除不能な進行大腸癌を有する症例を対象として、 Nivo+Ipi療法、 Nivo単剤、 標準的化学療法の3群に2:2:1でランダムに割り付けられた。
主要評価項目は未治療例を対象としたNivo+Ipi療法群と標準的化学療法群における無増悪生存期間 (PFS)と、 前治療歴を問わない症例を対象としたNivo+Ipi療法群とNivo単剤療法群のPFSの2つが設定された。 なお今回の論文では前者のみが報告された。
▼試験結果
CheckMate 8HW試験の未治療例に関する解析では303例が登録され、 Nivo+Ipi療法群に202例、 標準的化学療法群に101例がで無作為に、 2 : 1の割合で割り付けられた。 中央判定でMSI-high/dMMRと判定された症例は255例 (Nivo+Ipi療法群 : 171例、 化学療法群 : 84例)だった。 患者背景は遺伝子異常やPD-L1 TPS発現も含め、 両群間で同様だった。 追跡期間中央値は31.5ヵ月だった。
主要評価項目 (24ヵ月PFS割合)
Nivo+Ipi療法群の標準化学療法群に対する優越性が証明された(p<0.001)。
Grade 3~4の治療関連有害事象の発現割合
▼結論
CheckMate 8HW試験の結果から、 MSI-high/dMMRを有する未治療進行大腸癌に対しては、 Nivo+Ipi療法が標準的化学療法と比較して、 PFSを有意に延長させた。
▼背景
MSI-high/dMMRを有する未治療の進行大腸癌に対する標準的な初回治療として、 KEYNOTE-177試験の結果から、 Pem単剤療法が確立された。 既報では、 Pem単剤療法は、 ベバシズマブまたはセツキシマブと殺細胞性抗癌薬との併用療法と比較して、 PFSの有意な延長が認められているが、 今回は5年追跡の結果が報告された。
▼試験デザイン
KEYNOTE-177試験は第Ⅱ相無作為化比較試験であり、 MSI-high/dMMRを有する未治療の進行大腸癌を対象として、 標準的化学療法を対照群、 Pem単剤療法を試験治療群と設定された。 なお同試験ではクロスオーバーが許容されており、 主要評価項目はPFSと全生存期間 (OS) と設定された。 副次評価項目は奏効持続期間 (DOR) や安全性だった。
▼試験結果
2023年7月17日のデータカットオフの段階で、 追跡期間中央値は73.3ヵ月(範囲64.9-89.2ヵ月)で、 Pem単剤群に153例が、 標準的化学療法群に154例が、 1:1でランダムに割り付けられた。 57例が化学療法からペムブロリズマブ療法にクロスオーバーしており、 37例が化学療法からプロトコルオフとなり抗PD-1/PD-L1抗体が投与された。
OS中央値
HR0.73 (95%CI 0.53-0.99)
PFS中央値
HR 0.60 (95%CI 0.45-0.79)
DOR中央値
有害事象の発現
Pem単剤群で低い傾向を認めた。
全Grade
Grade 3~5
▼結論
KEYNOTE-177試験の5年追跡結果から、 Pem単剤療法の治療効果は持続性が認められた。 またOS中央値に関しても62%にクロスオーバーを認めたが、 Pem単剤療法は標準的化学療法と比較して、 2倍以上だった。 Pem単剤療法はMSI-high/dMMRを有する未治療の進行大腸癌に対する初回の標準治療として、 その立場を維持している。
💬My Opinions
Nivo+Ipi療法の有効性が際立つ結果に
今回は、 CheckMate 8HW試験とKEYNOTE-177試験の長期追跡結果を合わせて考察する。
現在のMSI-high/dMMRを有する切除不能な進行大腸癌に対する標準治療として、 1次治療としてはPem単剤療法が用いられている。 しかし、 2次治療としてNivo単剤療法や、 Nivo+Ipi療法の有効性が報告されており、 実臨床で使用可能である。 特にNivo+Ipi療法は、 他癌腫においても抗PD-1/PD-L1抗体単剤よりも治療効果が高い傾向が報告されており、 MSI-high/dMMRを有する未治療の進行大腸癌での効果が期待されることから、 それを検証したのがCheckMate 8HW試験である。 この結果は当初ASCO-GI 2024で報告されたが、 目が覚めるようなカプランマイヤー曲線だったことから、 記憶にある先生方もいらっしゃるかと思う。
免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) の特徴でもある持続的効果 (durable response) も示され、 KEYNOTE-177試験の24ヵ月PFS割合が約50%であることからも、 試験間比較となるが、 Nivo+Ipi療法の有効性が際立っている。 ただしNivo+Ipi療法に関してはいまだOSが報告されておらず、 クロスオーバーが許容された場合、 初回治療の治療効果がどの程度OSに反映されるか、 今後の報告が待たれる。
単剤/併用問わずirAE管理のため定期的な診察・検査を
なお治療関連の有害事象の発現に関しては、 両試験とも全gradeで約80%、 grade 3以上で約20%であるが、 免疫関連有害事象は早期発見・早期治療が重要である事から、 単剤/併用問わず、 外来での問診や診察、 月1回のホルモン値等を含めた血液検査が必要であろう。
▼背景
切除可能な食道扁平上皮癌を有し、 導入化学療法後に治療効果が得られた症例においては臓器温存戦略が検討され得る。 そのため根治的化学放射線療法 (CRT) を用いた臓器温存戦略の有用性を検討した第Ⅱ相試験であるCROC試験が実施された。
▼試験デザイン
CROC試験は、 治療歴のない切除可能な食道扁平上皮癌を対象に、 ドセタキセルとシスプラチン、 5-FU併用 (DCF) 療法を3コース実施し、 その後にT1N0M0までダウンステージングが得られた症例を著効例と定義し、 著効例では根治的CRTが施行された。 本試験の主要評価項目は著効例における1年PFS割合と設定され、 副次評価項目は3年OS割合と食道温存期間と設定された。
▼試験結果
CROC試験には、 92例が登録され、 90例が解析対象となった。 DCF療法を3コース受けた症例のうち、 58.4%で著効が得られ、 89.8%において根治的CRTで完全奏効 (CR) が得られた。 追跡期間中央値は33ヵ月で、 主要評価項目である1年PFS割合は89.8% (95%CI 77.2-95.6%)と報告され、 3年OS割合、 3年食道温存割合はそれぞれ74.1%、 45.3%だった。
▼結論
CROC試験において、 切除可能な食道扁平上皮癌に対してDCF療法で著効が得られた場合、 根治的CRTを行う戦略の忍容性は保たれ、 臓器温存戦略として有望と考えられた。
💬My Opinions
ケモセレクションの基準についてはさらなる検討が必要か
本試験は、 切除可能な食道癌に対して臓器温存を期待できる結果を示した第Ⅱ相試験である。
本試験の対象では、 現在ではJCOG1109試験の結果から、 術前DCF療法と手術が標準的な治療戦略として確立されている。 ただ臓器温存を目指す場合に限り、 JCOG0909試験の結果から、 根治的CRTが行われる。 本試験はこのDCF療法でケモセレクションを行い、 より治療反応性が期待できる集団を抽出している点で、 非常に興味深い治療戦略と考えられる。
ただし、 治療奏効例の約半数で3年の食道温存が得られているが、 このケモセレクションに際して、 この基準 (T1N0M0へのダウンステージングの有無) が最適なのかはいまだ不明であり、 今後さらなる知見の集積が求められる。
今年も数多くの論文が報告され、 腫瘍学の進歩を実感することができた。 是非来年も皆様とともに最新知見を共有できれば幸いである。
MSI-H/dMMR大腸癌の1次治療、ニボルマブ+イピリムマブでPFS改善
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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