HOKUTO編集部
1年前
本年の春に開催された米国臨床腫瘍学会(ASCO) 2023では非常に示唆に富む消化器癌関連の研究結果が報告されたが、 先日開催された欧州臨床腫瘍学会(ESMO) 2023でも今後の実臨床に大きな影響を与えうる研究結果が数多く報告された。
今回は癌種と治療セッティング別に注目演題を整理し、 HOKUTOのユーザーの皆様と共有ができればと考えている。
本邦では、 胃癌術後病理でpStage II-IIIと診断された場合に、 術後S-1療法やDS療法がACTS-GC試験やJACCRO-GC07試験の結果から標準治療として確立している。 一方で、欧米においてはFLOT4試験の結果から、 切除可能な胃癌に対しては術前後のFLOT療法が標準治療として確立している。
今年のASCO 2023でATTRACTION-5試験の結果が報告されたが、 主要評価項目である無再発生存期間(RFS)でニボルマブを上乗せしても有意な延長を示せなかった(HR 0.90、95%CI 0.69-1.18)。 この点もあり、 今回周術期でペムブロリズマブの上乗せを検証したKEYNOTE-585試験や周術期でデュルバルマブの上乗せを検証中のMATTERHORN試験の短期結果に関して、 非常に注目度は高かった。
未治療G/GEJ腺癌、 周術期ペムブロリズマブ上乗せでpCR達成するもEFS延長せず
KEYNOTE-585試験は切除可能な胃癌を対象にして、 周術期化学療法にペムブロリズマブの術前後での上乗せを検証した国際共同ランダム化第III相試験である。
主要評価項目は病理学的完全奏効割合(pCR)、 無イベント生存期間 (EFS)、 主コホート(CAPOX or CF)における全生存期間(OS)等と設定された。 患者背景に関しては両群でwell-balancedであり、 pCR割合はペムブロリズマブ群で12.9%、 プラセボ群で2.0%と報告され、 優越性が証明された(p<0.0001)。
しかし、 EFS中央値に関してはペムブロリズマブ群で44.4ヵ月、 プラセボ群で25.3ヵ月と算出され、 ハザード比(HR)が0.81(95%CI 0.68-0.99)と良好な傾向ではあったものの、 事前に規定された優越性の基準を満たさず、 negative試験となった。 またOS中央値に関してはペムブロリズマブ併用群で60.7ヵ月、 プラセボ併用群で58.0ヵ月、 HR 0.90(95%CI 0.73-1.12)と報告された。
安全性に関しては、 grade 3以上の有害事象として、 ペムブロリズマブ併用療法において約10%高い傾向が報告された。 こちらは免疫関連有害事象による影響と考えられる。
胃癌周術期FLOT療法へのデュルバルマブの上乗せでpCRを有意に改善
MATTERHORN試験は切除可能な胃癌を対象にして、 周術期FLOT療法にデュルバルマブの術前後での上乗せを検証した国際共同第III相試験である。 主要評価項目はEFSと設定され、 副次評価項目としてpCR割合、 OSが設定された。 患者背景に関しては両群でwell-balancedであり、 今回の主要な結果であるpCR割合に関してはデュルバルマブ群で19%、 プラセボ群で7%と有意差を認めた(p<0.0001)。
安全性に関してはgrade 3以上の治療関連の有害事象は、 デュルバルマブ群で58%、 プラセボ群で56%とほぼ同等の値が報告された。
💬 これらの2試験に関して、 ディスカッサントは免疫チェックポイント阻害薬の胃癌周術期治療への展望を前向きに取り扱っている印象であったが、 KEYNOTE-585試験では周術期FLOT療法にペムブロリズマブを上乗せするコホートも存在し、 そのコホートを合わせた結果でも傾向は同様であった。 そのためMATTERHORN試験の長期成績次第では、 胃癌周術期への免疫チェックポイント阻害薬の展開に暗雲が立ち込める可能性がある。
その場合、 KEYNOTE-585試験のサブグループでも示されていたが、 免疫チェックポイント阻害薬に良好な反応を示したMSI-High例(HR 0.59、95%CI 0.24-1.47)やPD-L1 CPS陽性(10以上)例(HR 0.70、95%CI 0.46-1.04)に限った治療開発も検討されうるであろう。
現在本邦では、 HER2 statusに基づき標準治療がそれぞれ確立しており、 約20%の集団であるHER2陽性例ではToGA試験の結果から、 抗HER2抗体薬であるトラスツヅマブとフッ化ピリミジン系薬剤、 プラチナ系薬剤の3剤併用法が用いられ、 残りの約80%の集団であるHER2陰性例ではCheckMate 649試験の結果から、 ニボルマブとフッ化ピリミジン系薬剤、 プラチナ系薬剤の3剤併用療法が用いられている。
そのような中、 HER2陰性例においてはペムブロリズマブとフッ化ピリミジン系薬剤、 プラチナ系薬剤の併用療法の開発も進められ、 KEYNOTE-859試験の結果からOSに関して優越性が証明された。 またHER2陽性例に関してもKEYNOTE-811試験においてペムブロリズマブ併用療法の開発が進められた。
未治療HER2陽性胃癌に対するトラスツズマブ・化学療法へのペムブロリズマブ上乗せでPFSが有意に延長
KEYNOTE-811試験は未治療の切除不能な進行胃癌を対象にして、 トラスツズマブとフッ化ピリミジン系薬剤、 プラチナ系薬剤にペムブロリズマブの上乗せを検証した国際共同ランダム化第III相試験である。 主要評価項目はOSとPFSと設定された。
患者背景に関しては両群でwell-balancedであり、 28.4ヵ月のフォローアップ時点での中間解析において、 主要評価項目であるPFS中央値はペムブロリズマブ群で10.0ヵ月、 プラセボ群で8.1ヵ月と報告され、 優越性が証明された(HR 0.72、95%CI 0.60-0.87)。
サブグループ解析では、 PD-L1 CPS1以上ではHR 0.71(95%CI 0.59-0.86)であったが、 PD-L1 CPS1未満ではHR 1.03(95%CI 0.65-1.64)と報告された。
また39.5ヵ月のフォローアップ時点では、 OS中央値はペムブロリズマブ群で20.0ヵ月、 プラセボ群で16.8ヵ月とペムブロリズマブ群で良好な傾向であった(HR 0.84 、95%CI 0.70-1.01)。
なおORRに関してはすでに論文で報告されてはいるが、 今回の解析ではペムブロリズマブ群で73%、 プラセボ群で60%と報告されている。 安全性に関しては、 全体での治療関連の有害事象はそれぞれ97%と同等だが、 重篤な免疫関連有害事象に関しては6%ほど、 ペムブロリズマブ群で高い傾向であった(10% vs 4%)。
💬 KEYNOTE-811試験は主要評価項目の一つで優越性を証明したことから、 positive試験となるが、 本邦においてはOSの最終解析結果が重要になると考える。 しかしながらディスカッサントは、 すでに本治療法はPD-L1 CPS1以上のHER2陽性例の標準治療であるといった論調を展開しており、 欧米とのギャップが早くも生まれている印象であった。
MSI-High未治療進行胃癌へのニボルマブ+低用量イピリムマブでORR62.1%
切除不能な進行胃癌の5%未満でMSI-Highを認めることが報告されており、 この対象は以前より免疫チェックポイント阻害薬の反応性が良好な集団として知られている。特にニボルマブとイピリムマブ併用療法のようなdual checkpoint blockadeで高い治療効果が他癌腫で報告されている。 ただし、 ニボルマブとイピリムマブ併用療法は当初CheckMate 649試験で検証されたが、 有効性が認められなかったことが報告されている。
そのような中、 バイオマーカーで症例を絞り、 未治療のMSI-Highの切除不能進行胃癌におけるニボルマブと低用量イピリムマブ(1mg/kg)併用療法の有効性と安全性を検討した医師主導治験がNo Limit試験である。
本試験は近畿大学が中心となり、 WJOG消化器グループが実施した単群の多施設共同第II相試験である。 主要評価項目はORRと設定された(期待値: 65%、 閾値: 35%)。
本試験には29例が登録され、 年齢中央値は75歳(範囲 54-84歳)、 全例がHER2陰性例であり、 高/中分化腺癌が48.3%、 低分化腺癌が44.8%であった。
最終的にORRは62.1%(95%CI 42.3-79.3%)と報告され、 CR割合も10.3%と良好な結果が得られた。 PFSとOSは中央値ともに未到達であり、 grade 3の治療関連有害事象として、 甲状腺機能低下症が6.9%、 発疹が6.9%、 肺臓炎が3.4%で報告され、 grade4の治療関連有害事象として1例で脳炎が報告された。 なお治療関連死は認めなかった。
💬 No Limit試験では、 MSI-Highの切除不能進行胃癌に対する初回薬物療法としてのニボルマブと低用量イピリムマブ併用療法の有効性と安全性が示されたと考えられる。 本対象はスクリーニング研究であるWJOG13320GPSで示されたが、 切除不能進行胃癌のうち、 5.6%にとどまり、 ランダム化第III相試験を行うには難しい集団と考えられる。 そのため、 本治療法がどのように実臨床に還元されるのか注目される。 またスクリーニングも含めた一連の本研究では、 今まで限られた報告しか存在しなかった本邦におけるMSI-High胃癌の患者背景が明らかになり、 その点でも非常に有意義であったと考えられる。
転移性膵癌の化学療法は長らくゲムシタビン単剤療法が用いられていたが、 有効な治療薬の選択肢は乏しく、 予後も非常に不良な対象であった。 そのような中、 MPACT試験の結果から、 ゲムシタビンとナブパクリタキセル併用(GnP)療法が新たな標準治療として確立し、 ACCORD11試験の結果から、 FOLFIRINOX療法が新たな標準治療として確立した。
しかし、 有害事象の観点から、 本邦ではFOLFIRINOX療法はmodifiedレジメン(mFOLFIRINOX)が用いられていた。 しかし、 この2つのレジメンを直接比較した研究は存在せず、 どちらかより有効か長らく議論がなされていた。 一方で、 S-1とイリノテカン、 オキサリプラチン併用(S-IROX)療法が本邦の第I相試験で開発が進められ、 奏効割合が51.1%と非常に有望な結果が報告された。
mFOLFIRINOX/S-IROXのNab-PTX+Gemに対する優越性は証明されず:膵癌
そのような背景から、 JCOG肝胆膵グループが実施した大規模試験がJCOG1611試験(GENERATE)である。同試験は、未治療の転移性膵癌を対象に、 GnP療法とmFOLFIRINOX療法、 S-IROX療法の3つの治療を比較したランダム化第II/III相試験である。 第II相部分ではS-IROX療法のORRを主要評価項目と設定し、 こちらは2020年6月に基準をクリアしたことから、 症例登録が進められ、 第III相部分の主要評価項目はOSと設定された。
同試験は、 当初3群全体で732例を予定していたが、 中間解析の結果から試験の早期中止が勧告され、 早期中止となった。 ESMO 2023では中止までに登録された527例における主要評価項目の結果が報告され、 527例のうち、 GnP療法に176例が、 mFOLFIRINOX療法に175例が、 S-IROX療法に176例が1:1:1で割り付けられ、 患者背景は3群間でwell-balancedであった。
主要評価項目であるOS中央値は、 GnP群で17.1ヵ月、 mFOLFIRINOX群で14.0ヵ月、 S-IROX群で13.6ヵ月と報告され、 GnP群と比較すると、 HR 1.29(95%CI 0.98-1.70)、 HR 1.29(95%CI 0.98-1.70)と算出されており、 オキサリプラチンベースの初回治療が軒並み不良な傾向であった。 なおORRに関しては、 GnP群で35.4%、 mFOLFIRINOX群で32.4%、 S-IROX群で42.4%と、 第I相試験の結果からS-IROX群が高い傾向ではあったが、 OSには結びつかなかった。
その理由として、 安全性が考えられ、 grade 3以上の好中球減少がGnP療法群で60.3%、 mFOLFIRINOX群で51.5%、 S-IROX群で38.7%であったが、 発熱性好中球減少はGnP療法で3.4%、 mFOLFIRINOX群で8.8%、 S-IROX群で7.5%にとどまった。 しかし消化器毒性はgrade 3以上の食欲不振はGnP群で5.2%、 mFOLFIRINOX群で22.8%、 S-IROX群で27.6%、 grade 3以上の下痢はGnP群で1.1%、 mFOLFIRINOX群で8.8%、 S-IROX群で23.0%とオキサリプラチンベースの初回治療に関しては、 5-FU系薬剤とイリノテカンにより、 有害事象管理に難渋したと考えられる。
💬 JCOG1611試験の結果から、 転移性膵癌の1次治療はGnP療法が望ましいと考えられ、 今後の治療開発の際の軸になると考えられる。 すでにNAPOLI3試験でNALIRIFOX療法はGnP療法と比較してOSの延長を証明したが、 消化器毒性の頻度が高く、 JCOG1611試験の結果を考慮すると、 本邦で導入が進められた場合、 有害事象管理の点から慎重な管理が必要と考えられる。
食道癌の周術期治療は本邦ではJCOG1109試験の結果から、 術前DCF療法が標準治療であるが、 欧米ではCROSS試験の結果から、 術前化学放射線療法が標準治療として確立されている。 特に術前化学放射線療法では約30%の症例に病理学的完全奏効が得られることや、 食道癌の根治手術においては3~4%で治療関連死が報告されており、 臓器温存を目指す治療戦略の開発が進められている。 そのような中、 術前化学放射炎療法後に臨床的に完全奏効が得られた症例に対して、 active surveillanceと手術を比較した研究がSANO試験である。
局所進行食道癌への術前CRT後のactive surveillance、手術に対するOSで非劣性証明
SANO試験は、 局所進行食道癌に対して、 CROSS試験で用いられた術前化学放射線療法を受けて、 治療終了12週後に臨床的に完全奏効が得られた症例を対象に、 active surveillanceと手術をクラスター・ランダム化で比較した第III相試験である。 主要評価項目はOS(非劣性マージン: 2年OSで15%以内のΔ)と設定された。
本試験には309例が登録され、 198例がactive surveillanceに、 111例が手術に割り付けられた。 患者背景は年齢や性別、 組織型など、 2群間でwell-balancedであり、 主要評価項目であるOSに関してはHRが0.88 (95%CIの上限:1.40、 p=0.007)であり、 非劣性が証明された。
なおactive surveillance群において、 17%が経過観察中に遠隔転移を認め、 48%が局所の再増大を認め、 35%が臨床的な完全奏効を維持していた。 またactive surveillance群の42%で原発切除術が行われていた。
💬食道癌の臓器温存戦略を検討する上で非常に重要な試験であり、 今後の開発の動向に影響を与えうる試験であるが、 懸念点も多い試験である。 まず、 組織型別の結果が報告されていない。 一般に扁平上皮癌は化学療法や放射線療法の感受性が腺癌よりも高いと報告されており、 両群とも約30%に扁平上皮癌が登録されていることから、 その点の解析結果が待たれる。
また本試験にはpreSANO試験の症例も登録されており、 純粋なランダム化比較試験といえない点も懸念点である。さらには、臨床的な完全奏効が得られなかった約500例の症例の安全性に関するデータは一切報告されておらず、 NeoRes II試験では手術の時期が遅れることでOSが不良となることが示唆されていることから、 この集団のデータも臨床応用する際には必要であろう。
切除不能な進行・再発食道癌の初回治療は、 KEYNOTE-590試験やCheckMate 648試験の結果から、 CFとペムブロリズマブ/ニボルマブ併用療法、 またはニボルマブとイピリムマブ併用療法が標準治療として確立している。 しかし、 OS中央値は約1年、 ORRは30~50%と報告されており、 予後はいまだに限定的であることから、 さらなる治療開発が必要な対象である。 そのような中、 フッ化ピリミジン系薬剤とプラチナ系薬剤、 ペムブロリズマブ併用療法にレンバチニブの上乗せを検証する第III相試験であるLEAP-014試験も進行中であるが、 同時に標準治療にFGFR阻害薬フチバチニブ(TAS120)を加えた治療開発も進行中である。
食道癌2次治療におけるフチバチニブ+ペムブロリズマブ、第Ⅰb相試験でORR 76.9%と有望
本研究では2次治療のTAS-120とペムブロリズマブ併用療法も検討されていたが、 すでに他の学会でも報告されており、 本稿では初回治療にフォーカスして解説する。 この第Ib相試験の初回治療のコホートには16例がすでに登録されており、 主要評価項目は用量制限毒性(DLT)発生割合と設定され、 副次評価項目はORR等と設定された。
主要評価項目であるDLT発生割合に関しては、 1例のgrade 3の粘膜炎に限られ、 TAS120の推奨容量は20mg/日と決定された。 なお、 その他の有害事象としては、 高リン血症が87.5%、 粘膜炎が62.5%、 食欲不振が58.3%と全gradeで報告され、 grade3以上では好中球減少が25.0%、 粘膜炎が6.3%、 食欲不振が6.3%、 嘔気が6.3%、 白血球減少が6.3%、 貧血が6.3%と報告され、 非常に良好な忍容性であった。 ORRに関しては76.9%と報告されこちらも非常に有望な結果が報告された。
本試験では当初FGFRのmRNA過剰発現の評価を事前に行っていたが、 約90%の症例で過剰発現を認めたことや、 mRNA過剰発現を認めない症例においても有効性が得られていることから、 今後はバイオマーカーによらずに治療開発が進められることが望まれる。
ESMO congressは演題の質が高く、 実臨床を変えうる報告が数多くなされる学会の一つではあるが、 本邦からでは学会会場へのアクセスが常に良好なわけではなく、 若手の先生方が参加しやすい学会とは言いにくいかと考える。 是非このような資料を参考に、 消化器癌(主に上部消化管)の知識のupdateに努めていただければ幸いである。
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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