HOKUTO編集部
1年前
2023年3月、 わが国初となる腫瘍循環器診療ガイドライン「Onco-cardiology ガイドライン」が日本臨床腫瘍学会と日本腫瘍循環器学会の共同編集で刊行された。 9月18日に開催された日本臨床腫瘍学会主催によるWEセミナー「第4回 一緒に学ぼう日本臨床腫瘍学会関連ガイドライン」では、 国際医療福祉大学循環器内科/ 医学教育統括センター教授の田村雄一氏が、 同ガイドラインの中から「静脈血栓症」と「肺高血圧症」について解説。 癌治療中に発生する可能性のある肺循環障害のうち、 今回田村氏は、 「急性肺塞栓症」 (静脈血栓塞栓症 [VTE]) および亜急性~慢性に経過する肺高血圧症である「薬剤性肺動脈性肺高血圧症」を取り上げ、 解説した。その一部を紹介したい。
日本人では少ないと言われていたが、 2004年に肺塞栓予防管理料が新設されて以降、 患者数は激増している。
日本人VTE例の最大基礎疾患は癌 (27%) であることが報告されている。
癌患者におけるVTEリスクを簡便に評価し得る方法は、 現状では存在しない。 担癌患者においてもD-dimer測定は活用できるが、 ベースラインの値を把握する。
FRQ 7-1:癌薬物療法に伴う静脈血栓塞栓症 (venous thromboembolism:VTE) の診療にバイオマーカーは推奨されるか?
【ステートメント】癌薬物療法に伴う静脈血栓塞栓症の診療において、 凝固線溶系バイオマーカーの有用性に関してはいくつかの報告があるものの、 十分なエビデンスの集積はなく今後の検討課題である。
VTEリスクは分子標的薬間で異なる可能性がある。 特に抗VEGF抗体べマシズマブとVEGF阻害薬アフリベルセプトベータで、 高いVTE発症率が報告されている。
免疫チェックポイント阻害薬でも上記2剤に近いVTE発生率が報告されている。
癌患者はVTE再発リスク (年間20.7%) および出血リスクがともに高い。 特に、 最初の3~6ヵ月での再発が多い。 そのため、 原則的に癌が根治するまでは継続的な抗凝固療法が必要となる。
継続治療にはDOACが推奨される。
DOAC推奨の根拠は、 海外標準治療である低分子量ヘパリン (本邦未承認) に対する非劣性を証明したランダム化試験で示されている。
DOAC選択にあたっては他薬剤との相互作用を考慮する。
CQ 7-2:癌薬物療法に伴い静脈血栓塞栓症 (venous thromboembolism:VTE) を発症した患者に抗凝固療法は推奨されるか?
【ステートメント】癌薬物療法中に発症した静脈血栓塞栓症に対する抗凝固療法を行うことを提案する。 *肺塞栓症と中枢型深部静脈血栓症が対象 (推奨の強さ:弱、 エビデンスの強さ:B [中])
近年、 チロシンキナーゼ阻害薬 (TKI) 使用に伴う肺高血圧出現が報告されており、 特にダサチニブとボスチニブでリスクが高いと考えられている。
ポナチニブ使用時も肺高血圧症に注意すべきである。
TKI使用に伴う肺高血圧症の特徴として、 TKI休薬、 あるいは早期の介入で改善する例が多いことが挙げられる。 発症の背景には急性の肺動脈血管内皮細胞傷害が関与する可能性があり、 血管リモデリング進展前に介入できれば可逆的な改善を期待できる。
労作時の息切れ・浮腫が出現する。
→心エコーを用いてスクリーニングを実施する
正常と比較して、 右心室拡大、 三尖弁逆流が特徴的所見として挙げられる。
→心電図変化が生ずるような器質的変化が生じる前でもTKIによる肺高血圧は発症するので、 心エコーによる評価が必要。
BQ 8-1:癌薬物療法中に経胸壁心臓超音波検査による肺高血圧症のスクリーニングは推奨されるか?
【ステートメント】
癌薬物療法開始後に症状などから肺高血圧が疑われる場合は、 胸水の確認と心臓超音波検査を行う。
原因薬剤を中断する。
肺高血圧症治療薬の投与を検討する。
FRQ 8-2:癌薬物療法による肺高血圧症に早期の肺血管拡張薬は有効か?
【ステートメント】
ダサチニブ中止で改善を得られる可能性はある。 改善が乏しい場合には、 肺血管拡張薬による加療を検討する。
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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