HOKUTO編集部
9ヶ月前
米国臨床腫瘍学会泌尿器癌シンポジウム (ASCO GU 2024) について、注目トピックスを紹介します。今回は、国立がん研究センター東病院腫瘍内科の近藤千紘先生に、注目演題5題をご解説いただきました。
今年のASCO GU 2024は、 例年より1ヵ月早く1月25~27日に米国・サンフランシスコで開催されました。
ASCO GUは研究発表としてOral abstract Session、 Rapid oral abstract session、 Poster sessionが設けられており、 毎日テーマが異なります。 1日目は前立腺癌、 2日目は尿路上皮癌、 3日目は腎癌とその他が設定されており、 上記研究発表のほかに、 その領域のClinical Questionや症例ベースに行われるパネルディスカッションも用意されています。 今年のASCO GUは、 明日の臨床を変える大きなインパクトのある研究データの報告はありませんでしたが、 味わい深い内容のエビデンスが複数報告されました。
前立腺癌における免疫チェックポイント阻害薬の開発は、 これまでに抗PD-1抗体+ドセタキセル併用、 新規ホルモン薬との併用、 オラパリブとの併用で第III相試験が行われましたが、 いずれもネガティブな結果となっていました。 前立腺癌に対するマルチキナーゼ阻害薬カボザンチニブ60mg/dayは、 過去に第III相試験が行われ、 プレドニゾロン単剤と比べて生存延長効果はないものの無増悪生存期間 (PFS) や奏効率の向上は認められたアクティブな薬剤です。 今回、 抗PD-L1抗体アテゾリズマブとの併用で効果増強を期待できることから、 CONTACT-2試験が計画されました。
Cabo+Atezo群 (カボザンチニブ40mg/day連日内服+アテゾリズマブ1,200mg 3週毎) と標準治療群 (2剤目の新規ホルモン薬 [アビラテロン1,000mg+プレドニゾロン5mgまたはエンザルタミド160mg] ) の2群を1:1に無作為化し、 主要評価項目はPFSおよび全生存期間 (OS) でした。
観察期間中央値14.3ヵ月時点のPFSのデータは、 Cabo+Atezo群で6.3ヵ月、 標準治療群で4.2ヵ月であり、 ハザード比 (HR) は0.65 (95%CI 0.50-0.84)、 p=0.0007と、 Cabo+Atezo群の優越性が示されました。 カボザンチニブは骨転移・肝転移への効果が期待できるという特性から、 これらのサブグループでの効果は注目されており、 肝転移例におけるHRは0.43 (同0.27-0.68)、 骨転移例におけるHRは0.67 (同0.50-0.88) と報告されていました。 OSは現時点では有意差はありませんが、 イベント数が不足しているため最終解析が待たれます。
有害事象 (Grade3以上) は当然ながらCabo+Atezo群に多いことから、 やはりOSでの優越性も示されたうえで、 この2剤の真価が決まると思われます。
AMBASSADOR試験は、 尿路上皮癌術後における抗PD-1抗体ペムブロリズマブの有効性を検証する第III相無作為化比較試験で、 米国臨床試験グループより報告されました。 対象は、 筋層浸潤尿路上皮癌 (膀胱・尿道・腎盂・尿管を含む) で根治切除術を行った患者で、 (1) 術前療法後にpT2以深、 リンパ節転移陽性あるいは断端陽性であった症例、 および (2) シスプラチン不適あるいは拒否により手術先行した場合はpT3以深リンパ節転移陽性、 あるいは断端陽性であった症例でした。
1年間のペムブロリズマブ投与群と無治療経過観察群に無作為化し、 主要評価項目は無病生存期間 (DFS) とOSの2項目が設定されました。 最初は739例のサンプルサイズでしたが、 膀胱癌術後の抗PD-1抗体ニボルマブの保険承認を受けて早期中止となり、 その時点で702例まで登録されました。
代替治療の施行あるいは同意撤回はDFSコホートで33.5%、 OSコホートでは18.9%にのぼりました。 このように波乱の臨床試験ではありましたが、 結果はDFSのHR 0.69 (95% CI 0.54-0.87) であり、 ペムブロリズマブの優越性が示されました。 OSはイベント不足もあり最終解析が待たれる結果でした。 膀胱癌術後治療における抗PD-1抗体のエビデンスはこれまでCheckMate 274試験の1報のみでしたが、 AMBASSADOR試験の同等な結果を受けて、 その意義はより頑健なものであると評価できると思います。
EV-302試験は、 未治療の進行転移尿路上皮癌 (la/mUC) の1次治療において、 抗Nectin-4標的抗体薬物複合体エンホルツマブ ベドチン+抗PD-1抗体ペムブロリズマブ併用療法 (EV+Pem) がプラチナ併用化学療法 (CT) にPFS および OSで上回る結果が、 4ヵ月前のESMO 2023で公表された試験です。 抗体薬物複合体と免疫チェックポイント阻害薬の併用がCTに勝利した初の試験であり、 そのサブグループ解析にも注目が集まりました。
PFSおよびOSにおいて、 年齢、 人種、 性別、 Performance Status、 上部/下部尿路、 肝転移、 シスプラチン可否、 腎機能によらず、 EV+Pem群がCT群より優れる結果でした。 とくに膀胱癌では、 PD-L1発現の有無は免疫チェックポイント阻害薬の効果予測とならないことが指摘されていますが、 PD-L1陽性群におけるPFSとOSは、 それぞれHR 0.42 (95%CI 0.33-0.53)とHR 0.49 (同0.37-0.66) であるのに対し、 PD-L1陰性群では、 それぞれHR 0.50 (同0.38-0.65)とHR 0.44 (同0.31-0.61) と、 PD-L1陽性の有無で治療効果に差はないという結果でした。 奏効割合 (ORR) も同様の結果でした。
未治療la/mUCへのEV+Pemは、 特徴的な有害事象 (皮疹・掻痒・神経障害など) を除き、 効果指標では今のところ死角のない有望な治療レジメンであり、 米国ではすでに2023年12月に保険承認となっています。 日本でも使用可能となる日が待ち遠しく感じます。
KEYNOTE-564試験は、 限局性淡明細胞腎癌 (ccRCC) 術後の再発ハイリスク例に対する抗PD-1抗体ペムブロリズマブとプラセボを無作為化比較した大規模な第III相試験であり、 今回は追跡期間を延長した3回目の中間解析の結果が報告されました。
主要評価項目であるDFSの既報の結果から、 ペムブロリズマブは欧米だけでなく日本でも保険承認が得られています。 DFSでの結果が統計学的にポジティブだった場合に副次評価項目であるOSにも片側α=0.025が割り振られる統計設計となっていました。
観察期間中央値は57.2ヵ月 (範囲47.9-74.5ヵ月) でしたが、 両群とも中央値には到達していません。 48ヵ月時点のOSはペムブロリズマブ群で91.2%、 プラセボ群で86.0%、 HR 0.62 (95%CI 0.44-0.87)、 p=0.002 であり、 有意にペムブロリズマブ群が優れていました。
また本試験には、 pT2で組織Grade4 or 肉腫様変化あり、 pT3-4、 pN1、 転移巣切除後 (M1 NED) の症例が含まれています。 サブグループ解析においてペムブロリズマブの効果が否定的なサブグループは認めず、 HRはM0 high : 0.61、 M1 NED : 0.51、 PD-L1 CPS<1 : 0.65、 CPS≧1 : 0.62、 肉腫様変化あり : 0.69、 肉腫様変化なし : 0.57と報告されました。 安全性において、 長期追跡によりペムブロリズマブ群のうち高用量ステロイドを投与した症例は7.6%でしたが、 治療関連死は認めませんでした。
再発ハイリスクの定義は時代とともに変遷は見られますが、 これまでの術後ccRCCの追加治療の臨床試験においてDFSのみでなくOSでもその意義が示されたのは、 本試験が初です。 腎癌の治療開発のうえでも意義深い今回の報告であったと思います。
ChecMate 914試験は、 腎癌の術後再発ハイリスク例におけるニボルマブの有効性を検証する第III相無作為化比較試験です。 再発ハイリスクの定義は、 RCCが優勢 (肉腫様変化の有無は不問) でT2a (Grade 3-4) N0M0、 T2b-T4 (Gradeは不問) N0M0、 N1M0の症例でした。 本試験では登録症例を(1)ニボルマブ+プラセボ (Nivo群)、 (2)ニボルマブ+イピリムマブ+プラセボ、 (3)プラセボ+プラセボ (Placebo群) に2 : 1 : 1で割りつけ、 TNM Stage、 腎摘術式で層別化しました。 治療期間は6ヵ月間であり、 主要評価項目はNivo群 vs Placebo群のDFSでした。
今回はNivo群 vs Placebo群の結果が報告されました。追跡中央値27.0ヵ月においてDFS中央値は両群とも到達せず、 HRは0.87 (95%CI 0.62-1.21)、 p=0.3962でした。 治療関連有害事象は全体で72.5% vs 51.7%、 重篤なものは8.8% vs 1.9%、 治療中止に至ったものは11.0% vs 1.0%でした。
本試験において、 ニボルマブは再発高リスクの術後RCCのDFSを改善する効果は認められませんでした。 同じ抗PD-1抗体であるペムブロリズマブは、 KEYNOTE-564試験でDFSおよびOSでの優越性が証明されており、 他癌種でのデータも鑑みると両薬剤の違いは明らかではありません。 治療継続期間が1年間ではなく6ヵ月間と短かったことや、 ハイリスクの定義が異なる*ことが原因となった可能性が示唆されます。 今後その他の免疫チェ ックポイント阻害薬の術後治療における試験結果を統合解析するなどして、 真のハイリスクとは何かを明らかにしていく必要 があると思います。
ASCO GU 2024では、 明日の臨床を変える報告はありませんでした。 とはいえ、 腎癌術後の免疫チェックポイント阻害薬の生存延長効果が示されるなど、 治療学の発展における重大なエビデンスの報告がありました。 また、 同じ腎癌の術後治療でネガティブな報告もそろい、 今後の治療対象や治療期間について示唆を与える結果であったことも意義深いと思います。
尿路上皮癌では、 今回取り上げてはいない報告にも抗体薬物複合体の第I/II相試験のエビデンスや、 実臨床でのリアルワールドデータの報告があり、 EV-302試験に続く新たな時代の足音を感じました。 前立腺癌のような、 免疫療法が苦手とするいわゆるcold tumor*にも血管新生阻害作用のあるチロシンキナーゼ阻害薬との併用療法が効果を証明したことは、 腎癌におけるそれらの併用療法とは異なる解釈が必要ではないかと思いますが、 ここからはマニアックな世界になってきますので、 今回の解説では割愛します。
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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