HOKUTO編集部
9ヶ月前

神経内分泌腫瘍 (NET) は、 mTOR経路やVEGFに関する遺伝子異常が特徴的な悪性腫瘍である。 そのため、 これまで分子標的薬を中心とした治療開発が進められてきた。 一方で、 古くから使用されてきたアルキル化薬もその有効性が報告されており、 治療選択肢の一つとして現在も位置付けられている。 本稿では、 NETに対する殺細胞性抗癌薬の中から、 ストレプトゾシンとテモゾロミドに焦点を当て、 主要な臨床研究の成績を基に、 その有効性と安全性、 さらに具体的な副作用マネジメントについて詳細に解説する。


ストレプトゾシンは、 DNA合成およびその機能を阻害することで抗腫瘍効果を発揮する薬剤である。 神経内分泌腫瘍に対しては、 膵原発例を対象とした無作為化比較試験¹⁾が約45年前に実施されており、 日本では約10年前に第I/II相試験²⁾が行われた。
本試験では、 切除不能な膵原発の神経内分泌腫瘍 (islet cell carcinoma) を対象に、 ストレプトゾシン単剤療法と5-FU併用療法の有効性が比較された。 ストレプトゾシンは500mg/m²をDay 1~5に6週ごとに投与し、 5-FUは同日程で400mg/m²を併用した。
試験には103例が登録され、 評価可能な症例数は各群42例であった。 奏効割合は単剤群で36%、 併用群で63%と、 5-FU併用により高い奏効率が示された。 全生存期間 (OS) の中央値は単剤群で16.4ヵ月、 併用群で26.0ヵ月と、 併用群で良好な傾向が認められたが、 統計学的な有意差には至らなかった。
消化器原発の切除不能な神経内分泌腫瘍 (G1/G2) を対象に、 ストレプトゾシン単剤療法の有効性と安全性を検討する第I/II相試験が実施された。 投与法は、 500mg/m²をDay 1~5に6週ごとに投与する 「dailyレジメン」 と、 1,000mg/m²をDay 1に1週ごとに投与する 「weeklyレジメン」 から選択された。
本試験には23例が登録され、 22例が評価対象となった。 有効性の評価では、 奏効割合は9.5%、 病勢制御割合は100%であった。
第I/II相試験では、 評価対象となった22例の全例で有害事象が報告された。 主な有害事象は、 血管痛59.1%、 悪心45.5%、 便秘45.5%、 倦怠感22.7%、 味覚異常22.7%、 嘔吐18.2%、 口内炎18.2%、 高血糖13.6%、 食欲不振13.6%、 下痢13.6%であった。
ストレプトゾシンは、 日本癌治療学会の制吐薬適正使用ガイドラインおよびNCCNガイドラインにおいて、 高度催吐性リスクに分類されている。 第I/II相試験では全例に制吐薬が併用されており、 5-HT₃受容体拮抗薬およびデキサメタゾンの併用が20例、 さらにNK₁受容体拮抗薬を含む3剤併用が2例で実施された。
ストレプトゾシンおよびその代謝物は主に尿中に排泄されることから、 腎機能の低下が薬物の排泄に影響を与える可能性がある。 腎機能障害のある患者では有害事象が増強されるリスクがあるため、 注意が必要である。 また、 過去の無作為化比較試験では、 ストレプトゾシン投与にあたって腎機能障害の予防としてハイドレーションと尿量確保が推奨されており、 第I/II相試験でも投与前後にそれぞれ1,000~2,000mLの輸液が実施されていた。
血糖上昇はストレプトゾシンに特徴的な有害事象であり、 糖尿病の既往がある患者では耐糖能異常のリスクが高まるため、 慎重なモニタリングが求められる。 投与中は定期的に血糖値を測定し、 上昇が確認された場合は血糖降下薬の導入や休薬を行う。 コントロール困難な場合は投与中止を検討する。
テモゾロミドは、 DNA・RNAおよびタンパク質の合成を阻害することで抗腫瘍効果を発揮する薬剤であり、 カペシタビンとの併用療法としての開発が進められてきた。 膵原発の神経内分泌腫瘍に対する有効性および安全性を検討した代表的な臨床試験が、 E2211試験である³⁾。
切除不能な膵原発の神経内分泌腫瘍を対象に、 テモゾロミド単剤療法 (200mg/m²、 Day 1–5、 28日毎) と、 カペシタビン (750mg/m²、 Day 1–14) +テモゾロミド (200mg/m²、 Day 10–14) の併用療法を比較した第II相無作為化比較試験である。 主要評価項目は無増悪生存期間 (PFS) であり、 OSや安全性についても評価された。
本試験では144例が無作為化され、 単剤群・併用群に各72例が割り付けられた。 年齢、 性別、 PSなどの患者背景は両群でバランスが取れていた。 評価可能例は133例であり、 PFS中央値は、 単剤群で14.4ヵ月、 併用群で22.7ヵ月と、 併用群で有意に延長した (ハザード比 [HR] 0.58、 95%CI 0.36–0.93)。 奏効割合は単剤群33.8%、 併用群39.7%、 OS中央値は単剤群53.8ヵ月、 併用群58.7ヵ月 (HR 0.82、 95% CI 0.51–1.33) であった。
なお、 テモゾロミドの治療効果とMGMT (O⁶-methylguanine-DNA methyltransferase) の発現との関連も検討されている。 MGMTの欠損 (免疫染色での低発現またはプロモーターのメチル化) は治療効果と有意に相関し、 免疫染色による評価ではオッズ比 (OR) 6.38 (95%CI 2.19–18.6、 p=0.0004)、 メチル化による評価ではOR 9.79 (95%CI 1.09–87.7、 p=0.04) であった。
E2211試験では、 テモゾロミドとカペシタビンの併用療法を受けた71例中70例 (98.6%) に有害事象が認められた。 主な有害事象は、 悪心74.3%、 疲労64.3%、 便秘48.6%、 下痢47.1%、 嘔吐44.3%、 貧血38.6%、 手足症候群32.9%、 血小板減少32.9%、 好中球減少21.4%であった。Grade 3/4の有害事象は、 単剤群に比べて併用群で有意に多く、 悪心、 嘔吐、 疲労、 下痢、 好中球減少がいずれも8~13%の頻度で発生し、 全体としてのGrade 3/4発現率は22%対44% (p=0.007) であった。 ただし、 いずれの群においても治療の忍容性は良好と評価されている。
カペシタビンによる手足症候群 (HFS) の予防には、 ヘパリン類似物質やワセリンによる保湿、 物理的刺激の回避、 および角質ケアが推奨されている。 チロシンキナーゼ阻害薬に対する対策とは異なり、 HFSに対しては尿素配合クリームの有効性が乏しいとされ⁴⁾、 使用は推奨されない。 紅斑や疼痛を認めた場合には、 症状の重症度に応じて very strong~strongest クラスのステロイド外用薬を用いる。 外用療法によるコントロールが困難な場合には、 休薬または減量を検討する。
近年では、 1%ジクロフェナクナトリウムゲルを1日2回塗布することにより、 プラセボ群と比較してHFSの発現率が有意に低下したとの報告があり⁵⁾、 支持療法の選択肢として考慮される。
日本では、 テモゾロミドは神経内分泌腫瘍に対して承認されておらず、 アルキル化薬として使用可能な薬剤はストレプトゾシンのみである。
ストレプトゾシン単剤療法と5-FU併用療法については、 前述の無作為化比較試験において併用療法が良好な傾向を示したが、 日本の多施設研究では奏効割合がそれぞれ21.1%、 25.0%と報告されており⁶⁾、 併用療法を積極的に選択すべき十分なエビデンスは得られていない。 また、 dailyレジメンとweeklyレジメンの奏効割合はそれぞれ22.0%、 21.6%とほぼ同等であり、 実臨床では患者の病状等に応じた使い分けが行われていると考えられる。
本稿では、 神経内分泌腫瘍に対する殺細胞性抗癌薬の有効性と安全性に関するエビデンスを概説した。 次回は、 ペプチド受容体放射線療法 (PRRT) について取り上げる予定である。
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編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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