亀田総合病院
4ヶ月前
呼吸器感染症領域で注目度の高い論文を毎月3つ紹介するシリーズです。 2024年12月に注目度が高かった呼吸器感染症関連の論文を3つご紹介します。
Clin Infect Dis. 2024; 79:S149-S159.
免疫不全状態の患者は、 新型コロナウイルス感染症 (COVID-19) 関連の入院と死亡のリスクが増加します。 無作為化比較試験では、 RNAポリメラーゼ阻害薬レムデシビルで治療を受けたこのような患者のアウトカムを判断するための登録数が限られています。 そこで今回、 リアルワールドにおける免疫不全患者に対するレムデシビルの効果が評価されました。
米国のPINC AIヘルスケアデータベースを用いて、 2021年12月~24年2月にCOVID-19で入院した免疫不全成人患者を特定しました。
主要アウトカムは、 傾向スコアでマッチングしたレムデシビル群と非レムデシビル群の全原因院内死亡率としました。 癌患者、 血液悪性腫瘍患者、 固形臓器/造血幹細胞移植レシピエントのサブグループ解析も実施しました。
研究に含まれた2万8,966例の患者のうち、 1万6,730例 (58%) が入院後2日以内にレムデシビルが投与されました。 傾向スコアマッチング後、 レムデシビル群8,822例と非レムデシビル群8,822例が解析されました。
レムデシビルは、 酸素投与不要患者 (14日 : 調整HR 0.73、 95%CI 0.62-0.86 ; 28日 : 同0.79、 同0.68-0.91) および酸素投与患者 (14日 : 同0.75、 同0.67-0.85 ; 28日 : 同0.78、 同0.70-0.86) の両群で有意な死亡率低下と関連していました。
また、 癌患者、 血液悪性腫瘍 (白血病、 リンパ腫、 多発性骨髄腫を含む) 患者、 および固形臓器/造血幹細胞移植患者のサブグループでも死亡率低下と関連していました。
癌患者や移植患者などの免疫不全サブグループでも同様の効果を確認
米国の大規模データベースを用いた解析により、 オミクロン株優勢となった時期においても、 免疫不全患者のCOVID-19入院例においてレムデシビルの投与が死亡率を有意に低下させることが示されました。 癌患者や移植患者などの免疫不全サブグループでも同様の効果が確認され、 貴重なエビデンスと考えられます。
Lancet Infect Dis. 2024: S1473-3099.
抗真菌薬による治療にも関わらず、 慢性肺アスペルギルス症 (CPA) は実質的な罹患率と死亡率に関連しています。 今回、 CPAにおける死亡率とその予測因子を評価するために系統的レビューとメタ解析が実施されました。
MEDLINE、 Scopus、 Embase、 Web of Scienceを用いて、 データベース開始から2023年8月15日までの期間で、 CPAにおける死亡率を報告している英語の文献を系統的に検索しました。 臨床研究、 観察研究、 対照試験、 抄録を含め、 症例報告、 動物実験、 レター、 ニュース、 文献レビューは除外しました。
2016年以降に発表された研究の著者に匿名化された個別患者データ (IPD) の提供を依頼し、 それ以外の研究については要約推定値を抽出しました。
全体のプール解析に79研究8,778例、 IPDメタ解析に15研究1,859例が含まれました。
プール死亡率 (70研究より) は全体で27% (95%CI 22-32%、 I²=95.4%)、 1年で15% (同11-19%、 I²=91.6%)、 5年で32% (同25-39%、 I²=94.3%) と推定されました。
肺結核を主な基礎疾患とするCPA患者の全体死亡率は25% (同16-35%、 I²=87.5%、 20研究)、 COPDでは35% (同22-49%、 I²=89.7%、 14研究) でした。 外科的切除を受けた患者群の死亡率は3% (同2-4%) と低値でした。
多変量解析では、 基礎となる呼吸器疾患のうち、 肺結核の既往が最も低い死亡ハザード (ベースラインでの疾患がない場合と比較) を示し、 基礎疾患に悪性腫瘍がある場合は予後不良でした。 また、 単純性アスペルギローマと比較して、 亜急性侵襲性肺アスペルギルス症と慢性空洞性肺アスペルギルス症のCPAサブタイプは、 多変量解析において有意に死亡率の上昇と関連していました。
死亡ハザードは10歳年齢が上がるごとに25%増加しました (同1.25、 同1.14-1.36、 p<0.0001)。
年齢、 CPAのサブタイプ、 基礎疾患が重要な予後因子に
抗真菌薬による治療にも関わらず、 慢性肺アスペルギルス症 (CPA) は依然として高い死亡率を示すことが報告されました。 本研究では、 約8,800例の患者データを用いた大規模なメタ解析により、 全体の死亡率が27%、 5年死亡率が32%と高値であることが明らかになりました。 また、 年齢、 CPAのサブタイプ、 基礎疾患が重要な予後因子であることが示されており、 私も実臨床で同様の傾向を経験しています。 今後は、 リスク群に応じた適切な治療戦略の確立が望まれます。
Thorax. 2024: thorax-2024-221976
より価数が多い肺炎球菌ワクチンが開発中であり、 成人の新しい予防接種戦略が議論されているものとして上葉が挙げられます。 本研究では、 10年間にわたり、 市中肺炎で入院した成人における肺炎球菌性肺炎の疫学的傾向を評価し、 血清型3に関連するリスク因子と重症度が検討されました。
2013年9月~23年5月に市中肺炎で入院した成人を対象とした前向きコホート研究を実施しました。 肺炎球菌血清型は24価血清型特異的尿中抗原検査を用いて同定しました。 市中肺炎における肺炎球菌の割合と原因血清型の傾向をパンデミック前後で比較し、 血清型3肺炎のリスク因子と重症度を他の血清型と比較してロジスティック回帰分析を行いました。
市中肺炎患者5,186例のうち、 2,193例 (42.2%) が肺炎球菌性肺炎でした。 市中肺炎に占める肺炎球菌の割合は2013年から2023年にかけて全年齢層で増加しました (36.4%から66.9%、 p<0.001)。
血清型3の割合は2013年の13.4%から2023年の48.8%へと有意に増加しました。 成人における血清型3肺炎は、 高齢 (p<0.001)、 男性 (調整オッズ比 2.22、 95%信頼区間 1.64-3.01)、 慢性腎疾患 (調整オッズ比 1.81、 95%信頼区間 1.09-3.02) と関連していました。
血清型3肺炎は重症度、 集中治療の必要性、 死亡率、 再入院との関連は認められませんでした。 成人の肺炎球菌性市中肺炎において血清型3が優勢であり、 乳児の肺炎球菌ワクチンプログラムが成熟しているにも関わらず増加傾向にあることが示され、 この血清型に対する集団免疫効果が限定的であることが示唆されました。
血清型3に有効なワクチンの開発が重要
肺炎球菌の血清型は100種類以上あり、 より価数の多い肺炎球菌ワクチンが開発されています。 しかし、 これまでの研究で、 ワクチンでカバーされているのにも関わらず、 血清型3については直接的、 間接的な予防効果が低いことが報告されています。 本研究から血清型3が増加していることが示され、 この血清型に有効なワクチンの開発が重要であることが示唆されました。
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呼吸器内科の基本をしっかり学びたい方は 「レジデントのための呼吸器診療最適解」 (医学書院) でぜひ勉強されて下さい!
一言 : 当科では教育および人材交流のために、 日本全国から後期研修医・スタッフ (呼吸器専門医取得後の医師) を募集しています。 ぜひ一度見学に来て下さい。
連絡先 : 主任部長 中島啓
メール : kei.7.nakashima@gmail.com
中島啓 X/Twitter : https://twitter.com/keinakashima1
亀田総合病院呼吸器内科 Instagram : https://www.instagram.com/kameda.pulmonary.m/
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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