HOKUTO編集部
3ヶ月前
吉村祐輔先生 (虎の門病院 腎センター内科・リウマチ膠原病科) らのグループは、 慢性腎臓病 (CKD) を合併した関節リウマチ (RA) に対するJAK阻害薬の有効性および安全性について世界初の網羅的検討を行った。 その結果、 腎機能に応じた薬剤別の減量 ・ 禁忌基準が遵守された被験者集団において、 JAK阻害薬の24ヵ月継続率は腎機能低下群でも概ね保たれた。 本研究の成果はRheumatology誌に掲載された。
筆頭著者の吉村先生に解説いただきました
関節リウマチ診療ガイドラインにおける薬物治療アルゴリズムの概略を示す。
RA治療のアンカードラッグであるメトトレキサート (MTX) は、 eGFR<60mL/min/1.73 m²で慎重投与、 <30で禁忌となるため、 CKD合併RAではフェーズⅠの治療が大幅に制限される。 そのため、 フェーズII ・ III、 すなわち生物学的製剤やJAK阻害薬の役割が相対的に重要となる。 しかし、 RAに対する生物学的製剤 ・ JAK阻害薬の臨床試験では腎障害合併例 ・ 透析例が除外されているため、 CKD合併RA患者における有効性 ・ 安全性の知見が確立されていなかった。
我々は、 2024年にCKD合併RA患者における生物学的製剤の有効性・安全性に関する世界初の網羅的検討を行い、 透析患者を含むCKD合併RA患者において生物学的製剤が有効かつ安全に使用可能であることを報告した²⁾。 今回報告したのは、 そのJAK阻害薬版である。
虎の門病院でJAK阻害薬が最初に投与 (1次治療) されたRA患者216例を対象に、 薬剤継続率を検討した。 主要評価項目は、 1次治療におけるJAK阻害薬の薬剤継続率とした。 RA治療薬の研究において、 薬剤継続率は有効性・安全性の総合的指標とされる。 また、 JAK阻害薬導入後の疾患活動性 (DAS28-CRP) とプレドニゾロン (PSL) 併用量の推移、 および薬剤中止理由も解析した。
JAK阻害薬のうち腎排泄のトファシチニブ、 バリシチニブ、 フィルゴチニブについては腎機能に応じた減量 ・ 禁忌基準が定められている。 本研究では、 すべての被験者に対する処方がこの減量 ・ 禁忌基準を遵守していることを確認した。
JAK阻害薬の24ヵ月継続率において、 CKD合併群は腎機能正常群と比較して有意差がないことが示された。 また、 一般にCKDは感染症のリスクとなるが、 eGFR<30でも感染によるJAK阻害薬中止のリスクは上昇しないことが示された。
JAK阻害薬導入後には製剤 ・ 腎機能によらずRAの疾患活動性が抑制され、 かつプレドニゾロン併用量を減らせる傾向があることも示された。
さらに、 eGFR<30においても、 無効または感染によるJAK阻害薬の中止リスクが上昇しないことが確認された。 これらの結果から、 CKD合併RA患者においてJAK阻害薬は有効かつ安全に使用できると考えられる。
一般に、 JAK阻害薬の使用に伴う有害事象として、 帯状疱疹 ・ 深部静脈血栓症 ・ 心血管疾患のリスクが上昇する可能性が指摘されている。 本研究では、 これらの疾患の発症率が腎機能低下群で上昇するかについても検討した。
帯状疱疹の発症率はeGFR<60, 30-60, <30の各群でそれぞれ8.25%、 8.00%、 15.8%、 深部静脈血栓症の発症率は4.12%、 4.00%、 10.5%であり、 有意差はなかったがeGFR<30群でやや高い結果となった。 心血管疾患の発症率も検討したが、 被験者全体で1例しか発症者がおらず腎機能による比較はできなかった。
今回の研究では、 JAK阻害薬の腎機能別の減量 ・ 禁忌基準を遵守した被験者集団において、 JAK阻害薬がCKD合併患者にも有効かつ安全に使用可能であることが示された。 感染等のリスクに留意しつつJAK阻害薬を適切に取り入れることが、 CKD合併RAの良好な管理につながると考えられる。 帯状疱疹 ・ 深部静脈血栓症 ・ 心血管疾患などJAK阻害薬に関連した有害事象の頻度については、 今後さらに大規模かつ長期的な検討が必要だろう。
【著者解説 : Ann Rheum Dis】CKD合併RA治療、 生物学的製剤が治療の切り札に
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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