HOKUTO編集部
1ヶ月前
プロトンポンプ阻害薬 (PPI) は、 胃食道逆流症 (GERD) や消化性潰瘍の治療をはじめ、 日常診療で非常に多く処方される薬剤です。 2025年3月21日には、 ラベプラゾールが国内初のスイッチOTC (医療用から市販用へ切り替え) として承認され、 今後は処方薬に加えて市販薬としても幅広く使用されることが予想されます。 しかしその一方で、 PPIの長期使用に伴う有害事象や過剰使用の問題もかねてより指摘されてきました。 本記事では、 PPIの適正使用と脱処方の考え方、 そしてOTC化時代に臨床医が知っておくべきポイントを整理します。
PPIは世界的に広く使用されており、 北米・欧州・オセアニアを中心にOTC化も進んでいる。 米国の大規模調査では、 逆流性食道炎 (GERD) に対するPPI使用者の約32%がOTC製品を購入していることが示されている¹⁾。
一方、 日本においてPPIのスイッチOTC化が難航してきた背景には、 以下のような懸念があった。
今回、 ラベプラゾールがOTC化されたことは、 世界的な流れに沿うものであり、 胃酸関連疾患におけるセルフメディケーション推進の観点からも 「ついに解禁」 といえる。
PPIの使用では、 明確な適応、 使用期間の設定、 定期的な再評価が重要である。
国際的なプライマリ・ケア医および消化器専門医からなるグループによって執筆された2024年のコンセンサスガイド²⁾では、 以下のような適応が示されている。
これらに該当しない漫然使用は、 少なくとも年1回の再評価を行う。 再評価の際は、 服薬目的・継続理由・リスク因子の有無を確認し、 脱処方 (漸減・オンデマンド) を検討すべきと言われている。
なお、 リバウンド胃酸分泌の存在が脱処方の障壁となることもあり、 アルギン酸製剤の併用や段階的減量が有効とされる。
PPIは比較的安全性が高いとされる一方で、 長期使用に伴う以下の有害事象が報告されている²⁾。
このほかにも、 骨折リスク、 認知症・うつ症状などのリスクが高まるとする報告もある。
特に慢性下痢症例では、 実はPPIが原因だったという臨床シナリオはしばしば経験される。 患者がOTCでラベプラゾールを自己購入し、 症状との関連が見逃されるリスクには注意したい。
ラベプラゾールのOTC化を受け、 臨床現場で想定される注意点は以下のとおり。
お薬手帳で薬歴が確認できず、 患者が 「処方されていない」 と言っても、 OTC購入による自己服用の可能性がある。
特に慢性下痢や栄養障害、 貧血を呈する例では、 OTC PPI使用の有無を必ず確認したい。
OTC PPIで症状が一時的に軽快し、 胃癌やIBDなどの診断が遅れるリスクがある。 体重減少・睡眠を妨げるような腹痛・胸やけ・再発性貧血を伴う場合は、 早期に内視鏡などを検討する。
抗血栓薬、 抗てんかん薬、 抗がん薬などとの間で、 PPIには潜在的な薬物相互作用のリスクがある。
例えば、 クロピドグレルとの併用による抗血小板作用の減弱、 メトトレキサート (高用量) での排泄遅延、 チロシンキナーゼ阻害薬における吸収不良、 免疫チェックポイント阻害薬との併用による腎障害 (irAE) のリスク増加などが報告されている。
これらの相互作用は処方薬に限らずOTC使用時にも生じ得るため、 PPIの使用歴に加え、 併用薬の確認と総合的な評価が重要である。
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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