HOKUTO編集部
2ヶ月前
下部消化管領域における実臨床の課題を専門医の視点から解説する新シリーズです。ぜひご活用ください。
GERCOR試験は少し古い試験になりますが、 1次治療でFOLFOX (ロイコボリン、 フルオロウラシル、 オキサリプラチン) を開始して2次治療でFOLFIRI (ロイコボリン、 フルオロウラシル、 イリノテカン) を行った症例と、 FOLFIRIから開始してFOLFOXを行った症例を比較した第Ⅲ相試験になります¹⁾。
結果は以下の通り、 無増悪生存期間 (PFS)、 全生存期間 (OS)、 奏効割合のいずれにおいても変わらない結果となりました。 このことからオキサリプラチンとイリノテカンのいずれをベースとした治療から1次治療を開始しても有効性には差はありません。
1次治療においてDoublet (2剤併用) やTriplet (3剤併用) といった併用治療を選択する上で、 オキサリプラチンとイリノテカンベースの治療をどのように選択するかは、 有害事象をメインに考えます。
オキサリプラチンの代表的な有害事象としては末梢神経障害が挙げられます。
手足がしびれて文字が書きにくい、 ボタンがかけにくい、 飲み込みにくい、 歩きにくい等の感覚性の機能障害が、 累積投与量850mg/m²で10%、 1,020mg/m²で20%に認められるとされています²⁾。
また、 オキサリプラチンでは、 肝機能障害も臨床で非常に悩まされることが多い有害事象です。 類洞症候群といわれる肝臓のうっ血による肝機能障害は、 脾腫や血小板減少を引き起こします。
イリノテカンの代表的な有害事象としては消化器毒性 (下痢、 悪心、 嘔吐) が挙げられます。
特に下痢症状の出現には注意が必要です。 重篤な下痢を引き起こす可能性があり、 初回投与時にあらかじめロペラミドの頓用処方などを検討し、 症状出現時の対応に関して指導を行う必要があります³⁾。
また、 イリノテカンの代謝酵素であるUGT1A1の遺伝子多型検査を行い、 UGT1A1*6やUGT1A1*28のホモ接合体や複合ヘテロ接合体がないかも確認しましょう。 これらの遺伝子多型ではUGT1A1酵素の活性が低下し、 代謝が遅延するため骨髄抑制とともに下痢の有害事象が重篤となる可能性があるために初回から減量を行う必要があります。
イリノテカンは肝臓で代謝された後に胆汁から消化管に排泄されます。 大量の腹水貯留や消化管狭窄がある場合には排泄遅延による有害事象の増強が起こる可能性があり、 こうした症例では禁忌となります。 また、 オキサリプラチンと比較してイリノテカンでは中等度の脱毛が起こります。
大腸癌の1次治療では有害事象の観点からどちらをベースにした治療にするかを検討します。
一つは患者さんの状態の面から選択を検討します。 例えば、 腹水貯留や消化管狭窄のリスクがある場合にはオキサリプラチンをベースした治療が良い適応となります。
もう一つは患者さんの希望からの選択となります。 例えば脱毛が嫌な方にはオキサリプラチンベースの治療が、 手先のしびれを気にする方にはイリノテカンベースの治療が良い適応となります。 患者さんの状態や希望を考慮して有害事象を念頭おいてレジメンの選択をしましょう。
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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