亀田総合病院
21日前
亀田総合病院リウマチ・膠原病・アレルギー科の専門医が担当する新連載をお届けします。 リウマチ・膠原病診療に関わるさまざまな疑問とそのTipsについて、 分かりやすく解説します (第8回解説医師 : 葉末亮先生) 。
第5回は痛風について取り上げました。 今回は結晶性関節炎第2弾として、 「偽痛風」 で知られるピロリン酸カルシウム結晶沈着症 (Calcium pyrophosphate deposition Disease ; CPPD) について取り上げたいと思います。
CPPDの一病型である偽痛風では、 ピロリン酸カルシウム結晶 (CPP) が沈着し、 炎症を誘発します。 そのためかピロリン酸 (PPi) そのものが悪者と考えられがちです。 しかし、 ピロリン酸には生理学的に重要な役割があり、 これを把握しておくことでCPPDの病態生理・リスク因子などの理解がしやすくなります。
ピロリン酸はリン酸が2つ結合したものであり、 「二リン酸」 とも呼ばれています。 軟骨細胞からANKHという蛋白質を介して細胞外に放出されます。 また、 ENPP1 (ecto-nucleotide pyrophosphatase/phosphodiesterase 1) という酵素により、【ATP→AMP+ピロリン酸】という反応を介して、 細胞外でも生成されます*。
ハイドロキシアパタイト (リン酸カルシウム) は、 骨を形成する主成分です。 ただし制御する因子がないと異所性の石灰化が起こってしまいます。 そこで登場するのがピロリン酸であり、 ハイドロキシアパタイトの過剰な沈着を抑制しています。
一方、 組織非特異的アルカリホスファターゼの一種である骨型ALPはピロリン酸をリン酸に分解し、 ハイドロキシアパタイトの沈着を促します。
以上のことから、 【ピロリン酸→ (過剰な) 骨形成の抑制/骨型ALP→骨形成の促進】というバランスを取っていることがわかります。
上述のように、 ピロリン酸は本来、 異所性石灰化を防ぐ役割を担っていますが、 軟骨内のピロリン酸濃度が高くなると 「ピロリン酸カルシウム」 として結晶が沈着してしまいます¹⁾²⁾。
軟骨内でのピロリン酸濃度の上昇に関連する要因はさまざまありますが、 共通の要因になるものが 「加齢」 です。 詳細は成書にゆずりますが、 加齢による以下のような変化が機序として考えられています。
・TGFβ上昇→ANKH・ENPP1の発現上昇
・ALP活性の低下
これらはいずれもピロリン酸濃度が上昇する要因です。
低マグネシウム (Mg) 血症もリスク因子として有名ですが、 MgはALPの補因子 (co-factor) として機能することから、 低ホスファターゼ症と同様のメカニズムであると理解できます。
またヘモクロマトーシスがCPPDのリスクになる明確な機序は不明ですが、 ENPP1活性の上昇・ALP活性の低下、 低Mg血症の合併、 鉄沈着による関節障害、 などが考えられています。
CPPDの主なリスク因子として知られているものは以下のとおりです³⁾。
CPPDは60歳未満で発症することはまれとされており、 若年発症や濃厚な家族歴などがある場合は遺伝子異常の可能性を考慮します。 現時点で、 原因遺伝子とされているものとしてANKHやオステオプロテゲリンが特定されていますが、 日常臨床で疑うことはまれです。
今回はCPPDの病態について中心に解説しました。 次回は、 CPPDの診断・治療について取り扱おう予定です。
¹⁾ N Engl J Med 2016;374:2575-84
²⁾ Firestein & Kelley's Textbook of Rheumatol.
³⁾ Lancet Rheumatol 2024; 6: e791–804
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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