栄養療法マニュアル
10ヶ月前
本コンテンツは造血幹細胞移植時の栄養療法について、 専門医の視点からわかりやすい解説を行う企画です。 是非とも臨床の参考としていただければ幸いです。
ナトリウムの投与量は大量エンドキサン投与時以外は低ナトリウム血症にならない限り制限した方が良い場合がほとんどである¹⁾。
特に肝中心静脈閉塞症/類洞閉塞症候群 (VOD/SOS) など、 体液過剰の状況においては一般的にナトリウム制限によって対応されていることが多い¹⁾²⁾。
どの程度までナトリウムの制限を行うかについて定まったものはないが、 英国NICEのガイダンスにおいては1mmol/kg/day程度という厳格な記載がある。
ここまでの制限は現実的には困難であるが、 ナトリウムはメイン以外の輸液・輸血からの投与量も計算して過剰投与とならないように調整することが重要である³⁾。
ナトリウム制限を厳格にする必要がある場合には、 メインの輸液をナトリウムフリーのブドウ糖液ベースに変更したり、 抗生剤の溶解に5%ブドウ糖液を使ったりすることもある。
ハイカリックRF輸液にもナトリウムは含まれているため、 そのナトリウムも減らしたい場合には50%ブドウ糖液などを使う。 一般的な輸液の組成からナトリウム制限を行うことはクロールの制限にもつながるので、 その点もメリットといえるかもしれない。
ただし、 抗生剤などの溶解にブドウ糖を用いると血糖コントロールが不安定となることもあるため、 メリット・デメリットを考慮しなければいけない。
クロールに関しても、 同種移植領域ではデータはないが過剰に投与しない方が良いことを示唆するデータが数多く報告されている⁴⁾⁻¹⁰⁾。
特に腎機能障害や代謝性アシドーシスへの影響に注意が必要とされており、 Loboらの報告で特によくまとめられている¹¹⁾。
Yunosらは、 クロールを多く含む輸液 (生理食塩水や4%アルブミンなど) を減らし、 細胞外液補充液 (ラクテック®) や20%アルブミンなどを使うことで腎障害が減ったと報告している⁸⁾。
一般的にも生理食塩水でなければならない場面以外では、 クロールが少な目な細胞外液補充液 (ラクテック®、 ソルアセトFなど) を選択することが多くなってきていると考えられ、 surviving sepsis campaign guidelines (SSCG) においても、 生理食塩水ではなくbalanced crystalloidを使用することが推奨されている¹²⁾。
腎機能に問題のない健常人においても生理食塩水を大量投与することで腎血流の低下が起こることが指摘されている¹³⁾。 補正用の塩化ナトリウムや塩化カリウムなども量が多い場合には注意が必要である。
血液検査でクロールが上昇している場合にはクロールの投与量を減らし、 アシドーシスの有無をチェックするために静脈血で血液ガスを確認すべきである。
カリウムに関しては同種移植後に不安定となりやすい。 タクロリムス (プログラフ®) など、 カルシニューリン阻害薬の影響で上昇するケース、 インスリンや利尿薬の投与に伴い低下するケースがある。
一般的には<3.5mEq/dLを低カリウム血症、 >5.5 mEq/dLを高カリウム血症とする。 したがって3.5~5.5mEq/dLが目標範囲内となる。
心不全例では高目の4.0~5.5mEq/dLが目標とされるが、 同種移植後はカリウムが高くなりすぎるリスクも勘案して調整が必要である¹⁴⁾。
低カリウム血症は軽度の場合 (3.0~3.5mEq/L) には通常無症状であるが、 不整脈リスクも考えるとこの程度でも補正をすべきである¹⁵⁾。 高度の低カリウム血症では倦怠感や筋力低下を認め、 重症例では四肢麻痺や低換気など様々な症状が生じる。
移植後早期には中心静脈カテーテルも留置されていることが多く、 点滴で補正する方が調整しやすい。
▼投与量の調整
一般論として10mEq/hを超えるスピードでの補正は中心静脈カテーテルを用いることが勧められている¹⁶⁾。
10~20mEq/hまでの補正は可能であるとされているが、 一般病棟ではここまで急激に補正するのはリスクが高いので、 軽度の低カリウム血症の時点から一日毎に投与量を増減して補正を行い、 高度の低カリウム血症にしないのが理想的である。
その中でも高度の低カリウム血症となってしまった場合には、 1日に2回測定するなどして調整し、 可能な範囲で早期に正常化することが望ましい。
▼総投与量の考え方
移植後には利尿薬の使用など様々な原因でカリウムの投与量を大幅に調整しなければカリウム濃度を正常範囲に保てない場合もある。
古くには100mEq/日以上のカリウムの経静脈投与を避けるようにと記載しているものもあるが、 上記の通りより多い投与量での補正が勧められているぐらいであり、 連日測定してフォローして調整していれば総投与量自体は大きな問題ではない。
▼血液検査値
総投与量よりも血液検査値を正常範囲内に保つことの方が大事である。 このカリウムの補充の制限に関する古典的な問題は本邦ではいまだに続いており、 その問題点を指摘した論文が報告されている¹⁷⁾。
抗真菌薬のアムホテリシンB (アムビゾーム®) の副作用として低カリウム血症があるが¹⁶⁾¹⁸⁾、 上記の通り早期に低カリウム血症に対応すれば経験的には大きな問題とならない。
低カリウム血症が腎障害を増悪させる可能性もあるので細かくカリウムの投与量を調整し対応した方が良いと考えられる。 特に高用量投与中には補正用のカリウムが高用量で必要なことも多く、 注意が必要である。
マグネシウムはタクロリムスなどのカルシニューリン阻害薬の影響で低下する¹⁾。 既製の輸液製剤では点滴へのマグネシウム製剤の添加が必要な場合の方が多い。
カルシウム、 リンについて問題となる例は同種移植時には少ないが、 高カロリー輸液時、 透析時、 ホスカルネットナトリウム (ホスカビル®) 使用時などに時折異常値を示すので定期的にモニタリングは行う方が良い¹⁾¹⁹⁾。 異常が確認された際は、 適宜輸液の調整にて対応する²⁰⁾⁻²²⁾。
ホスカルネットナトリウム投与時には電解質の変動が大きく、 検査でのフォローおよび輸液での調整を厳重に行う必要がある。
ホスカルネットナトリウム投与時には、 低マグネシウム、 低カリウム、 低カルシウム、 低リンなどが起こる²³⁾。 リンに関しては上昇することもあるようであるが、 一般的には低リン血症となる。
ホスカルネットナトリウム投与時には、 ほとんどの例でこれらの異常が認められる為、 これらの項目の検査項目を密にフォローする必要がある。
電解質からは少し外れるが、 腸管の移植片対宿主病 (GVHD) などで下痢が重篤な場合には代謝性アシドーシスが進行している場合がある。
その為、 静脈血でも良いので血液ガス分析を行い、 時折フォローすることが勧められる。 代謝性アシドーシスが認められる場合にはビカネイト®のようなHCO₃を含む輸液を多く使って対応する。
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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