HOKUTO編集部
10ヶ月前
本稿では仮想の症例における 「経過」と「判断のポイント」を提示しながら、 irAEによる副腎不全の特徴や対応法について概説する (解説医師 : 国立がん研究センター中央病院 小倉望先生)。
💡 ECOG PS 0
💡 特記すべき既往歴、 生活歴なし
食道がん (cStage ⅣB) の1次治療として、 ①ニボルマブ (360mg/body 3週毎) +イピリムマブ (1mg/kg 6週毎) を開始した。 2コースの投与終了後 (②治療開始後10週目) より③全身倦怠感、 疲労感、 食欲低下が出現した。 ④定期外来の血液検査にてコルチゾールの低下 (2μg/dL) を認め、 精査加療目的に緊急入院した。
➀免疫チェックポイント阻害薬(ICI)による副腎不全の頻度
ICIによる副腎不全は、 下垂体機能低下による続発性副腎不全と原発性副腎不全の2つの病態が存在する。
ICIによる下垂体機能低下は抗PD-1/PD-L1抗体と比較し、 抗CTLA-4抗体でやや頻度が高く、 全Gradeで抗CTLA-4抗体では1.8~5.6%、 抗PD-1抗体では0.5~1.1%、 併用療法では8.8~10.5%と報告されている¹⁾。
一方、 ICIによる原発性副腎不全の頻度は低く、 システマティックレビューでは0.7%と報告されているが²⁾、 がん治療によるステロイド使用や下垂体機能低下の合併により過小評価されている可能性がある。
②ICIによる副腎不全の発現時期
WHOデータベースの解析では、 ICI投与開始から下垂体機能低下発現までの期間は、 ニボルマブで中央値17週 (n=166)、 イピリムマブで中央値10週 (n=151)、 抗PD-1/抗PD-L1抗体と抗CTLA-4抗体の併用療法で中央値13週 (n=103) と報告されている³⁾。
同様に原発性副腎不全では、 ニボルマブで中央値17週 (n=166)、 イピリムマブで10週 (n=41)、 併用療法で13週 (n=37) と報告されている³⁾。
ICI投与終了後に発現する症例も存在するため、 ICI開始後2~4ヵ月に加え、 ICI投与終了後も注意が必要である。
③ICIによる副腎不全の症状
全身倦怠感、 疲労、 体重減少、 食思不振、 嘔気・嘔吐などの消化器症状などが代表的である。 下垂体機能低下において下垂体腫大を伴う場合には頭痛や視野障害が生じ得る。 もし、 副腎クリーゼを合併するとショックや意識障害を来し得る。
また、 化学療法時のステロイド使用により副腎不全の症状がマスクされる可能性に注意する。 ICIによる副腎不全時の症状に関しての報告は以下の通りである⁴⁾。
④ICI開始前・投与中・投与後の確認項目
ICI開始前にベースラインとしてコルチゾール、 副腎皮質刺激ホルモン (ACTH) を測定する。 治療開始時には副腎不全のリスクを説明し、 副腎不全を疑う症状を認めた場合はただちに受診または担当医に相談するよう指導を行う。
なお、 ICI投与中は診察毎に全身倦怠感などの症状の有無を確認し、 コルチゾール、 ACTHを定期的に測定する。 さらにICI投与終了後の副腎不全の発症も報告されており、 別の治療に移った場合や経過観察時でもICI治療歴がある場合には適宜コルチゾールやACTHをチェックする必要がある。
⑤バイタルサイン、 電解質、 血糖値、 ACTH、 甲状腺刺激ホルモン (TSH)、 遊離サイロキシン (FT4) の測定を行い、 ⑥内分泌謝専門医へコンサルトを行った。 上記の検査から、 ICIによる下垂体機能低下とそれに伴う続発性副腎不全と診断した。 ⑦ヒドロコルチゾン20mgの経口投与と輸液による脱水の補正、 電解質の補正を開始した。
⑤ICIによる副腎不全の検査所見
下垂体機能低下では早朝コルチゾール<3μg/dL、 ACTH<5pg/mLといずれも低値を示す⁵⁾。
副腎不全では低Na血症や高K血症、 低血糖、 好酸球増多を認める場合があるが、 診断時に低Na血症を認めるのは多くても56%との報告があり⁶⁾、 異常がなくても否定はできない。 また、 下垂体機能低下の18%の症例で甲状腺機能低下を認めたと報告されていることから⁷⁾、 TSHやFT4の測定も行う。
下垂体機能低下では下垂体腫大や造影効果の増強などを認める場合があり、 頭部MRIも検討される。
⑥内分泌代謝専門医へのコンサルト
副腎不全の所見を認めた場合、 速やかに内分泌代謝専門医へコンサルトを行い、 必要な検査や入院後の治療法などについて相談する。
⑦治療ストラテジー
ヒドロコルチゾン15~30mg/日を2~3回に分割して投与を行う⁸⁾。 甲状腺機能も同時に障害されている場合は必ずヒドロコルチゾンの補充を優先する。
血圧低下などを認め副腎クリーゼが疑われた場合は入院の上で全身管理、 敗血症の除外を行いながら、 コルチゾールやACTHの検査結果を待たずにヒドロコルチゾン100mgの静脈内投与と輸液を開始する⁹⁾。
副腎クリーゼや他の免疫関連有害事象合併などの場合を除き、 高用量ステロイドの投与は予後改善のエビデンスがないため推奨されない。 また、 電解質や血糖などの異常があれば適宜補正を行う。
ヒドロコルチゾンの補充、 輸液を行い、 症状、 脱水、 電解質の改善を認めた。 ➇ヒドロコルチゾンの内服を継続し退院となった。 退院後も上記治療を継続し、 入院前に施行していたニボルマブとイピリムマブによる⑨化学療法を再開する方針となった。
➇ホルモン補充療法後の治療
下垂体機能低下によるACTH分泌障害はほぼ不可逆的であり、 ホルモン補充療法は終生にわたり必要となる。 また、 相対的副腎不全、 副腎クリーゼの予防のために、 発熱時などではステロイドを増量する必要性についても患者に説明する。
⑨ICIの再投与
症状が安定するまではICIは休薬するが、 ホルモン補充療法により病状が安定すればICIの再開は可能となり得る。
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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