HOKUTO編集部
30日前
福井大学の今村善宣先生による連載「がん関連静脈血栓塞栓症 (CA-VTE)」、第2回はDOACのエビデンスについて解説します!
VTEはがん患者の直接的死因となるだけでなく、 計画された治療の実施を妨げたり、 臓器障害などの合併症を引き起こすことがある。 そのため、 VTEを発症したがん患者は、発症しなかった患者と比較し予後不良であることが知られている。
このような背景から、 VTEと診断されたがん患者は症候性・無症候性を問わず、 抗凝固療法が検討される。
また、 2023年3月発刊の「Onco-cardiologyガイドライン」¹⁾ では、 がん薬物療法中に発症した肺血栓症および中枢型深部静脈血栓症に対し、 抗凝固療法が弱く推奨されている。
なお、 肺塞栓症の予防のためIVCフィルター留置は、 血栓閉塞や穿通の合併症の懸念より、 抗凝固療法が実施困難な場合など、 使用の機会は今日では非常に限定的となっている。
がん関連VTEの治療薬として、 長らくビタミンK拮抗薬であるワルファリンが用いられてきた。 しかし、 低分子ヘパリンがワルファリンと比較して出血リスクを増加させることなくVTEの再発リスクを低減できることが、 複数の第III相無作為化比較試験で確認された。
そのため、 低分子ヘパリンは国際的な標準治療薬として位置付けられている²⁾³⁾。 ただし、 本邦では低分子ヘパリンがVTE治療薬として保険承認されていない。
このような中、 2014年9月に直接経口抗凝固薬 (DOAC) のエドキサバンがVTEの治療薬として初めて保険収載された。 2015年9月にはリバーロキサバンが、 同年12月にはアピキサバンがそれぞれVTEに対して保険収載された。
DOACはワルファリンと比べて数々の利点を有しており、 保険収載後にDOACは急速に普及した。 DOACの特徴として上記の通り、 広い治療域や経口投与かつシンプルな投与量などが挙げられる。
DOACが承認された当初、「CA-VTEに対してDOACの有効性がワルファリンを上回る」というエビデンスは、 主に非がん患者を中心としたVTE患者全体を対象とした第III相比較試験のサブグループ解析の結果に限られていた⁴⁾。
そのため国際的には、 DOACはCA-VTEの標準治療薬としてはまだ認められていなかった。
CA-VTE患者に関する抗凝固療法のネットワークメタ解析の結果⁵⁾を以下に示す。 低分子ヘパリンが、 ワルファリンと同等の安全性を示しつつも有効性で勝る結果を示している。 DOACも概ね同様の傾向を示した。 低分子ヘパリンとの間接比較でも、 概ね同等の有効性と安全性を示した。
こうした背景から、 CA-VTEに対象を絞った、 低分子ヘパリンとDOACの有効性と安全性を直接比較する大規模臨床試験が複数計画され、 近年相次いでその結果が公開された。
VTE再発はエドキサバンの方が少なかったが、 大出血はエドキサバンの方が多かったという結果であった。
主要評価項目である両者を合計したcomposite endpointとしては非劣性 (同程度) であることを示したpositive試験ではあるが、 若干すっきりしない印象は否めない。
本試験も、 VTE再発はリバーロキサバンの方が少なかったが、 大出血はリバーロキサバンの方が多かったという結果であった。
主要評価項目であるVTE再発をmetしたpositive試験ではあるが、 正確にはその優越性を検証した第III相試験ではなく、 症例数も中規模に留まっている。
VTE再発はアピキサバンの方が少なく、 大出血もアピキサバンの方が少ない傾向という結果であった。
ただし、 主要評価項目である大出血のイベント数は両群で少なく、 アピキサバンの優越性を示すには至っていない。 症例数も、 他の試験と比べて最も小規模になっている。
本試験は、 主要評価項目であるVTE再発でアピキサバンの非劣性を示しつつ、 大出血は同程度という結果であった。
症例数も十分で、 「文句なしのpositive study」 といえる。
上記4試験の主要結果を以下に示す。 これらの試験は①肺血栓症および中枢型深部静脈血栓症を対象にしている、 ②低分子ヘパリンと直接比較している、 ③6ヵ月以上の治療期間を設定しているなど共通項は多い。 しかし、 初期治療の方法や適格規準などで細かな違いがある。
したがって、 横並びの比較は注意が必要であるが、 有効性 (VTE再発) はDOACが、 安全性 (出血リスク) は低分子ヘパリンが優れていそうである、 という全体的な傾向は見て取れる。
次に、 4試験の統合解析の結果を以下に示す¹⁰⁾。 有効性 (VTE再発) ではDOACの方が優れていたが、 安全性 (出血リスク) は低分子ヘパリンの方が優れていた。 なお、 死亡リスクについては同等であった。
4試験の結果を受けて、 海外の主要なガイドラインでは、 CA-VTEの治療は 「低分子ヘパリンもしくはDOACを(3~)6ヵ月以上」 を推奨している。
なお、 有効性のみならず利便性でもDOACが上回るが、 出血リスク (特に消化器・泌尿生殖器がん) を有する場合には、 依然として低分子ヘパリンを優先すべきである、 というただし書きがついていることに注意する。
一方、 国内ガイドラインは「肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断、 治療、 予防に関するガイドライン(2017年改訂版)」が最新であり、 DOACがlevel 1Aで推奨されている¹¹⁾。
低分子ヘパリンが保険収載されてない現状においては、 今日でも 「ワルファリン+未分画ヘパリン」 よりも優先すべきという状況に修正は入らないはずである。
DOACが、 CA-VTEの標準治療薬の1つに位置付けられている。 少なくともワルファリンよりも、 有効性・安全性・利便性のいずれにおいても優れており、 本邦の第一選択薬とするのに全く異論はない。
ただし、 国際的な標準治療薬である低分子ヘパリンよりも有効性・利便性で優れていても、 安全性では劣る可能性がある。
海外では、 未治療消化管がんなどの出血高リスクの患者にはDOACの使用を控えるべきであろうとの位置付けだが、 日本ではその代替案が提案困難であり、 対応には難渋する。
なお、 上記4試験はいずれも 「PEあるいは近位DVT」 を対象にしており、 実臨床で最も遭遇頻度の高い 「遠位弧発DVT」 は除外されていた。
遠位弧発DVTの方が重篤なVTE再発リスクは低く、 相対的に出血リスクとのバランスが取りにくいため、 抗凝固療法の適応はcontroversialであるとして各種ガイドラインでもあまり触れられていなかった。
近年、 無症候性を含む遠位弧発DVTに対し、 エドキサバンを3ヵ月または12ヵ月投与するというランダム化比較試験 (Onco DVT試験) の結果が本邦より報告された¹²⁾。 カプランマイヤー曲線をみると、 3ヵ月治療群では治療終了後よりVTE再発が多くなっている。
一方、 12ヵ月治療群ではVTE再発は抑制されているが、 大出血リスクは3ヵ月以降も増え続けているようである。
2024年4月に、 地元福井大学に異動しました。 臨床腫瘍学、 血液内科学、 腫瘍循環器学、 がんゲノム医療、 リアルワールド研究と多角的な活動をしています。 学生・初期研修医・後期研修医、 Uターンをご検討中の先生、 どなたでも大歓迎です。 ぜひお気軽にお問い合わせください。
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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